第5回:わたしのことなんて、誰も気にしない
2025年6月13日 8:35 AM
整えることで、心がほどける。
ケアされる人の心に寄り添う美容ケア
こんにちは。
国際介護士の上地(ウエチ)です。
この連載では、「整容・美容ケア」が心と身体にどんな変化をもたらすのかを、日々の現場での気づきをもとにお伝えしています。
第5回は、“ケアされる側”の心にそっと寄り添う美容ケアのお話です。
◆「もう私なんて…」のその言葉の裏に
介護の現場で、こんな言葉を聞くことがあります。
「もう年やし、誰も気にしてへんよ」
「おしゃれなんて似合わんし」
「若い人だけでええのよ」
一見、あきらめているように聞こえる言葉。
でも、その奥には
「ほんとは誰かに気づいてほしい」
「まだ私を見てほしい」
という、小さな願いが隠れていることがあります。
◆“整えること”は、心を思い出すきっかけ
ある日、80代の女性にハンドトリートメントをしたときのこと。
無表情だったその方が、
最後にふと笑ってこう言いました。
「若いころ、デートの前にようハンドクリーム塗っとったわ…」
「まさかまたこんな気持ち、思い出すなんてなあ」
その瞬間、目の奥に確かに“その人らしさ”が灯ったのを感じました。
整容や美容ケアは、その人の記憶や感情にやさしく触れる、心のスイッチになるのです。
◆身だしなみは、“存在を尊重されている”というサイン
毎日の介護の中では、どうしても「お世話される」側になってしまいがち。
でも、美容ケアの時間はちがいます。
・どの色が好きか聞かれる
・髪型を一緒に考える
・「きれいになったね」と声をかけられる
それらはすべて、
“あなたの好みや気持ちが大切です”というメッセージになります。
それは、その人の尊厳を守る時間でもあるのです。
◆誰かの「特別な存在」に戻れる時間
ケア美容の施術後、鏡を見ながらそっと口紅を直す姿。
爪を見て、「おしゃれやなあ」と照れ笑いする瞬間。
そういう時間の中で、
「誰かの母」「誰かの妻」ではなく、
“自分自身”としての喜びや誇りがふっと戻ってくることがあります。
それは、その人の人生を、もう一度肯定するケアなんです。
◆「もう誰も気にしてない」は、本当じゃない
介護を受ける方の言葉は、時にとても控えめで、遠慮がちです。
でも、だからこそ気づきたい。
「誰も気にしていない」と言われたら、
「私は気にしてるよ」って、笑って返してあげてほしい。
ほんの一言、
ほんの少しの手間と時間が、
誰かの一日に、そして人生に、大きな光をともすこともあります。
◆家庭でもできる、“尊重を伝える”ケア美容
美容ケアは、施設やサロンだけでなく、家庭でも始められます。
できることリスト
爪を一緒に切って、好きな色のネイルを塗ってあげる
鏡の前で「今日の髪、いい感じやで」と言ってみる
スカーフやアクセサリーを一緒に選んで出かける
「これ似合ってるね」と、必ず声に出して伝える
それだけで、
「私はまだ誰かの目に映っている」
「ちゃんと生きている」と感じられる方がいます。
◆さいごに
年齢を重ねると、できることが減っていく。
でも、美しさや誇り、そして“その人らしさ”は、失われるものではありません。
ケア美容は、
ただ“整える”のではなく、“思い出させる”ケア。
その人が、その人らしくいられるように。
わたしたちができるのは、そのための小さな“気づき”と“声かけ”です。
📌次回予告:第6回「“きれい”って言われて泣いた日 〜ケアする家族のつぶやき〜」
家族の視点から見えた、ケア美容の可能性をお届けします。
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