「お口の健康から全身の健康へ」最近よく目にするようになったフレーズです。それに伴い、フレイル、オーラルフレイルという言葉を一度は目にしたことがある方も少なくないかもしれません。超高齢社会の日本において介護する側もされる側も身近な問題です。ここでは口腔ケアという観点からこれらを覗いていこうと思います。
口腔機能低下を予防することが、要介護への予防の一つ、今回はフレイルとオーラルフレイルについてお話ししていきます。
 

1. フレイルとは

皆様は「フレイル」という言葉をご存知でしょうか。
人は誰しも歳を重ねます。歳をとるにつれ、徐々に心身の機能が低下し、日常での生活活動や自立度の低下を経て介護が必要な状態になっていきます。

この要介護に至るまでの前段階ともいえる、心身の機能の顕著な低下を「虚弱(Frailty)」と言い、2014年に日本老年医学会がこの「虚弱」のことを「フレイル」と呼ぶことを提唱しました。つまり、「フレイル」とは、健康な状態と要介護の状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指します。

フレイルは、
1.筋力低下などの身体の虚弱(フィジカル・フレイル)
2.認知症やうつなどの精神的・心理的な虚弱(メンタル/コグニティブ・フレイル)
3.閉じこもり、経済的困窮などの社会的虚弱(ソーシャル・フレイル)
の3つの側面から構成されます。

2. フレイルの検査・診断

フレイルは健康な状態と介護が必要な状態の中間に位置する状態のことを指すため、身体的、精神的に明らかな異常があるとはかぎりません。

そのため、血液検査やX線検査などを行っても異常が見られないことも多々あります。
フレイルの状態にあるかどうかを判断する指標はさまざまありますが、国際的に用いられているのが、アメリカのLinda Fried(リンダ・フリード)氏らが提唱した以下の5つの項目です。

1.体重減少(意図せず1年間に4.5kgまたは全体重の5%の減少がある)
2.疲れやすい(何をするのも面倒だと感じる日が週に3〜4日以上存在する)
3.歩行速度の低下
4.握力の低下
5.身体活動量の低下
 
この5つの項目のうち、3つ以上が該当する場合を「フレイル」とし、1〜2つ該当する場合をフレイルの前段階である「プレ・フレイル」と診断します。

3. フレイルの原因

フレイルは先述した通り、3つの側面から構成され、それぞれに異なる原因が存在します。

身体の虚弱(フィジカル・フレイル)の原因としては、骨、関節、筋肉など運動器官の衰えによるもので、歩行や立ち座りなど日常生活を送るうえで必要な動作に支障をきたしている「ロコモ」と呼ばれる状態、筋肉量が減少する「サルコペニア」と呼ばれる状態が含まれます。

加齢などにより筋力や筋肉量が減少すると活動量が減り、エネルギー消費量が低下します。すると食欲も湧かなくなり、食事の摂取量が減り、タンパク質をはじめとした栄養の摂取不足による低栄養の状態になります。低栄養の状態が続くと体重が徐々に減少し、筋力や筋肉量もさらに低下します。このような悪循環を「フレイル・サイクル」と呼び、転倒による骨折や慢性疾患の悪化を引き起こし、介護が必要な状態になる可能性が高くなります。
精神的・心理的な虚弱(メンタル/コグニティブ・フレイル)の原因としては、加齢に伴う認知機能の低下や抑うつなど、気分の問題が挙げられます。家事や買い物などさまざまな場面での適切な行動、判断力の低下を招きます。

社会的虚弱(ソーシャル・フレイル)の原因としては、引きこもりや孤食(1人で食事をすること)、経済的な困窮により社会との隔たりができてしまうことによるものが挙げられます。
また、フレイルの特徴は、これらの3つの原因が重なることでさらに状態が悪化していくことです。身体の虚弱によって外出が難しくなり、引きこもりがちの生活になると、社会的虚弱を引き起こします。これらが続くとさらに身体機能や認知機能が低下することにつながり、心身の機能がどんどん衰えていくという負のスパイラルに陥ってしまうのです。
フレイルの原因

4. フレイルの治療

フレイルの有効な治療法はなく、さらなる心身機能の低下を防ぐためのリハビリテーションや生活改善を行う必要があります。

具体的には、プレ・フレイル(前虚弱)の時期、つまり、生活には困っていないが自分自身でも感じる些細な衰えの時期では、しっかり噛んでしっかり食べる、しっかり歩く、閉じこもらずに社会に参加、貢献するなど早期の「予防」が重要です。

要介護の初期段階、つまり要支援並びに要介護1、2の段階においては、しっかりとしたリハビリ、口腔ケア、栄養管理を行い、少しでも外へ出る、といった「自立支援ケア」が必要となります。

要介護(身体機能障害)の時期においては、医療、介護や住まいも含めたトータル・ケアシステムの構築と、生活の質(QOL)を重視した在宅医療介護連携による総合的なサービス提供が求められます。また、最期まで口から食べてもらえるようなケアも重要となります。

5. オーラルフレイルとは

オーラルフレイルとは「口腔の虚弱」のことを指し、口の衰えは身体的、精神的、社会的な健康と大きな関わりを持っているため、噛む力や舌の動きの悪化が食生活に影響を及ぼしたり、滑舌が悪くなることで人や社会との関わりの減少を招くことから、全体的なフレイルとの深い関係性が指摘されています。そのため、口腔機能の衰えは老化の早期の重要なサインとされています。

6. オーラルフレイルの症状

オーラルフレイルはいくつかの段階を踏んで進行していきます。まず、口腔機能への関心が低下し、それに伴い「噛む」、「飲み込む」、「話す」などの口腔機能が低下していきます。食べこぼしや軽いむせ、固いものが噛みにくい、滑舌の悪化、口腔乾燥などの症状が現れます。噛む力や舌の筋力が衰えれば、固いものが食べにくくなり、軟らかい食べ物ばかりを食べることになったり、食欲が低下し、さらに噛む力や舌の筋肉が衰えるといった悪循環に陥ります。結果、低栄養、咀嚼、嚥下障害、さらには全身の機能低下につながり、要介護状態になってしまうこともあるのです。

オーラルフレイルの症状

7. オーラルフレイルの診断

以下のうち、3つ以上自覚症状があるときはオーラルフレイルの危険性があります。
歯科を受診して、口腔ケアや口腔リハビリで改善しましょう。
 
1. 奥歯でしっかりと噛めない
2. 噛むと歯に痛みや違和感を感じる
3. 以前と比べて固いものが食べにくくなった
4. 食べこぼしをすることが増えた
5. むせやすくなった
6. 口が乾燥している
7. 滑舌が悪くなった
8. 1日に歯を磨く回数が0〜1回
9. 定期的に歯医者に行っていない
10. 外出する機会が少なくなった
 
オーラルフレイルの診断

8. オーラルフレイルの予防・対策

噛む力や飲み込む力、舌の筋力を維持するために、口周りや舌の筋肉を鍛える体操を行いましょう。滑舌の改善や表情筋と言われる筋肉も鍛えられ、表情が豊かになったり、シワができにくくなる効果も期待できます。

 また、唾液の分泌量を増やすために、水分を補給し口の中を潤す、レモン、梅干し、昆布、納豆などの唾液の分泌を促進する食べ物を積極的に摂取しましょう。口呼吸は口腔内を乾燥させるため、鼻呼吸を心がけ、唾液腺のマッサージを行うことも重要です。
唾液には口の中の粘膜を保護する、細菌を洗い流す、食べ物を飲み込みやすくするなどの作用があり、むし歯や歯周病、口臭の予防にもつながります。
加齢とともに唾液量は減少するため、唾液の分泌量を増やすことが大切です。
 
オーラルフレイルの予防・対策

9. まとめ

今回は年齢を重ねるとともに誰もが陥る可能性がある「フレイル」「オーラルフレイル」について、症状、原因、予防とともにご紹介しました。上記にもあるように、フレイルは進行すると介護が必要となりますが、可逆性であるため、しっかりと状況を把握し、適切な評価、リハビリテーション、予防を行うことが大切です。
この記事の提供元
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著者:石井亮太

医療法人社団木津歯科 オーラル&マキシロフェイシャルケアクリニック横浜、医療法人社団杏仁会 石井歯科医院、勤務。みなとみらいで再生医療などの先進医療に携わる傍ら、横浜市郊外の実家では、訪問診療を含めた地域に密着型の歯科診療に従事している。

<所属学会>
日本顎顔面インプラント学会、日本口腔インプラント学会、日本再生医療学会、日本歯周病学会

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