家族の介護では、「ラクな介護を目指そう!」「がんばらない介護が大切」とよく言われます。でも実際に介護をしている人たちからは「そんな甘いものではない」という声が聞こえてきそうです。

 そうかもしれません。それでも家族は、少しでもラクな介護、がんばりすぎない介護をやはり求めたい。そのために必要なことは何でしょう? 

 それは、介護の捉え方、介護への関わり方を、自分であらかじめ決めておくことだと思います。今回は、その方法をご紹介します。
 

1. 介護とは「暮らしを支える」こと

 介護と聞くと、食事の介助や入浴介助、トイレの介助、おむつの交換等々、体が動きにくくなった人の世話をするというイメージをもつ人が多いと思います。しかし、こういった身体的な介護が、すぐに始まるとは限りません。むしろすぐに始まらないことのほうが多いでしょう。そうした身体的な介護をまだ必要としない段階からでも、年齢とともにできなくなることが少しずつ増え、ちょっとした手助けが必要になっていきます。家族の介護は、実はこの段階から始まっていると考えたほうがいいのです。本人だけではできないことが少し増えてきた段階から、暮らしを支える意識をもち、家族の介護の始まりと捉えるのです。

 私は、10年前に実父の介護と看取りを経験し、その後は現在91歳になる実母(要支援)をサポートする生活を、同居しながら10年以上続けています。また、民生委員として地域の高齢者の方々の見守り支援を約10年間させていただいています。

 このような経験から、介護を上手に乗り切るには、本人の「暮らしを支える」という視点が大変重要であると実感しています。

 なぜなら、本人に少し変化が見られた頃から暮らしに関わり始められれば、次第に身体的な介護が必要な状態になっても、突然のことではなく、暮らしのなかでの自然な流れと捉えることができ、介護に対する精神的なハードルを下げられる可能性があるからです。

 高齢者は、同じ病気になっても、似たような怪我をしても、みんなが同じ状態になるわけではありません。持病の影響や筋力の有無などによる個人差が、とても大きく影響するからです。そのうえ日々の生活は、長年にわたる生活習慣、趣味嗜好、得意なこと、苦手なこと、性格などの基に成り立っています。着替えの順序、歯磨きや入浴の段取り、食事の好み、使用してきた日用品、その他暮らしに根付いたこまごましたこだわりも持っています。そういった暮らしのあれこれを、可能な範囲でかまいませんので、早い段階から少しずつ見つめ始めることが、家族の介護の始まりです。
 
介護とは「暮らしを支える」こと

2. 「変化を受け入れる」という家族の課題

 家族介護の課題の一つに、本人の変化を受け入れづらいというのがあります。

 これまで介護ライターとしてさまざまな介護記事を書いたり、取材で話をさせていただいたりしてきましたが、「変化の受け入れ」というテーマについて取り上げられることはほとんどありません。しかし、家族介護では非常に大事なポイントです。

 例えば、久々に会った親の状態にショックを受けた経験がある人は、けっこういるのではないでしょうか。特に認知症の症状がみられたときは、本人が元気な頃の姿を知っている家族にとって、変化の受け入れに時間がかかることは少なくありません。プロの介護職と異なる家族ならではの課題です。

 本人の変化を受け入れられないまま暮らしを支えるのは、つらいものです。私自身の経験も踏まえながら、受け入れ方について探り、今後の記事でお伝えしていきたいと思っています。
 

3. 介護へのかかわり方は「人生の選択の一つ」

 介護生活がどれくらい続くかは誰にもわかりません。思っていたよりも短いかもしれませんし、思いのほか長くなる場合もあります。どっちに転んでもいいように、自分の生活の中において、介護をどう位置づけるか考える必要があります。

 大げさに聞こえるかもしれませんが、就職や結婚、子育てなどと同じレベルで、「介護も人生の選択の一つ」としてとらえてみるのです。

 介護で問題に直面したときは、介護ができるかどうかを悩む人が多いのですが、介護はできるかできないかではなく、するかしないかです。すると決めたらする方法を考え、しないと決めたらしない方法を考える。「介護は社会全体で担う」ことを目的に、2000年介護保険制度がスタートしました。プロに全面的にサポートしてもらいながら在宅で一人暮らしをしている要介護の高齢者もいます。必要に応じてプロのサポートを得られる社会制度になっていますので、家族や親族と相談しながら、プロの手を借りて自分はどれだけ介護に関わるかを自分で決めることが大切です。

 「介護も自分の人生の選択の一つ」と捉えることができれば、就職や結婚などと同様、他人からとやかく言われても気にしない選択をすることができるのではないでしょうか。
 
介護へのかかわり方は「人生の選択の一つ」

4. 介護の優先順位を何位にする?

 家族の介護に大きくかかわると決めても、やみくもに今の生活に介護をプラスすると、自分自身の生活が崩れるリスクが大きくなってしまいます。

 子どもが生まれたら仕事と子育ての両立を工夫するように、介護と仕事、介護と子育て、介護と自分の家庭、などの両立を実現するために、介護を優先順位のどこに置くかを決めましょう。サポートし合える家族の存在や協力の有無、遠距離か同居などの条件は人それぞれです。職業や働き方によっても違います。自分の事情に応じて決めることが大事です。

 ちなみに、現在の私の優先順位は、1.90代の母のこと 2.仕事 3.地域活動(民生委員活動) 4.趣味や遊び となっていて、この優先順位を意識しながら暮らしています。そうすると、予定や物事が被っても迷うことが少なく、相手に希望を伝えられます。周囲に多少迷惑をかけることもありますが、お互いさまというお付き合いができるように努めています。そのために、介護をしていることをオープンにすることも重要です。

 家族介護では、本人の暮らしも、介護する家族の暮らしも、どちらも同様に大切です。互いの暮らしのバランスを保てる方法を探りましょう。
 
介護の優先順位を何位にする?

5. 介護をみんなで語ろう

 介護で悩んでいる人には、いろいろな段階の人たちがいます。介護はまだ始まっていないけど不安な気持ちでいっぱいな人、久々に会った親の変化に気づいた人、次第に衰えていく状態に接して辛い思いをしている人、介護が始まり自分の時間が奪われて困っている人など、様々な状況の人がいるでしょう。

 介護制度のしくみや介護サービス情報については、関係本がたくさん出版されていますし、インターネットで調べることもできます。しかし、暮らしを支えること、本人の変化を受け入れること、介護を人生の選択の一つとして捉えること、これらにまつわる個々の悩みを解決するためのヒントを見つけ出すことは、なかなか難しいものです。
 
 介護サービスや支援制度の情報共有も交えながら、一人ひとりが不安な気持ちを吐き出すことができ、同じような悩みや思いを持つ人と話す場所があったら、気持ちが楽になったり、解決や判断するヒントを見出すことができるのではないでしょうか。

 MySCUEでは、それぞれが自分流の“介護がある生活”を見つけていただけるようコミュニティを用意しています。参加してくださるみなさまと意見を交わし合い、それぞれの“介護のある生活”を見出して欲しいと思っていますので、ぜひ私のコミュニティも覗いてみてください。
 
 コミュニティで語り合われた内容から、みなさまの介護のヒントになる情報や考え方をまとめた記事を発信していきます。
 
 介護の悩みは十人十色です。似たような悩みに見えても、他に人に当てはまるヒントが自分に当てはまるとは限りません。
 
 いろいろなお立場のみなさまのことを思い浮かべ、私の介護経験と高齢者支援の実体験から得た考えを交えながら、お一人お一人の悩みに寄り添える記事を書いていきたいと思っています。

6. 浅井郁子のコミュニティはコチラ

この記事の提供元
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著者:浅井郁子

90代の実母と同居しながら、民生委員として地域の高齢者の支援活動をしている介護・福祉ライター。1960年生まれ。音楽会社に長年勤めた後、30代後半からフリーライターとして活動。40代後半に実父の介護が始まって看取りまで離職経験あり。書籍『突然の介護で困らない!親の介護がすべてわかる本』(ソーテック社)発売中。

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