1. そもそも「民事信託」って何?
民事信託とは、不動産や金融資産などの財産の所有者が委託者となって、信頼できる受託者にその財産の名義を移転することによって信託し、その受託者が信託契約で定めた目的にしたがって財産を管理する制度を指します。つまり、家や土地、株式などを持っている人が、何らかの事情により、信頼できる人に自身の財産の管理をお願いしたい場合に、管理上の制限や運用の目的をあらかじめ定めた上で相手に名義を移転するやり方といえます。
自身の財産を任せた委託者は、受託者が信託財産の利用または管理財産の運用によって生み出した運用益を、受益者として受けることもできます。
2. よく聞く「成年後見制度」との違いは?
高齢化や認知症により正常な判断が難しくなった場合の制度としてよく耳にするのは、民事信託より「成年後見制度」ではないでしょうか。
成年後見制度は、財産を保有する個人が、裁判所の管理下で自身の利益のためにその財産を管理することができます。財産を管理する成年後見人を選ぶ方法には、本人の判断能力がなくなる前にあらかじめ後見人となる人を契約により決めておく「任意後見」と、親族などの申し立てにより裁判所が後見人を選任する「法定後見」の2種類があります。財産を保有する個人が、正常な判断を下すことが難しくなった後でも正当な手段で財産の管理者を決めることができるため、認知症を患う方が増えた今、よく耳にする制度と言えるでしょう。
個人の財産を守るという意味では、成年後見制度も民事信託も有効な手段と言えますが、成年後見制度は財産を守るための管理はできるものの、生前贈与や生命保険契約、資産の運用などを行うことはできません。また、本人の死後に行われる財産の分配や、二次相続以降についての財産の承継などを決めておくこともできません。ここが、民事信託との大きな違いなのです。
3. 資産運用や複数代にわたる承継も? 民事信託4つのメリット
民事信託には、4つのメリットがあります。本章では、それぞれのメリットについて説明します。
■ 委託者本人の意思を信託契約に反映できる
信託契約には、「信託の目的」、「資産の承継」、「信託財産から生じる利益の分配方法」などを記載することができ、それらには委託者の意思を反映することが可能です。信託契約があれば、認知症の発症などで委託者の判断能力が低下した際、委託者の意思に基づき、受託者に財産管理をしてもらうことができます。
■ 運用や分配の方法も契約で指定できる
民事信託では、積極的に資産運用を行い、収益を確保することができます。また、契約の内容によっては、本人が生存している間に、財産の管理から処分に関するさまざまな内容を決めておくことができるため、贈与と同様の効果をもたらすことも可能です。
■ 複数代にわたる相続を設定できる
民事信託では、複数代にわたり受益者や相続人を決めておくこともできます。遺言でも、自分の死後の遺産相続について定めておくことはできますが、その次の代の相続については指定することができません。「後継ぎ遺贈型の受益者連続信託」を活用すれば、契約時に本人が亡くなった後の受益者を同時に決めておくことで、委託者から指定された者に承継することができます。信託開始から30年後に、新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで(信託法第91条)は、当初の委託者の意思に従い、順次承継が行われます。
■ 個人財産と信託財産を分けて管理することができる
民事信託では、信託財産を「所有権」と「管理処分権」に分別して管理することができます。このことは、委託者の固有の財産からも受託者の固有の財産からも、切り離して扱えることを意味します。つまり、委託者の破産や会社の倒産の影響も、受託者の破産や会社の倒産の影響も受けません。また、受託者は信託財産の管理処分権を保有しているため、受託者自身の判断で不動産の売却などを行うことができます。売却によって生じた収益は、複数の受益者に分配することができるため、贈与のような効果をもっています。
4. 知っておこう!民事信託を行う手順
民事信託を行うには、3つのステップを踏む必要があります。この3つのステップを踏む際は、司法書士や税理士にご相談することをオススメします!
Step1:信託契約の作成
まず初めに「信託契約」を作成します。信託契約では、「委託者」、「受託者」、「受益者」を決める必要があります。また、信託の目的や資産管理の方法、収益の分配方法の他に、相続が発生したときの資産や事業の承継先などを盛り込むことも重要です。委託者、受託者のほかにも、受益者を保護するための「監督人」、「受益者代理人」などを設置する例もあります。通常、契約当初は委託者と受益者が同一人物になることが多いです。
Step2:公正証書の作成
信託契約は、公正証書にするのが一般的です。そのため、信託契約の内容が固まり次第、公証役場で公証人による証明を受け、公正証書にします。
Step3:口座開設と各種信託財産の名義の変更
信託財産を管理運用するためには、受託者が財産を管理・運用するための信託口の口座を開設する必要があります。また、金融資産や不動産については、委託者から信託財産として受託者名義へ変更する手続きも必要です。不動産は、不動産の所有権移転登記、信託登記の手続きを行います。
信託財産の名義を受託者名義に変更した時点から、受託者の独断で金融資産の運用や不動産の賃貸収益などを管理・運用できるようになります。