1. 家族が「認知症かも?」と思ったら
認知症は、高齢化社会において避けては通れない重要な課題です。アルツハイマー病をはじめとする認知症の原因疾患に対する原因・治療・予防の医学研究が進められていますが、残念ながらその根本の原因はわかっておらず、完全治癒することは現在のところできません。
「家族が認知症かもしれない」と思ったら、まずは普段からご本人の体調や生活をよく知っているかかりつけ医に相談しましょう。かかりつけ医が認知症の専門医でなくても、そうした専門医を紹介してくれます。かかりつけ医がいない場合は、神経内科や「物忘れ外来」で診てもらえるほか、地域包括支援センターに相談してみるのも有効です。
2. 認知症検査と診断の流れ
診断は、問診、診察、検査を経て総合的に判定されます。このうち、重要なのは問診です。専門医は認知障害の状況、生活状況、既往歴、服薬状況などを聞きますが、それ以外にもご本人が入室する動作や歩き方、挨拶のしかたなどを細かく観察します。ご家族はいつごろ、どんな状況でどんな症状が現れたかなど、具体的な情報をメモしておくと問診がスムーズに進みます。また、ご本人は問診では普段よりしっかりとした受け答えができることも多々あります。普段の生活の様子をきちんと専門医に伝えることが大切です。
診察では、体温、血圧、脈拍、呼吸などの検査や、四肢の運動や感覚障害など神経学的な診察などを行います。頭部のCTやMRIの画像検査では、脳の委縮や脳梗塞・脳出血の有無などを調べます。どのタイプの認知症かを診断するのがSPECT(スペクト)による「機能画像検査」で、脳の血流の状態を調べることで認知症の原因疾患を診断します。また、認知症簡易評価スケール「長谷川式認知症スケール」が認知症の診断に広く利用されており、認知機能の低下を診断する際の参考とされています。
3. 「長谷川式認知症スケール」ではこんな質問をされます
問1.歳はいくつですか?
問2.今日は何年の何月何日ですか? 何曜日ですか?
問3.私たちが今いるところはどこですか?
問4.これから言う3つの言葉を言ってみてください。
あとの設問でまた聞きますのでよく覚えておいてください。
問5.100から7を順番に引いてください。
問6.これから言う数字を逆から言ってください。
問7.先ほど覚えてもらった言葉(問4の3つの言葉)をもう一度言ってみてください。
問8.これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言って下さい。
問9.知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。
4. 薬による治療と、薬を使わない行動療法
認知症の治療方法は基本的には薬による治療で、原因疾患そのものの治癒ではなく進行を遅らせることを目的とした「抗認知症薬」が使われています。
アルツハイマー型認知症の「抗認知症薬」には、ドネペジル(製品名=アリセプト)、ガランタミン(同=レミニール)、リバスチグミン(同=リバスタッチ、イクセロン)、メマンチン(同=メマリー)の4つが使われています。処方された薬がどんな薬なのか、ご家族は医療者にきちんと確認しましょう。
高齢者の場合、認知症そのものに対する薬のほかに、降圧剤、糖尿病薬、脂質異常症薬、向精神薬など複数服薬することが多く、ケースによっては副作用が無視できないものもあります。医師と相談しながら、向精神薬などは特に最小限度から始め、状態を観察しながら処方を受けるなどの注意が必要です。
抗認知症薬に期待できる効果は100%とはいきません。一定期間を過ぎると症状に応じて処方された量を服用しても病気が進行してしまうこともあります。薬を使わない「行動療法」には医学的な立証は難しくても脳を活性化させる効果があります。認知症で出現する症状のうち、行動・心理症状(周辺症状)を改善させるのではと考えられています。
ご本人がよく聴いていた音楽を流す「音楽療法」、ペットによる「アニマルセラピー」、絵画や詩、俳句などに取り組む「芸術療法」など、自宅でできる行動療法はたくさんあります。ご本人が好むもの、楽しめるものを選ぶのがポイントです。
※この記事は2023年4月時点の情報をもとに作成されており、制度内容等は変わる場合があります。