医療機関では食事を摂らなくなった原因を特定し、体調を元に戻すために次のような選択肢を提案されることがあります。何を優先して治療を選択したらいいのか、メリットとデメリットを含めて説明していきます。
1.人工的な補助栄養を施す
メリット
・食事が摂れなくなっても点滴や経管栄養で栄養補給ができる
・食事の時間を短縮できる
・生命維持ができる
デメリット
・口やのどを使わないため食べるための機能が低下する
・人工栄養に依存すると中止するタイミングがつかめない
・肺炎を起こすリスクがある
・細菌感染を起こすリスクがある
・定期的にチューブや針の入れ替えが必要になる
人工的な補助栄養にはどのような種類のものがあるのでしょう。提案される代表的な人工栄養について説明していきます。
①点滴法
メリット
・水分の補給や一時的な食欲低下には効果的
・必要な薬剤を体内に入れることができる
・消化管を介しないため胃腸を休めることができる
デメリット
・消化管を使わないため、消化吸収能力はさらに低下する
・身体に入る水分量が多いと体内に水分が残り、むくみを起こしたり、肺に水がたまり呼吸が苦しくなる場合がある。
・針やチューブを体内に入れるため定期的な入れ替えが必要。
・末梢点滴
一般的に点滴とは、末梢点滴を指します。手足の血管に針を入れて行う治療法で、医師や看護師が点滴の抜き差しや管理を行います。栄養のある高カロリーの点滴は成分が濃く、手足の血管から入れると血管炎を起こしてしまうため、末梢点滴で入れることができるのはほとんどが水分です。
脱水を改善するために、水分補給や抗生剤の投与を行うときに有効な治療法で、あくまでも「一時的なもの」という認識がポイントです。
・中心静脈栄養
首や足の付け根の太い血管から、心臓の近くまでチューブを通して行う点滴です。太い血管のため、高カロリーで栄養のある点滴を行うことができます。輸血やアルブミンといった、特殊な栄養剤を入れることも可能です。
特殊な栄養剤を入れることはできますが、その反面、管理が難しくなります。また、チューブを入れたところからの細菌感染は、重篤な感染を引き起こす可能性もあるため清潔にを保つ必要があります。
さらに、高カロリー輸液はゆっくりと投与する必要があるため24時間かけて行う必要があり、そのため活動が制限されます。
②経管栄養法
管を消化管に入れて行う栄養法で、体の消化吸収能力を利用します。
・経鼻栄養
鼻から胃までチューブを通し、栄養剤を入れる方法です。
メリット
・口やのどを使うことなく直接胃に栄養剤を入れることができる
・飲み込みが弱くなった方でも栄養を改善することができる
・胃腸を使うため免疫機能が保たれる
デメリット
・チューブの太さが限られているため液状の栄養剤しか使用できない。
・栄養剤が逆流しやすく肺炎を起こす危険性がある。
・チューブの違和感が鼻やのどにあるため自分で抜いてしまう場合がある。
・胃ろう
内視鏡や手術でおなかから胃に穴をあけてチューブを通し、直接胃に栄養剤を入れる方法です。
メリット
・チューブが鼻やのどを通らないので違和感や不快感がない
・半固形の栄養剤を使用できる
・指導を受ければ在宅でも管理ができる
・口からの食事と併用して使用することも可能
デメリット
・チューブの定期的な交換が必要
・定期的な交換が必要
・挿入している部分と皮膚が圧迫されて潰瘍ができることがある
・腸ろう
胃を手術した、または内臓の位置などにより、胃瘻を作ることが難しい場合に行います。
メリット
・望めば口からの食事を行うことができる
・肺炎の危険性が低い
デメリット
・チューブの交換の際、自然に抜けてしまうと医師が処置する必要があるため、入院が必要
・栄養剤の吸収に時間がかかり、時には下痢になることがある
・チューブを入れた部分から腸液が漏れて皮膚のトラブルを起こすことがある
2.自然な経過を見守る
メリット
・好きなものを好きなだけ食べるので本人の負担が少ない
・肺炎を起こす危険性が低い
・チューブや栄養剤を管理する必要がないため経済的負担が少ない
デメリット
・栄養が入らないため低栄養となる
・活動量が減るため介護が必要となる
・生命活動が維持できない
高齢者が食事を摂らなくなった時、現在はさまざまな選択肢があります。人工栄養を選択するのも、自然な経過を見守るのも、どちらにもメリット・デメリットがあります。
昔は今のように、たくさんの選択肢はありませんでした。「口から食べられなくなった」ということは、「寿命である」と考えられていました。
食べられなくなった理由はその人によって違います。今後、たどる経過も人それぞれであるため一概にどの選択肢がいいかは判断できないと思います。年齢、病気の状態、予後、本人の意見などを考えて判断していく必要があります。