脳梗塞といった病気の後遺症や加齢に伴い、食べ物を飲み込む筋肉や、反射能力が衰えていきます。食事を十分に摂ることができず、体重が減少したり、筋力が低下したり、場合によっては、肺炎や窒息といった、いのちに関わる危険性が生じます。

今回は飲み込みが低下したときの対処法について触れていきたいと思います。
 

1. 飲み込む力が弱くなると起こる症状

飲み込む力が弱くなると、どのような症状が表れるのでしょうか? 次に紹介する症状が複数個ある場合は飲み込む力が弱くなっている可能性があります。

①食事中にむせる
飲み込む力が弱くなると、食事中にむせることが多くなります。特に水分を含んだ食べ物を食べるとむせやすくなる場合は要注意です。

通常、食べ物を飲み込むときは、喉仏が持ち上がり、気管を閉じますが、飲み込む力が弱くなっていると気管を塞ぐことができません。その結果、気管に食べ物が入りやすくなり、むせるようになります。また、食べ物が気管に入りやすくなることで、窒息の危険性が高くなるため、危険なサインといえます。
 
②食事に疲れるようになる
飲み込みに時間がかかるようになると、食事をすることに疲れてしまいます。食後に疲れている、なんとなくぐったりしているなどの場合は要注意です。

食べ物を飲み込みにくくなると、口に入れて噛むときに時間がかかるため、食事をする時間も長くなります。その結果、食事のときに疲れて、ぐったりしていることが多くなるのです。
 
③軟らかく、噛まずに食べられるものを好む
口の中で、食べ物をひとまとめにすることができないと、飲み込みにくくなります。特に硬い食べ物は、しっかり噛まないと飲み込みにくいので、意識的に避けるようになります。その結果、ゼリーや麺類、お粥といった軟らかく食べやすいものを選ぶ傾向も特徴的です。
飲み込む力が弱くなると起こる症状

2. 飲み込みむ力が弱いなと思ったら

1.食事時間の、どのタイミングで発生するのかを観察する
飲み込む力が悪くなると、むせるような咳が出てきます。むせるような咳をするのは、食べ物が気管に入ったサインです。咳が出るタイミングによって、原因は2つに分けられます。
 
①食事前半
食事を始めてからすぐに咳をする場合は、飲み込むタイミングが合わなくて咳をする場合があります。また、飲み込む力が弱っているため、今の食事の形態が合っていないかも知れません。かかりつけの医療機関や訪問看護師へご相談ください。
 
②食事後半
食事を開始して、最初は咳をすることなく食べていたけど、食事が進むにつれて咳が出てきた場合は、疲れが出てきた可能性があります。

一時休憩して様子をみたり、一口分の量を少なくしてみたり、口に運ぶペースを遅くしてみるなどの工夫をしてみてください。飲み込む力が弱いからゆっくり時間をかけて食べらばいいわけではなく、食事をする時間を区切る必要があります。その人の体力や持久力にもよりますが、一つの目安は30分です。長くても1時間以内で区切りを付けましょう。
 
2.トロミをつける
口に中で食べ物をまとめることができず、飲み込みむ力が弱い場合があります。また、高齢者の場合、食べ物をひとまとめにする働きのある唾液の分泌が少ないこともあります。

トロミを使うことで飲み込みがしやすくなり、唾液の働きを補ってくれます。トロミは片栗粉や市販のトロミ剤を使って作ることができますが、その人の飲み込み力のレベルにあったトロミの粘り気の度合いがあります。トロミが弱すぎるとむせてしまうし、強すぎると飲み込めずに気管に入り、窒息の危険性もあるため注意が必要です。判断に迷ったときはかかりつけの医療機関か訪問看護師へご相談ください。
飲み込みむ力が弱いなと思ったら

3. 飲み込みにくさを改善する方法

①飲み込みやすい食事を提供する
その方の飲み込む力に合った、食べやすい形態の食事を作ることが大切です。口の中で食べ物をひとまとめにできず、飲み込むことが難しい場合は食べ物を軟らかくしたり、細かくしたりする工夫が必要です。

ゼリー状にしたり、濾したりすることで食べやすくなります。本人にとって、飲み込みやすい食事形態については、かかりつけの医療機関にご相談ください。言語聴覚士や栄養士など、専門スタッフが食事についてアドバイスしてくれます。

②食事のときの環境・姿勢に注意する
食事内容に工夫は必要ですが、食事のときの環境や姿勢も大切です。周囲の話し声やテレビに意識がいっていたりすると、飲み込むことに集中できない場合があります。

食事中はテレビを見ずに、落ち着いて食べられるように環境を整えていきましょう。また、姿勢が崩れていると飲み込みがしづらくなり、むせやすくなるので姿勢のチェックも行いましょう。食事の途中で、疲れて姿勢が崩れることもあるため、体が傾いて、前かがみになっていたら元の位置に戻してあげましょう。

③食べ方に気を付ける
飲み込む力が低下していると一度に多くの食べ物をのどに送ることができず、むせや窒息の危険が高まります。
口に運ぶ量を調整する際の観察点としては
以下のポイントがあります。

・口に入れる量が多くないか
・口に入れた時に噛む時間が長くないか
・飲み込みはうまくできているか

これらをチェックして本人へ声かけを行い、必要であれば、スプーンを小さなものに変更するといった工夫をすることで口に運ぶ量を調整できます。また、落ち着いてゆっくり食べられるように時間に余裕をもって準備することも必要です。
 
④口の中の環境を整える
食べるためには噛んだり、飲み込んだりするだけでなく、口の中の環境を整えることも大切な役割を担っています。口の中が乾燥していると、唾液が出にくくなります。食べ物を、かたまりにして飲み込むことができないほか、細菌が入り込む機会を作り、肺炎を引き起こすリスクもあります。

そのため、歯磨きやうがいは重要です。また、食事前に口の中を水分で潤すことが刺激となり、唾液の分泌が増えるとともに目が覚めて食事を認識することができ、飲み込みやすくなる場合があります。

入れ歯を使用されている方は毎食ブラシで磨いて、寝る前に入れ歯洗浄剤で汚れを落とし、入れ歯を清潔に保つことをおすすめします。

4. まとめ

飲み込む力が弱くなってくると、楽しみでもある食事が満足にできないほかうえに、栄養不足で体重低下や筋力低下、体力低下につながり、日常生活を送っていくうえで支障がでてきます。さらに、気管に食べ物が入りやすいと肺炎や窒息の原因となるため危険です。食事のときに、むせてないか・、飲み込めているかを確認してください。

飲み込む力が弱い場合は、リハビリテーションを通して維持・改善することが期待できます。専門の医療機関もあるので、かかりつけの医療機関へご相談されることをおすすめします。
この記事の提供元
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著者:渡邉 加代子

看護師歴24年目。これまで急性期(整形外科・外科・脳外科・内科・循環器)病棟での勤務を経験。7年前に現在の職場に転職し、回復期リハビリテーション病棟は配属となる。4年前から栄養サポートチームに所属し、各専門職と協力して週1回、入院患者様の栄養ケアを行っている。今後は、退院先での適切な栄養ケアが継続できるようにパンフレットの作成や地域高齢者を抱えるご家族への栄養相談や講座の開催を考えている。

【所属】
一般社団法人 日本ナースオーブ所属 ウェルネスナース

【執筆】
食と健康について考えるブログ/note

【講座】
Wellnessチャートで賢くやせる/ウェルネス講座

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