介護はチーム戦です。ケアマネジャーをはじめとする介護支援の専門職と協力し、サポートを受けながら進めていくことが大切です。家族だけで、ましてや一人だけで抱え込むものではありません。

 

実際に介護を終えた方の多くは「周囲に支えてもらえた」「助けられた」と振り返ります。一方で、介護のさなかにある方からは、「相談しているのに、期待する対応が得られない」「話は聞いてもらえるが、状況が変わらない」という声も届きます。

 

多くの相談に耳を傾ける中で、ある共通点に気がつきました。

1. 事例から学ぶ:Dさん(50代・女性)のケース

東北地方在住のDさんは、仕事をしながらレビー小体型認知症と診断された母親(80代)を介護しています。レビー小体型認知症は認知機能の変動が大きく、初期段階から幻視や幻聴が現れることがあります。母親は着替えや食事、トイレなど自立していますが、「ネズミが部屋を走り回っている!」といった幻視・幻聴の訴えが増えてきました。不安の強まりからか感情の起伏が激しくなり、Dさんに対して「なんで何もしてくれないの!?」「娘を産んだのに、あんたはほんと役に立たない。私は育て損だ!」と理不尽に責め立てるのです。

「一番つらいのはお母さんなんだから……」と、母親の不安に寄り添おうとしてきたDさんでしたが、毎日のように罵倒され、精神的に消耗していました。

Dさんは、ケアマネジャーに「毎日、母からひどいことを言われてつらい」と胸の内を打ち明けました。しかし、返ってくるのは「そんなこと言われたらつらいですよね」「よく頑張っていらっしゃいますよ」といった、ねぎらいや共感の言葉ばかり。実質的な負担を軽くする対策を教えてくれません。「欲しいのは、慰めとか共感じゃないのに……」。Dさんは、次第にケアマネジャーに何も話さなくなりました。

最近の母親は、パーキンソン症状によって手足が震え、着替えがうまくできなくなり、転倒も増えています。Dさんへの八つ当たりも強まってきました。「もう、自分一人でお母さんを支えるのは無理だ」。そう感じながらも、Dさんは「相談しても、どうせ何もしてもらえない」と、諦めかけていました。


介護疲れ

2. 「何度も相談しているのに、動いてもらえない……」

Dさんのように、「介護の大変さを伝えたのに、きちんと対応してもらえなかった」「慰めや共感ではなく、具体的な対策を教えてほしかった」とのお声は、多く寄せられます。

このようなご相談を受けた際、私が必ず確認するのは、「ケアマネジャーや行政に相談することで、どのような結果や変化を期待しているか」という点です。

なぜなら、つらい状況を理解してもらおうとするあまり、介護の大変さや出来事の詳細な説明に意識が向きすぎ、「どんな支援を望んでいるか」「どう対応してほしいか」といった「相談の目的」が伝わっていないケースが多いからです。

Dさんにも「相談することで、どんな結果になるといいですか?」とお訊ねしたところ、「母の暴言に疲れているので、母と離れる時間が欲しい」と答えてくれました。

さらに話を重ねていくと、「本当は、在宅で介護することに限界を感じています。施設入居のタイミングについても相談したいんですけど、自分の都合で施設入居を決めていいのか、もっと在宅で頑張れるんじゃないのかと考えると、つらいんです……」と、本音を話してくれました。

一方で、「ケアマネジャーに、どのようなお話をなさいましたか?」とお訊ねしたところ、「母の暴言や、トイレの失敗について説明しました」とのことでした。

Dさんは、自分自身が限界を感じていること、心身が消耗していることを理解してほしくて、母の問題行動について詳細に伝えておられたようです。しかし、その背景にある「本当の目的」がケアマネジャーには伝わらず、「愚痴を聞いてもらいたい」と受け取られていた可能性がありました。

3. 伝え方を変えたら、支援が動き出した

そこで私は、Dさんに「もう在宅介護は限界です。施設入居も考えています。これから、どう動けばいいか教えてほしいです」と、希望している対応を明確に伝えるようアドバイスをしました。

すると、ケアマネジャーからは「認知症グループホームなど、お母さまが利用できる施設の一覧表をお持ちしますね」と、これまでとは全く違う具体的な話がすぐに出てきて、Dさんは驚いたそうです。

後日、ケアマネジャーからは、施設入居は原則として本人の意思を尊重するが、病状や健康面、リスク面を考えて家族主導で施設入居の手続きを進める場合もある、といった説明を受けました。

Dさんはその説明を聞きながら、「母はもう、施設入居のタイミングが来ていたんだ」と驚いたと同時に、自分が「施設入居が必要な状況になったら、ケアマネジャーから提案されるはず」と思い込んでいたことに気がつきました。

その後、Dさんの母親は認知症グループホームへの入居が決まりました。新しい環境で混乱し、暴れるのではないかとDさんは心配していましたが、意外にも施設を気に入り、自宅にいた時よりも機嫌良く、落ち着いて過ごしているそうです。

Dさんは、「どれだけ大変かをわかってもらえたら、相手が動いてくれると思い込んでいました。具体的に何をどうしたいか、どんな助けが必要なのかを言葉にしないと、相手も動きようがないんですね」と振り返っておられました。

4. 意図を伝える3つのポイント

困難な状況にあると、「こんなに大変だと伝えているのだから、専門職として対策を考えてくれるはず」と思いがちです。しかし、日々の介護に追われて余裕がない介護者は、自分では相談しているつもりでも、解決に向かう形での相談になっておらず、意図が十分に伝わっていないケースがあります。どれほど大変さを伝えても、相談する側が「どのような情報が欲しいのか」「どんな対応を求めているのか」を具体的に言葉にしなければ、支援者は動くことができないのです。

状況を察して、先回りして動いてくれる支援者もいますが、時に相談者側の意図とはズレた提案や対応をされることもあり、かえってすれ違いやトラブルにつながってしまいます。

相談の前に、
・今一番困っていることは何か
・このままの状態が続くと、どうなりそうか
・一番避けたい状況は何か
この3つを書き出して整理してみると、相談の目的をまとめやすくなります。

相談すること自体、コミュニケーションのスキルや意欲、そしてエネルギーを必要とします。困難な状況であればあるほど、相談する気力も尽きかけていることでしょう。これまで、期待した対応が得られなかったのであれば、「どうせ無理」「相談しても無駄だ」と感じてしまうのも自然なことです。

それでも、ぜひ一度「具体的に伝える」ことを意識して再挑戦してみてほしいです。


「もう限界、できるだけ早くショートステイを利用したい」「夜間のトイレ介助の負担を減らす、具体的な対策案を教えてほしい」といったように、してほしいことを添えて伝えることで、支援の内容や対応が大きく変わったケースは多いです。

困ったときに、思い出してもらえたら嬉しいです。

 

写真:freepik、ピクスタ




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この記事の提供元
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著者:橋中 今日子

介護者メンタルケア協会代表・理学療法士・公認心理師。認知症の祖母、重度身体障がいの母、知的障害の弟の3人を、働きながら21年間介護。2000件以上の介護相談に対応するほか、医療介護従事者のメンタルケアにも取り組む。

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