1. 認知症介護~お薬を正しく飲めない3つの原因に対処する
認知症の方の介護をされる方から「なかなかお薬を正しく飲んでもらえない」というお悩みをお聞きします。
これには大きく3つの原因があり、
1.認知機能の低下により、正しい時間に正しい量を服用することが難しい
2.そもそも服用したかどうかを忘れてしまい、過剰に服用してしまう
3.お薬を嫌がって飲みたくない
に分けられます。
●1の場合
ふだん薬をもらっている薬局に相談の上、お薬の管理BOXを利用したり、服用タイミングごとに一つの袋にまとめてもらったり(一包化)、服用シートを作成したり、お薬を管理できる方法を探してみましょう。
●2の場合
認知症の方の中には、お薬をすでに飲んでいるにもかかわらず、「まだ飲んでいない」とお薬を飲もうとする方もいらっしゃいます。
その方にとっては「お薬を飲んだ記憶」はなくなっているので、「もう飲んだのよ」と伝えたとしても、解決には繋がりにくいことが多くなります。ですので、たとえばサプリメントや、ビオフェルミン錠剤など、ある程度服用回数が多くなってもよいものを医師、薬剤師に相談の上、あらかじめ用意しておき、「●●先生が出してくれた効果のある薬だよ」と伝えてそれを飲んでもらうという方法も良いでしょう。
●3の場合
お薬を嫌がる場合は、お薬を嫌がる理由を考える必要があります。たとえば認知症の方によく見られるのは「毒が盛られているから嫌だ」「自分は病気ではないから嫌だ」といった思い込みです。
認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」の2つに分けられますが、これらの思い込みは「周辺症状」と呼ばれるものです。この思い込みがどうして起こるのかを知ることで、どのように対応したらよいかもわかりやすくなります。
より深く理解するために、中核症状と周辺症状について、理解を深めていきましょう。
2. 認知症の「中核症状」と「周辺症状」を理解する
認知症の方では、物忘れをはじめとして、時間や場所がわからない、ものごとがうまくこなせない、言葉が出てこないなどの症状がほぼ全ての方に現れます。これは「中核症状」と呼ばれ、認知機能の低下を直接的に反映している症状です。
一方でそれ以外にも、事実ではないことを思い込み、訴える「ものとられ妄想」「毒盛られ妄想」、突然外に出て行ってしまう「徘徊(はいかい)」、周囲の人を責めたてる「暴言・暴力」、不適切な摂食・排せつ、睡眠覚醒リズム障害、入浴拒否などの認知機能の低下と直接は関係がない症状が起こることもあります。これらはすべて「周辺症状」と呼ばれる症状で、全員に起こるものではありません。
「周辺症状」には、背景にご本人の気持ちがあり、それをうまく表現できずに、ご家族を困らせてしまうような行動として表れてしまっていることがあります。そのことを「知る」だけでも気持ちが楽になったと言ってくださるご家族が多いのです。
実際の例を挙げながら具体的に説明をしていきますので、向き合い方の一つの選択肢として読んでいただければ幸いです。
3. 背景にあるご本人の気持ちを考える【妄想・思い込み】
【妄想・思い込み】について
●原因の理解
認知症の方が物をなくしたときに、身近な人に「あなたが盗んだんでしょう」と疑いを向けることがあります。これは記憶力の低下によって、定位置に置き忘れた事実を覚えていられず、思考力も低下してしまっているため、ほとんど探す事もなく「ない=盗まれた」と即断してしまうために出てくる症状です。
思い込みには他にも「自分の食事に毒が盛られた」「自分は病気ではない」などのケースもあります。
いずれも、「自分の記憶にはないけれど、体調が悪い」という事実から毒が盛られたと思い込んでしまったり、「病気のことを忘れた状態で、体調に関する自覚症状もない」ため、自分は病気ではないと思い込んでしまったりといったように、記憶力・思考力の低下が原因となります。
●ご本人の気持ちに思いをはせる
ものを盗った、毒を盛ったなどと疑われてしまうと気分が悪くなってしまいますが、一度深呼吸をして、ご本人の気持ちに寄り添ってみましょう。
思い浮かべていただきたいのは「記憶に全くないのに、突然自分の大切なお財布がなくなってしまった」「なんとなく体調が悪いけれど、どうしてか分からない(記憶にない)」という状況です。さらに、認知症の方では思考力が低下していることも多く、「置き忘れた可能性を考える」「体調が悪い原因を思い返す」ことができないということも思い起してください。
高齢になると周りの親しい方が亡くなったり、大切なものが古くなって壊れたり、ご自身の体調も優れなかったりと、失う経験も重なりやすいものです。このような状況の中、誰かがそばにいたら、ものをなくしたことやすぐれない体調を「誰かのせい」にしてしまうことしかできないのかもしれません。
●どんな対応ができる?
・心配していることを伝える
認知症の方の気持ちに寄り添って、ものがなくなったことや体調が悪いことを心配していると伝えると「この人のせいではないのかも」と感じてくれることもあります。可能ならば気分が悪くなってしまうところをぐっとこらえて、心配していることを伝えてみてください。
・否定しないで歩み寄る
ご自身でも、物がなくなってしまったときに周りの方が一緒に探してくれると心強く、なんとなく安心した気持ちになるかと思います。それは認知症の方にとっても同じです。時間に余裕があれば、なくなってしまったものを一緒に探してあげることも、きっと支えになると思います。
また、「自分は病気じゃないから薬を飲みたくない」という方に対しては、病気であることを説明するよりも、「この薬、私も飲んでいるけどすごく調子が良くなったの。お母さんも飲んでみて」とあらかじめ用意していた偽薬を一緒に飲む、というように、自然に薬を飲む状況を作り出してあげることが効果的です。
認知症の方にとっては、「自分の記憶にないことは、自分の中では事実ではない」ということを念頭に置き、無理に正しいことだけを伝えるのではなく、時にはご本人に受け入れてもらいやすい形で伝えることも選択肢として重要なものになります。
・話題を変える
状況によっては話題を変えてしまうこともおすすめです。認知症の方は、短期記憶が低下しているので、「最近寒いけど布団変えようか?」などと話題を変えることで、先ほどまで思い込んでいた内容自体も忘れて、人が変わったように服薬に応じてくれることも珍しくありません。
・介護サービスの利用を検討する
対応する方の思い込みが強い中で、常に相手の気持ちを考えて優しく対応することは難しいことです。お相手がご家族であればなおさらです。
介護ストレスを減らすためにも、ケアマネジャーや医療機関に相談し、デイケアなどのサービスも積極的に利用しましょう。
4. 背景にあるご本人の気持ちを考える【暴言・暴力】
ご本人が嫌がる中、なんとか薬を飲んでもらおうとして薬と水をお渡ししたところ、「この野郎!」などと暴言を吐かれてしまったり、薬や水を投げつけられたり、といった経験がある方もいらっしゃるかもしれません。
この暴言や暴力も、認知症の周辺症状の一つである可能性が高いのです。
【暴言・暴力】について
●原因の理解
認知症の方の場合、脳の機能が低下しているため、「怒り」の感情の抑制が難しくなることがあります。また、不安や怒りを感じても、不安や怒りの気持ちを上手に表現できず、暴力や暴言といった行動に繋がってしまいます。
●ご本人の気持ちに思いをはせる
認知症の方は、いろいろな事が理解しにくくなり、不安やいらだちも大きくなっています。
例えば毒を盛られたという妄想が見られた時、ご本人にとってはそれが事実という認識なので、それを否定されると、自分を否定されたように感じて怒りが湧いてくる場合があります。また、自分は病気ではないと思っているのにそれを無視して薬を渡されると、自尊心が傷つき、暴言や暴力につながってしまうこともあります。
●どんな対応ができる?
・できるだけ冷静に、原因を考える
とても難しいことですが、できれば暴力や暴言が出る原因を聞いたり見たりして、冷静に考えてみましょう。「暴言・暴力が出るシチュエーション」の共通点について考えることもヒントに繋がります。
例えば、前から声をかけたときには問題ないのに、背後から声をかけると必ず「うるさいな!」と言われる、ということも多いのです。
認知症の方は視野が狭くなっていることが多く、自分の視界に入っていないところから声をかけられることで恐怖を感じてしまうため、こうした反応にですなりやすいのです。
また、服薬時のお水を少し温めて白湯にして渡すと、機嫌よく飲んでくれるという方もいらっしゃいます。機嫌がいい時、悪い時の共通点を見つけることで、その方と接する接し方のコツをつかみ、暴言や暴力の頻度が下げられることがあります。
・距離を置く
少し距離を取り、様子を見守ることも大切な選択肢の一つです。どんなふうに対応しても余計に興奮してしまう状況では、無理して接し続けずに距離を置いて見守りましょう。
・介護者を変える
暴力や暴言は、ご本人が甘えやすい身近な家族に出やすいと言われています。ご家族のみで対応することが難しく感じたら、ヘルパーやデイケア、訪問医療などのサービスの利用も検討してみてください。
・医療機関に相談する
暴言・暴力がひどい場合には、薬によって症状を落ち着かせることも選択肢となり得ます。病院や薬局に通院されている方は、症状によっては訪問医療に切り替えることも可能です。ぜひお近くの医療機関に相談してみてください。
5. さいごに
認知症の方の介護をされるとき、ご自身がされているケアが本当に正しいのかと悩んでしまうことや、どこへもぶつけられない気持ちをため込んでしまうこともあるかもしれません。
しかし、介護には正解がなく、さまざまな選択肢があることを認識して、まずはご自身のお身体を大切にしてくださいね。
監修:水野彩香
薬剤師・事業構想修士(専門職) 株式会社ブルペン執行役員(
イロドリ薬局千年店 薬剤師)
大手調剤薬局を退社後、株式会社ブルペンに入社し、生まれ育った川崎市でイロドリ薬局千年店の運営を行っている。現在は地元の地域医療に貢献すべく、在宅医療にも積極的に取り組んでおり、プライベートでも介護が必要な祖父母のため、介護に関する提案やフォローを行っている。