身体機能や免疫力が低下している高齢者は体調不良を起こしやすく、持病を抱えている人も多い傾向があるため、体調不良時にはとくに栄養状態を低下させないようにすることが重要です。いったん低栄養状態に陥ると回復に時間がかかり、さらなる身体機能の低下を招きます。食事内容や脱水予防に注意して、体調改善に努めましょう。

今回は、高齢者に多い下痢、便秘、かぜ、むくみを取り上げ、それぞれの状態に適した食材や避けたい食材、食事の注意点について、名寄市立大学保健福祉学部栄養学科准教授で、在宅訪問管理栄養士として栄養指導を行うスペシャリストの中村育子先生に解説していただきます。

1. 下痢のときの食事はどうする?

 

加齢によって腸の機能や免疫力などが低下してくると、体調不良を起こしやすくなり、食欲の低下や低栄養に結びつきます。とくに、加齢とともに消化能力や吸収能力が低下し、ちょっとしたストレスや冷え、消化しにくい食品の摂取などで起こりやすいのが、下痢です。

 

下痢で最も注意しなければならないのは、脱水症状がないかどうかです。高齢者はもともと体内の水分量が少なくなっていることが多いため、下痢によって即脱水症状を引き起こす危険があります。ぬるめのお茶やりんごのしぼリ汁などをこまめに飲んでもらうようにして水分補給を促しましょう。下痢の場合、水分とともにミネラルも失われるので、常温のスポーツドリンクを薄めたものや経口補水液を用いるのも効果的です。

 

症状が落ち着いたら、消化がよく、水分量の多い食物をとるようにしましょう。くず湯、りんごのすりおろし、おかゆ、やわらかく煮込んだうどん、みそ汁(具は消化のよいもので)、にんじんや大根などをやわらかく煮た野菜スープ、にんじんやかぼちゃのポタージュ、温めた豆腐などがおすすめです。これで回復していくようなら、鶏のささ身、白身魚など、脂肪分の少ないたんぱく質を少しずつ加えていきます。

 

また消化を助ける唾液の分泌を高めるために、やわらかいおかゆや汁物であっても、口の中で噛んでから飲み込むようにしてもらいましょう。

 

なお、下痢だけでなく発熱や吐き気、嘔吐がある、排便後も腹痛が治まらない、症状が改善しないなどの場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。

 

【下痢気味のときに適した食品】

●主食となる食品

・やわらかいごはん、おかゆ

・やわらかいパン

・やわらかく煮たうどん

 

●たんぱく質の多い食品

・鶏ささみ、脂身の少ないひき肉

・白身魚

・豆腐、きな粉

・温めた牛乳、ヨーグルト、スキムミルク

 

●野菜や果物

・野菜のポタージュ、やわらかく煮た物

・バナナ、りんご、缶詰の果物

 

【下痢気味のときに避けたい食品】

●食物繊維を多く含む食品

・海藻類、根菜類、きのこなど

●腸を刺激する食品

・かんきつ類、辛みの強い食品など

●脂身の多い食品

・脂身の多い肉や魚、揚げ物、ラーメンなど

●胃腸を冷やす食品

・冷たい飲料、アイスクリームなど

2. 便秘のときの食事はどうする?

 

加齢とともに腸の働きは低下し、便を押し出す腹圧も下がります。食事摂取量が少なくなると便の量が減り、さらに水分不足によって便がかたくなるため、高齢者は慢性的な便秘になりがちです。食欲がないときは好きな物、食べたい物を優先して食べるようにし、食事量が減らないように注意しましょう。

 

●1日1Lの水分を

体内の水分量が不足しないようにするには、まず、朝起きたら腸への剌激もかねてコップ1杯の水を飲み、1日に1L以上の水をとるようにします。なお、温かい飲み物は胃腸の動きを活発化する助けとなります。

 

●食物繊維をしっかりとる

食物繊維には便の量を増やし、腸の動きを促す働きがあります。食物繊維を多く含む食品の摂取が、便秘の予防に有効です。噛みにくい場合は細かく切る、やわらかく煮るなど、食べやすくする工夫をしましょう。

 

●1日1回は、油脂を使用した料理を

油脂を使用した料理はのどを通りやすく、また、油脂が潤滑油となって排便を促します。野菜や肉の炒め物、天ぷらやから揚げなどの揚げ物、中華料理など、油脂を使用した料理を1日1回はとるようにします。

 

●乳酸菌や発酵食品を積極的に

また、ヨーグルトや乳酸菌飲料、甘酒などの発酵食品でビフィズス菌や乳酸菌をとり、腸内善玉菌を増やして腸内環境を整えるのも便秘対策となります。腸内善玉菌のエサとなるオリゴ糖をプラスすると、さらに効果的です。

 

【食物繊維を多く含む食品】

●穀類:大麦、そば、ライ麦パン

●豆類・豆加工品:あずき、いんげん豆、グリーンピース、大豆、おから、きな粉、納豆

●乾物:かんびょう、切リ干し大根 きくらげ、干ししいたけ

●野菜:かぼちゃ、ごぼう、大根葉、春菊、ブロッコリー

●きのこ:えのきたけ、しめじ、なめこ

●いも類:さつまいも、さといも、山いも

●海藻類:寒天、昆布、のり、ひじき

●果物:アボカド、バナナ、りんご、干し柿

3. かぜ気味のときの食事はどうする?

 

高齢者は免疫力が低下しているため、かぜをひきやすくなっています。普段から、かぜの予防効果があるビタミンCを意識的にとりましょう。ビタミンCは、大根おろし、ゆでたブロッコリー、果物などで補給できます。

 

かぜの初期には口腔内をすっきりさせ、体を温めるしょうが湯、ねぎみそ湯、梅肉湯、ゆず茶、甘酒などの温かい飲み物がのどを通りやすいでしょう。食欲がないときは口当たりのよいゼリーやプリン、茶碗蒸しやポタージュなどが食べやすく、食欲の刺激にもなります。

 

体力を落とさないためには、食べやすくて消化のよいたんぱく質が必要です。ねぎ、にら、豆腐などを加えた卵雑炊やねぎ、ほうれん草、かまぼこ、卵などを加えた煮込みうどん。そのほか、鍋物、ポトフ、クリームシチューなどは体も温まって効果的です。

 

のどが痛いときには刺激物は避けます。大根おろしには消炎作用があり、のどの痛みをやわらげるのに有効です。さらにせきやたんを抑えたり消化を助けたりする働きのあるジアスターゼが含まれています。殺菌作用のあるはちみつもお勧めです。はちみつを用いた大根あめやキンカンのはちみつ漬けはかぜ予防にもよく用いられます。

 

熱があるときには体の水分が失われやすいので、水分補給には十分な注意をはらいましょう。ぬるめのお茶、りんごや梨のしぼり汁などをこまめに飲んでもらうようにします。

 

 

かぜをひいたときの飲み物の作り方を紹介します。

●はちみつしょうが湯の作り方

カップに、おろししょうが(チューブ入りでも可)小さじ1、はちみつ大さじ1を入れて、熱湯(150~180mL)を注ぎ、よく混ぜる。好みでレモン汁を加える。

 

●ねぎみそ湯の作り方

お椀にみじん切リのねぎとみそを適量入れ、熱湯150mLを注いでよく混ぜる。しょうがのしぼり汁やおろしにんにくを加えるとより温まる。

 

●大根あめの作り方

大根はさいの目に切り、保存容器に入れて、大根がかぶるまではちみつを注いでふたをする。冷蔵庫で半日ほど置いて上がってきた水分を、そのまま大さじ1ほど飲む。お湯で割ったり、紅茶やハーブティーに加えたりしてもよい。

4. むくみがあるときの食事はどうする?

 

心臓や腎臓の働きが低下してくると、むくみが現れることがあります。体内の余分な水分は通常、尿として排せつされますが、排せつの働きが低下すると体内に残ってむくみとなり、疲労感やだるさを感じるようになります。また、塩分のとりすぎもむくみの原因となります。

 

むくみを解消するには、カリウムやビタミンB1が多く含まれる食品を選び、薄味を心がけます。ただし、むくみは心臓病や腎臓病など重大な病気の症状の1つなので、病気が隠れていないか、最初に医師の診察を受けて確認しましょう。

 

【むくみ対策の食品】

カリウムを多く含む食品

・きゅうり、冬瓜などウリ科の野菜

・すいか、メロン、バナナ、柿、りんごなどの果物

・豆類、いも類、きのこ類、海藻類

 

【ビタミンB1を多く含む食品】

・豚肉、うなぎ

・大豆、きな粉、納豆、あずき

5. まとめ

季節の変わり目は寒暖の差が激しく、高齢者は体温の調整が難しくなります。かぜをひきやすくなったり、急におなかをこわしたり、熱を出したりと、体調をくずしやすいので、とくに注意が必要です。

 

なお、かぜは悪化すると肺炎などの合併症を引き起こす危険があります。症状が長引いたり、高熱、吐き気、嘔吐などの症状があるときには、早めに医療機関を受診しましょう。

6. 監修者プロフィール

中村育子(なかむら・いくこ)
名寄市立大学保健福祉学部栄養学科准教授。管理栄養士、在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員。静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府博士後期課程修了。医療法人社団福寿会慈英会病院在宅部栄養課課長。一般社団法人日本在宅栄養管理学会副理事長。在宅訪問管理栄養士の第一人者。『やわらかく、飲み込みやすい 高齢者の食事メニュー122』(ナツメ社)、『75歳からのラクラク1品栄養ごはん』(扶桑社ムック)など、著書多数。

この記事の提供元
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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい人への介護やサポートをする、ケアラーのためのプラットフォームです。 MySCUE(マイスキュー)は、高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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