自宅で介護をしている人は、仕事や家事と介護の両立などで生活のリズムが崩れやすく、それがストレスの原因になりがちです。ストレスがたまると暴飲暴食をしたり、睡眠サイクルが崩れたりとますます生活習慣が乱れ、心身の不調を引き起こしかねません。そうならないためにも、「運動」「労働」「睡眠」 「休養」食事」という5つの要素のバランスを意識して、ストレスがたまりにくいライフスタイルを目指しましょう。
がんや糖尿病、高血圧、脂質異常症などの病気は生活習慣病と呼ばれ、偏った食事や運動不足、睡眠不足、ストレスといった生活習慣の乱れが原因とされています。また、生活習慣の乱れは、メンタルヘルスにも影響をおよぼす可能性があります。介護生活の中で心身の健康を保つためにも、正しい生活習慣を心がけましょう。
では、正しい生活習慣とは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか。医学の父といわれる古代ギリシャの医学者ヒポクラテスは、1日の生活の中に「運動」「労働」「睡眠」「休養」「食事」の5つの要素をきちんとバランスよく組み入れることが重要だと唱えています。紀元前の時代であれ、デジタル化が進んだ現代であれ、「健康を維持するためには生活リズムやワークライフバランスが大切」という点は変わらないのです。
とはいえ、平日は仕事や家事、介護で、ほかの4つの要素を軽視しがちな人も少なくないはず。もしかすると、忙しいからと朝食や昼食を抜いてしまう人もいるかもしれません。しかし、そういった乱れた生活習慣を続けていると、無意識のうちにストレスがたまってしまうので注意が必要です。
日々の介護でのストレスをため込まないためには、定期的に発散することが大事です。1日の中で、短時間でいいので、軽い運動をしたり、仲間と楽しく食事をしたり、ゆったりとくつろぐ時間を持ったりと、仕事や家事や介護から離れる時間をつくって、「ストレス1日決算主義」を実現しましょう。
生活のリズムを整えるには、「週のはじめ」や「1日のはじめ」に、どういったスタートを切るか、ということも重要です。「ブルーマンデー」という言葉があるように、週のはじめの日を憂うつな気持ちで迎えている人は、けっして少なくありません。しかし、スタート時からストレスを抱えていたのでは、心身ともに快適な状態で1週間を送ることなど至難の業。特に週末はなるべく早めに就寝するようにして、気力・体力を充電しましょう。朝、すっきりと目覚めることができれば、週のはじめを快適に過ごせるはずです。
もう一方の「1日のはじめ」で大事なのは、毎日の朝食をしっかりとることです。朝食を抜いてしまうと、自分が思っている以上に午前中の作業がはかどらないもの。夜遅くに食べる量を減らし、その分しっかりと朝食をとって、元気に活動しましょう。
そうやって気分よく、1週間あるいは1日のスタートが切れれば、ストレスが減って、仕事や家事の効率もぐんと上がりますよ。
ストレスと生活のリズムの関係について解説してきましたが、生活のリズムを整えるには、まずは今の生活において、「運動」「労働」「睡眠」「休養」「食事」のバランスが、どれくらいとれているかを知る必要があります。
以下に、ライフスタイル・チェックの項目を掲載しておくので、自分の生活を振り返りながら、当てはまるものをチェックしてみましょう。
【ライフスタイル・チェック】
〈運動〉
□ 仕事や家事から離れて、いい汗をかいている(1日15分が目標)
□ 無理をせず、マイペースで運動をしている
□ 競技ではなく、楽しみながら運動をしている
〈労働〉
□ 仕事に意義や、やりがいを感じている
□ 働きすぎになっていない
□ 職場での人間関係がうまくいっている
〈睡眠〉
□ 毎日寝つきがよい
□ 自分に合った十分な睡眠時間がとれている
□ 早寝早起きの習慣がついている
〈休養〉
□ 仕事や家事の合間に定期的に休む時間をつくっている
□ 昼休みをしっかりとれている
□ 1日の中に、ゆったりとくつろげる時間がある
〈食事〉
□ 1日3食、規則正しく食べている
□よく噛んでゆっくり食べている
□ バランスのよい食事をとれている
チェックが入らなかった項目があれば、これから少しずつ意識してバランスを整えていってください。
ストレスは「ゼロ」にはなりませんが、上手に付き合うためのコツはあります。ストレスは、人間関係などのほか、体調や天候、環境の変化、騒音や悪臭といった、身のまわりの状況もその要因になり得ます。そして、人間はそうした避けがたい要因(あるいは、自分ではコントロールしにくい要因)によって、気づかないうちにストレスを抱えているものです。そのため、ストレスがゼロの状態になることは、ほとんどないのです。
ただし、ストレス=悪いものと決め付けてはいけません。ストレスを克服するために努力することが、生産性の向上や人間としての成長につながることもあるからです。適度なストレスは、人がよりよく生きていくために必要なもの。そう考えることも、ストレスと上手に付き合うためのコツかもしれません。
とはいえ、過度のストレスは心身の不調につながり、さまざまな病気を引き起こしかねません。「疲れがとれない」「やる気が起きない」といった症状や、慢性的な肩こり、頭痛、生活習慣の乱れなどは、ストレスがたまりつつある黄色信号といえるので十分注意しましょう。
日々の介護の中で、自分の黄色信号に気づいたら、先ほど紹介した「ストレス1日決算主義」にチャレンジしてください。仕事や家事などは、無理せず先送りにしたほうがよい場合もありますが、ストレスはためた分だけ強まり、なかなか解消できなくなってしまいます。できる範囲でかまわないので、1日の中にストレスを決算する時間を持つようにしてください。
自分なりのストレス解消法が見つからない人には、次の「5つのS」がおすすめです。ストレス解消だけでなく、体調の維持・改善にも役立つので、楽しみながら毎日実行してみましょう。
【5つのS】
①Sports(運動)
②Singing(歌うこと)
③Speaking(おしゃべり)
④Sleep(睡眠)
⑤Smile(笑うこと)
内閣府が行った国民生活に関する世論調査(2022年10月)によると、「日頃の生活の中で、悩みや不安を感じている」と回答した人の割合は78%にのぼりました。また、「自覚症状がないのに、実は大きなストレスを抱えていた」という方も少なからずいらっしゃいます。
快適な毎日を送るため、そして生活習慣病やメンタル疾患を予防するためにも、その日のストレスはその日のうちに解消して、心身の状態を整えてください。
山本晴義(やまもと・はるよし)
(独法)労働者健康安全機構横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長。神奈川産業保健総合支援センター相談員。1972年東北大学医学部卒業、91年横浜労災病院心療内科部長、98年より現職。専門は、心身医学、産業医学、健康教育学。日本医師会認定産業医、日本心療内科学会認定専門医・指導医、社会医学系専門医制度専門医・指導医、日本精神神経学会認定専門医、日本職業・災害 医学会評議員。厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」委員。心療内科医として、うつ病を含む勤労者のストレス病に関する啓発・予防・治療・リハビリに精力的に取り組んでいる。数多くの著作や講演を通じて、現代のストレス社会の中でも生き生きと過ごすためのヒントを伝授している。著書は『ストレス一日決算主義』(NHK出版)、『ドクター 山本のメール相談事例集』(労働調査会)など多数。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。