毎春、九州旅行を提案しているトラベルライターの間庭典子が今回訪れたのが長崎県。異国情緒あふれる港町、長崎市はもちろん、島原や雲仙、テレビでも話題になった軍艦島、壱岐島など見どころの多い県です。今回はオランダの街並みを再現したハウステンボスや器探しが楽しい有田をご紹介。統一された世界観のテーマパーク的空間が心地よく、朗らかな散策にはぴったりなのです。
春先には恒例となった九州旅。今回、訪れた長崎県にも見どころは満載。歴史的な価値のある遺跡や街並みも多いので、訪れるだけで日本史の勉強になりそうです。大河ドラマや時代劇に登場したロケ地もたくさんあり、映画やテレビで見たことのある絵葉書のような風景や世界遺産に登録された名所も多く、胸に響きます。
今回、初めて訪れて、乙女心をわしづかみにされたのが佐世保にある「ハウステンボス」。オランダの街並みを再現したテーマパークで、その広さは152万㎡。街がそのまま再現されたように広大で、敷地内には5つのオフィシャルホテルも。さらには住居やヨットハーバーもあり、「パーク」というよりもうひとつの「シティ」なのです。
写真上:テーマパークというよりもひとつの街のような世界観があるハウステンボス。歩くだけでわくわくする。
オランダといえば江戸時代の鎖国政策の中 、長崎市の出島で唯一、交易を許された国。ペンキ、ガラス、ポン酢など、オランダ語由来の言葉も多く、お転婆もオランダ語が定着した表現なのだとか。風車、運河、チューリップなど、私たちになじみのあるオランダのイメージが広がっています。うさこちゃんことミッフィーも、オランダの絵本作家、ディック・ブルーナが生みの親。オランダのカルチャーは私たちの生活に意外となじんでいて、親近感を覚えます。
ハウステンボスがシニア世代の親との旅におすすめなのは、移動そのものがアクティビティである点。広大なパーク内を運河で渡るカナルクルーザーは眺めも見事で海外旅行気分を味わえます。4人乗りの自転車に挑戦してみるのも良いし、疲れたら巡回しているパークバスで移動すればラクラクです。
他のテーマパークに比べ、いわゆるキャラクターが各所に現れるわけではないので、逆にリアリティが増すんですよね。風車を見上げ、広場の様子や建物が、昔訪れたアムステルダムやその郊外の街を思い出させ、なんだかじんとしました。アトラクションも、子どもたちが喜ぶようなジェットコースターなどは少ないのですが、大人が没頭できるデジタルアートや、自分のペースで歩きながら眺められる展示、観覧車や展望台からの眺望の良さなど、実際にヨーロッパの街を訪ね歩いたような気分になれる空間なのです。
写真上:カナルクルーザーでチューリップに風車など、オランダらしい風景を満喫しながら移動。
1日遊び倒すのは疲れてしまいそう…と不安なら、15時から閉園までのアフター3パスポートを利用するのがちょうどいい。1DAYパスポート大人7600円に比べて、5900円とちょっとお得です。私がおすすめしたいのは、JRハウステンボス駅の目の前のパートナーシップホテル「ホテルローレライ」に宿泊し、チェックイン後に、身軽になってハウステンボスに向かうという作戦。パーク内にも雰囲気のいい個性的なホテルはあるのですが、とにかく電車の場合、パークが広いため、そこまで行くのに疲れてしまいそう。ならばひとまず荷物を預け、お散歩気分でパークに向かうというプランです。夕食もそこで済ませつつ、幻想的なライトアップやイルミネーションを鑑賞すれば、大満足。翌日は目の前が駅なので、帰りも楽々です。
写真上:サンセットこそハウステンボスの夢時間。イルミネーションまでの時間をゆったり過ごして。
夕暮れ時になると少しずつライトが灯り、幻想的な風景に。夜は世界一の輝きと評判のイルミネーションを鑑賞します。これぞハウステンボスの醍醐味。夜は3Dプロジェクションマッピングやライトアップ・新ナイトショー Shower of Lights シャワー・オブ・ライツなど、パーク内の各所でイベントやショーが開催され、これもまた見ごたえがあるのです。アムステルダム広場などでみたライブも期待以上のレベルで驚きました。閉園ぎりぎりまで参加できるアトラクションもあるので、目いっぱい遊ぶこともできます
ちなみに「ホテルローレライ」には展望露天風呂があり、線路を隔てて向こうに見えるハウステンボスの風景も望めます。歩き疲れた体を温泉で癒して次の地へ。
長崎旅の最後の目的地は、器探しが目的の有田です。有田は佐賀県なのですが、佐世保市のハウステンボスからも行きやすく、ぜひとも立ち寄りたい場所でした。佐賀県西部に位置する有田は日本磁器発祥の地。江戸時代初めに陶磁器の原料となる陶石が発見され、我が国最初の磁器が焼かれた場所なのだそう。それ以降、多くの陶工たちが磁器の製作に取り組み、有田は磁器の一大産地となったのです。
鎖国時代に長崎から世界に広まったもののひとつに陶磁器があります。有田の窯の陶磁器は、17世紀半ばから長崎の出島を通じて、伊万里港からヨーロッパへと輸出され、王侯貴族を魅了し、伊万里焼として人気に。マリー・アントワネットをはじめ、ヨーロッパの王侯貴族にもコレクターが多かったほど人気が高まり、オランダのデルフト陶器でも日本風の絵柄が取り入れられたのだそう。その後、400年もの伝統と技法を守り、磨きをかけてきた有田焼は、若い作家や大小の工房により進化しています!
有田には今でも窯が並ぶ昔ながらの風景が残っています。江戸時代の景観が色濃く残る路地や、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されているレトロな町並みのあるトンバイ塀通りなど、フォトジェニックな道も多く、時間をかけて歩いてみたいエリアです。その魅力をぎゅっとつめこんだ、陶器の団地と呼ばれる「アリタセラ」にぜひ足を運んでみて。
JR有田駅から車で5分ほどの距離にある「アリタセラ」は、22社もの窯元のショップやギャラリーがずらりと並び、それぞれの店舗の奥には倉庫を備えています。老舗から新進気鋭の作家によるモダンな食器まで、さまざまなデザインを一度に見ることができ、もちろん購入も可能。すべてを回るのは大変ですが、22軒が連なっているので、意外と歩けてしまいます。
写真上:賞美堂本店など老舗の窯のギャラリーも多く、見て回るだけで有田焼の魅力を堪能できる。
アリタセラでできるのは器探しだけではありません。22軒の中には、カフェやベーカリーを併設した店舗も多く、その窯元の器を実際に使いながらその空間で過ごせるんです。これは器好きにはたまらない! 私は数軒もはしごしてしまいました。中でも百田陶苑のカフェはギャラリーと区切ることなく、そのアーティスティックな空間の中に点在するスペースで、自分だけの時間を過ごせます。もしかしたら世界で一番、好きなカフェ、空間かも。百田陶苑の陶磁器がどのように生活の中で使われているのか、キッチンやバスルームを実際に設え、生活とともにある有田焼を鑑賞できるのです。
もちろんカフェの器も実際に販売しているもの。花器の使い方も洗練されていて、かつ今すぐ真似したいと思うほどリアリティがあるんです。伊万里焼、有田焼というときらびやかな一点物を想像してしまいますが、シンプルで、実用的で、今のライフスタイルにもフィットするデザインが多いことに驚きます。
同じくブティックのようにスタイリッシュな「2016/ 」は、世界各国でグローバルに活躍するデザイナー16組と百田陶苑をはじめとする有田の窯元・商社16社の協働により誕生した、有田焼のスタンダードブランドです。世界のデザイナーの斬新なアイデアと有田焼の存在感が絶妙にマッチして、印象的です。
老舗の窯でも機能性を追求したデザインが多く、最後まできれいにすくうことができるカレー皿やレンジにも対応した酒器、ペーパーフィルターいらずのコーヒーメーカーなど、日常的に使えて今のライフスタイルにアップデートされたアイテムにたくさん出会えました。
写真上:ここは青山?と思うほど洗練された百田陶苑のギャラリーのなかにあるカフェ。
さらには施設内に泊まることもできるのです!ホテル「アリタハウス(arita huis)」はシンプルモダンな10室の客室と、36席のレストランからなる宿泊施設。この地の旬の食材を使い、有田の器で供されるイタリアンは絶品で、ランチ利用もできます。器探しにきたつもりがすっかり満腹に。帰りは両手に器を抱えて帰路につきました。
著者:間庭典子(まにわのりこ)
中央線沿線の築30年以上の一軒家に後期高齢者の両親と同居する50代独身フリーランス女子。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)「mc Sister」編集者として勤務後、渡米。フリーライターとして独立し、女性誌など各メディアにNY情報を発信し、「ホントに美味しいNY10ドルグルメ」(講談社)などを発行。2006年に帰国し、現在は日本を拠点に、旅、グルメ、インテリア、ウェルネスなど幅広いテーマの記事を各メディアへ発信。旅芸人並みのフットワークを売りとし、出張ついでに「研修旅行」と称したリサーチ取材や、さびれた沿線のローカル列車で進む各駅停車の旅を楽しむ。全国各地の肴を味わえる地元の居酒屋やスナックなどの名店を探すソロ活動も大好き。