トラベルライターの間庭典子が提案するシニアと楽しむ親子旅。毎年恒例となった春の九州旅におすすめなのが、西九州新幹線かもめの開通などで注目されている長崎。日本・オランダ(西洋)・中国の文化が融合した和華蘭(わからん)文化を体感できる史跡や施設、グルメどころも多く、オトナの修学旅行感覚で歴史を学べるのです。
ここ数年、春先に九州を訪れることが、私の恒例行事となっています。気候も温暖で、本州から離れるという異国感。一足先に春を感じられるのもいい。エリアごとに文化や風習が違い(言葉までも!)、歴史的なスポットも多いので、毎年、春の九州旅を開拓し、さまざまなテーマでまとめています。また、シニア世代の親との旅行にもぴったりなのです。
2022年には西九州新幹線かもめが武雄温泉駅から長崎駅まで開通し、ゆくゆくは博多駅から1本でつながるように。現在も博多からの特急リレーかもめ号で、向かいのホームに停まった新幹線に乗り換えられるのでストレスはなし。飛行機の便数が多い博多から向かうのも良いかもしれません。
写真上:長崎駅改札前にある「長崎街道かもめ市場」は長崎銘品が一度にチェックできて便利。
新幹線開通をきっかけに、長崎駅は開発され、駅ビル「AMU長崎」には駅の改札前の「長崎街道かもめ市場」がオープンしました。長崎を代表する人気店が集結し、朝8時半から買い物ができるのが魅力です。老舗のカステラ専門店も5軒そろっているので、味比べをしてみるのも楽しそう。歩き疲れることなく、効率よく名店巡りができるのです。これはシニアとの旅にはうれしい! おみやげ探しに熱中したい母と、座って休みたい父と、別行動することも可能です。
各種海鮮はもちろん、長崎ちゃんぽんや五島うどん、トルコライスなどのご当地グルメも気軽に味わえるので、ここで腹ごしらえするのはラク。中でも楽しかったのは、九州各県の焼酎がそろった「立ち飲みたたんばぁ」。本店が思案橋にあり、宮崎や大分などでも展開している有名店なのですが、ここ、かもめ市場のカウンターでも長崎県産の日本酒や焼酎を中心に約60種のお酒が一杯300円からいただけます。100円のつまみもあり、ついつい飲みすぎてしまいそう。隣のイートインコーナーでは、お酒とともにかもめ市場で買った商品をつまみにして楽しむことができるのがうれしいところ。ローカルも集うこの駅ナカ立ち飲み、昼からにぎわっていて、ぜひ立ち寄ってほしいスポットです。
今回、数年ぶりに長崎市を訪れたのですが、出島の復元を進めている国指定史跡「出島和蘭商館跡」が、楽しく見学し、学べる施設となっていたことに驚きました。実は私、「出島ワーフ」と呼ばれているベイサイドのあたりが出島の位置だとずっと思いこんでいたのですが、このあたりは江戸時代にはまだ海で、出島はもっと内部に位置していたのですね。知らなかった!
出島はもともとあった出島の位置に、17世紀初頭の出島の復元を進めています。入場料は大人520円、高校生200円、小中学生は100円。橋を渡って門をくぐり、実際に歩いてみると、当時のオランダ人が自由に歩けた範囲は思った以上に狭いことに驚きます。鎖国当時、出島に入ることができる日本人の数も限られていました。
写真上:「出島和蘭商館跡」に再現されたカラフルな壁紙は唐紙を使用した和洋折衷なデザインが特徴。
オランダ商館長(カピタン)の事務所や住まいが再現展示され、当時のオランダ商館員の生活を想像することができます。日本側の貿易事務や管理を担当していた役職である乙名(おとな)が拠点としていた乙名部屋、主要な輸出品である銅を保管していた 蔵などの施設も復元され、それらの役割や歴史を映像や展示で紹介しています。ビリヤードやすごろくなど、オランダ商人から伝わった遊びの展示も。
私が見入ってしまったのは、埋め立て地であった出島をどのようにつくったかの土木に関する展示でした。出島内には旧出島神学校など、明治以降居留地であった時代の建造物もあり、当時の社交場であった旧長崎内外クラブの1階はレストランとなっています。長崎名物のトルコライスや長崎和牛ハッシュドビーフ、ミルクセーキなどのご当地メニューも充実しているんですよ。
また出島では車いすの無料レンタルもあり、車いすやオストメイト対応の多目的トイレも数箇所あるので安心です。全体がそれほど広い敷地ではないので、自分のペースでゆったりと回れるのもいいですね。フォトジェニックな街並みなので記念撮影も楽しい!
宿泊は2024年12月に開業したばかりの「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」へ。このホテルの特徴はもともと修道院であったレンガ造りの建造物を活かして、スタイリッシュなデザインホテルとしてよみがえらせたこと。イギリスをはじめ、世界179カ所で展開するホテルインディゴは、その地域のエッセンスを館内で感じられるよう、インテリアも食事も工夫を凝らしているんです。積極的に観光や食事に出かける余裕がなくても、施設内でゆったり過ごすことで、その土地のカルチャーを感じられ、滞在そのものが観光となるのです。
チェックイン後はホテル内でゆったり過ごして、元気をチャージしましょう。長崎ではラウンジも客室も、和風、中華風、そしてオランダから入ってきた西洋風をミックスした和華蘭文化をモチーフにした空間が楽しめます。これは訪れたからわかったのですが、鮮やかなカラーリングや和と洋の家具が混在した和洋折衷なインテリアの趣やホテルインディゴのユニークなデザインは、出島に相通じます。鎖国時代のカピタン(オランダ商館長)になった気分で異国情緒を味わいましょう。
写真:和華蘭文化をモチーフにしたカラフルな空間の「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」。
おどろくことにソファやカーペットなどは、既成のものではなく、ホテルインディゴが独自にデザインした特注品。このこだわりがこのホテルを「初めて見る空間」に仕上げています。このデザインを楽しむだけでも、滞在する価値がありますよ。テラスから眺める長崎湾の夕暮れも見事です!
「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」で圧倒的なのは、約10mもの天井高をもつ、かつては聖堂だった空間を活かした「Restaurant Cathedréclat(レストラン カテドレクラ)」です。地元長崎の旬の食材を活かして長崎のDNAである和・華・蘭文化を表現し、シェフの遊び心という”ひねり”を加えた一皿を味わえるのです。
写真上:聖堂の荘厳な雰囲気を活かした「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」のレストラン。
シグネチャーディナーコース「Blanche」はフランス語の「白」そのままに、白色がテーマ。フランス料理に和華蘭文化のエッセンスを表現した、ほかにはない構成のコースです。春限定メニューでは旬の蕪やエンドウ豆などの野菜をカルタファタフィルムで包み蒸し焼きにし、中華エッセンスを加えたスープとともにお召し上がりいただくなど、ユニークなお料理が続き、〆は甘鯛の焼きおにぎりのあご出汁茶漬けで和風に。この変化に富み、ミックスされた印象が、次は何が登場するかしらとわくわくさせてくれます。このような和食、中華、洋食にこだわらないコース、ほかの店にももっとあればいいのに! お茶漬けで〆るフレンチなんて新鮮! 胃にもやさしく、ほっとするコースです。
朝はステンドグラスから光が差し込み、空間全体が柔らかい光に包まれたやさしい空間に。朝食はセミブッフェで、和食と洋食が選べます。和食は長崎の郷土料理であるハトシや角煮、焼き魚などが端正に詰められた銀のお重を楽しめます。昼はコース以外にも、長崎和牛南蛮カレーやバーガーなどのランチ限定メニューも。宿泊者以外でも利用できるので、グラバー園を訪れたときにはぜひ足を運んでみては?
長崎市には世界遺産もたくさんあります。ホテルのテラスから見渡せる長崎湾には三井三菱造船所のクレーンが、徒歩園内には明治時代に居留地となった旧グラバー邸などがある「グラバー園」、日本最古のキリスト教建築物であり、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産の一つ、大浦天主堂もあります。春の陽気の中、自分たちのペースで歩き、観光を楽しむのもいいですね。長崎は坂や階段も多く、シニア層には厳しい道もありますが、その分、他には代えられない絶景が望めたり、歩き切った際の達成感も味わえます。観光名所からアクセスがいい丘の上にある「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」を拠点にすることで、お散歩気分で巡ることも可能に。20時以降も開園しているグラバー園は、ライトアップも美しく、長崎の夜景を楽しむこともできます。夕暮れ時に訪れると、移り変わる風景を楽しめて感動的なんです。また、夕暮れ時は観光客が少なくなる時間帯なので、展示をゆっくりと楽しめるのもおすすめポイントです。
写真上:夕暮れ時のテラスには大きなクレーンが目の前に見え、港町らしい情緒ある風景に。
街中のにぎやかな長崎もいいですが、その時代にタイプトリップするような長崎旅、歴史をたどる旅もオツなもの。そこで見て、体験したことを、自宅に戻って歴史小説や時代劇で、またかみしめられます。時代を感じ、歴史を学ぶおとなの修学旅行を、長崎でぜひ!
著者:間庭典子(まにわのりこ)
中央線沿線の築30年以上の一軒家に後期高齢者の両親と同居する50代独身フリーランス女子。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)「mc Sister」編集者として勤務後、渡米。フリーライターとして独立し、女性誌など各メディアにNY情報を発信し、「ホントに美味しいNY10ドルグルメ」(講談社)などを発行。2006年に帰国し、現在は日本を拠点に、旅、グルメ、インテリア、ウェルネスなど幅広いテーマの記事を各メディアへ発信。旅芸人並みのフットワークを売りとし、出張ついでに「研修旅行」と称したリサーチ取材や、さびれた沿線のローカル列車で進む各駅停車の旅を楽しむ。全国各地の肴を味わえる地元の居酒屋やスナックなどの名店を探すソロ活動も大好き。