「少しでもいいから運動をしてほしいのに、やる気になってくれない」そんなお悩みを抱えるケアラーの方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、シニアの方が取り組みやすい「1日10分の介護予防体操」を紹介します。
シニアの健康寿命を延ばすために厚生労働省が推奨している「+10(プラス・テン)」。これは、毎日の活動量を10分間増やすことを目指した取り組みです。
日常的に身体を動かすと、糖尿病、心疾患、脳卒中、足腰の衰え、認知症などのリスクを下げられると言われており、プラス・テンには介護予防の効果が期待されています。しかし、次のような理由で運動習慣をもてないシニア世代の方もいるのではないでしょうか。
・運動は面倒くさい
・何をすれば良いかわからない
・始めても長続きしない
介護予防の運動は、無理に頑張ろうとするほど続かないものです。そのため、日常生活の中に自然と取り入れられ、負担に感じない方法で気軽に行うことが大切です。
1日10分の運動時間を簡単に確保する方法があります。それは、普段何気なく見ているテレビの「CMの時間」を運動にあてることです。
1時間の番組の枠で流れるCMは5~6分程度ですので、2つほど番組を見て、運動を実施すれば、自然と10分程度の運動時間を確保できます。これだけで厚生労働省が推奨する「プラス・テン」が実現できるのです。CMの間だけと考えれば、「それなら試してみようかな」と、心理的なハードルもぐっと下がるのではないでしょうか。
本記事で紹介する体操には、以下の特徴があります。
・道具は一切使わない
・すべて椅子に座ったまま行える
運動習慣がない方にも始めやすいメニューだけを紹介しますので、ぜひシニアの方に勧めてみてください。
まずは、柔軟性を高める簡単ストレッチを紹介します。
■首のストレッチ
1.背筋を伸ばし、肩の力を抜いて座る
2.首を前後・左右に5秒ずつ倒す
3.2~3回行う
首の運動はできるだけやさしく行いましょう。めまいや吐き気を感じたら、すぐに中止してください。
■肩甲骨のストレッチ
1.背筋を伸ばして座る
2.両肘で大きく円を描くように、前回しを10回行う
3.同様に後ろ回しを10回行う
肩甲骨が背中側でグルグルと動くのをイメージしながら行いましょう。
■体側伸ばし
1.背筋を伸ばして座る
2.片方の手を上に伸ばし、もう片方の手は身体の横に添える
3.上げた手と反対側に身体をゆっくりと倒し、20秒キープする
4.反対側も同様に行う
「痛気持ちいい」くらいの強さで行い、呼吸を止めないようにしましょう。腰に急な痛みが走った場合は中止してください。
■胸を開くストレッチ
1.背筋を伸ばして座る
2.両手を身体の後ろで組む
3.組んだ手を後ろに引き上げ、胸を張る
4.胸を張った姿勢を20秒キープする
胸の筋肉を伸ばし、猫背を解消するストレッチです。両方の肩甲骨を背骨に寄せるイメージで行ってください。
■太もも裏のストレッチ
1.椅子に浅く座り、片脚を前に伸ばす
2.伸ばした脚の太ももに両手を置く
3.息を吐きながら前に屈み、ひざ、すねへと手を滑らせる
4.「痛気持ちいい」ところで20秒キープする
5.反対側も同様に行う
太もも裏の筋肉を伸ばして柔軟性を高めると、腰やひざの痛みが改善されます。
■ふくらはぎのストレッチ
1.椅子に浅く座る
2.片方の脚のふくらはぎをもう片方のひざの上にのせる
3.のせた脚を前後に動かし、ひざでふくらはぎをほぐす
4.1分程度行ったら、反対側も同様に行う
ふくらはぎの筋肉をひざでマッサージするように刺激して、柔らかくします。こむら返りの予防や循環の改善に効果的です。
次に、筋肉を鍛える簡単な体操を紹介します。
■膝伸ばし
1.背筋を伸ばして座る
2.片方のひざをゆっくりと伸ばす(つま先は自分の方に反らす)
3.ひざをまっすぐ伸ばしたまま5秒キープ
4.ゆっくりと元の位置に戻す
5.左右10回ずつ行う
立ち座りや階段の昇り降りに必要な、太ももの筋肉が鍛えられます。
■かかと上げ
1.背筋を伸ばして座る
2.両足のかかとをゆっくりと上げる
3.勢いよく床につかないよう、ゆっくり下ろす
4.20~30回繰り返す
かかとを上げることにより、歩行時の蹴り出しや姿勢の維持に重要なふくらはぎの筋肉が鍛えられます。
■つま先上げ
1.背筋を伸ばして座る
2.かかとを床につけたまま、両足同時につま先を上げる
3.勢いよく打ち付けないように、ゆっくり下ろす
4.20~30回繰り返す
つま先上げはすねの筋肉が鍛えられ、歩行時のつまずきを防いで転倒を予防する大切な運動です。
■膝上げ運動
1.背筋を伸ばして座る
2.両手は太ももの上に置く
3.背中を丸めないようにして、片方のひざをゆっくり上げる
4.床を打ち付けないようにやさしく下ろす
5.左右20回ずつ行う
ひざ上げ運動で鍛えられる脚の付け根の筋肉は、歩行時の脚の上がりを助けます。さらに、姿勢の改善や腰痛予防にも効果的です。
■お腹の運動
1.背筋を伸ばして座る
2.鼻から息を吸いながら、おなかをふくらませる
3.口から「フーッ」と息を吐きながら、おなかをへこませる
4.吐き切ったらゆっくりと息を吸い、おなかをふくらませる
5.5~10回程度繰り返す
ドローインと呼ばれるこの運動は、身体の奥にあるインナーマッスルを鍛え、姿勢の改善や腰痛予防に効果があります。
著者:鈴木康峻
2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。
得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど
保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級