軽度認知障害の実母と同居する50代のケアラー、山内聖子が日々の出来事や思いを綴るシリーズの4回目。少しずつ変わってきた母の服装や暮らしぶりに戸惑いを覚えていた聖子だったが、ある朝の何気ない出来事をきっかけに、聖子の中で「着ること」の意味が少しずつ変わりはじめます。

1. 日常の中の母の変化

週1回デイサービスに通っている母の巴。当初は「自分はまだ必要ない」と施設に通うのを嫌がったが、通い始めてみると話の合う歳の近い仲間もできたらしく、最近ではデイに通うのを楽しんでいるようだ。家にいる日は一日中パジャマのようなルームウェアで過ごすこともあるが、デイの日の前日には、明日は何を着て行こうか、考えているようだ。

母は元々はおしゃれ好きだった。洋服選びはもちろん、髪型やメイクにおいても気を配り、常に気を遣っていたが、最近では服装に無頓着になってきていた。

「最近、パジャマでいる時間が増えたね」
そう声をかけてみると、元気な時は少し怒ったような反応をみせるけれど、聞いているのかいないのかわからないくらいの薄い反応の時もあり、私はそれを「気力の低下」のせいだと考えていた。

それでもデイの日には好きな服を着ていきたい、と考え始めているらしいのは良いことだと思う。自分の好きな服を着て気持ち良く過すというのが、気力を維持するために役立つのなら、そんなにうれしいことはない。

ラックに掛かっている洋服を選んでいる様子
写真上:著作者:freepik

2. 朝の偶然がくれた気づき

母がデイに通う日の朝、洗う洗濯ものがないかどうかを確認しようとノックなしで母の部屋に入ったところ、お気に入りだったシャツに腕を通そうとして難儀する巴の姿を見つけてしまった。

以前から肩こりを訴えることがあった母だけど、最近ではそれがひどくなって、腕を上げたり、動かしたりという動作が難しいことが多いらしいことに改めて気づいた。その時は着るのを手伝おうとしたが、どのように介助したらよいのかわからず、声をかけながらおろおろするだけになってしまった。

母の方もうまく着れないで困っているところを見られて気まずかったのか、「大丈夫だから」と聖子を追い出すように言って、他の服を探し始めてしまった。

結局母は腕を通しやすいニットのカーディガンを着てデイに出かけた。表情が冴えなかったように見えたのは、着ていこうと思っていたものをうまく着れずに妥協したからかもしれない。たかが服とはいえ、母の今の暮らしの中では私が思うより重要な意味を持っているのかもしれない。思いがけず、洋服のもつ力や意味合いに気づいたのだった。

3. 調べてみたら……知らなかった“着る”の世界

「着せ方にもコツがあるなんて」
ネットで検索して行き当たった情報によると、「シニアが着やすい服」の情報がたくさんあった。選択肢は思った以上に広がっていた様なのだ。

母がデイサービスに出かけた後、「着替えの介助」で検索してみると、いろんな情報が出てきた。まずお母さんの身体のどこに問題があって、どういう動作が難しいのか、現状を確認しなければ、と考えた。


着づらさを訴えるシニア

写真:写真AC


介護福祉士さんが書いているウェブ記事には、「上着を着せるときは具合の悪い方の腕から。脱がせるときは健常な方の腕から服を抜く」などのコツが書かれていた。なるほど。人によって困っていることはそれぞれちがうから、いくつかの情報にあたってお母さんの助けになりそうな方法を
見極め、試してみよう。

さらに調べていくと、「着やすい服」を製造・販売するブランドや今ある服を着やすくリフォームしてくれるサービスがあるのを発見した。

腕が入れやすいシャツや足を入れやすいパンツ、また、前あきのボタン部分が通常のものより留めやすいスナップボタンになっているシャツなど、工夫を凝らした商品がたくさん。

お母さんひとりでも着やすい服、あるいは私など周りの人が着替えを手伝いやすい服を探して選ぶ方法、またはお母さんがもっている服を着やすくリフォームする方法と、着ることをサポートする方法はいくつかあるけれど、お母さんの場合はどれがベストなんだろうと考えると、正直わからない。今朝の様子を思い返すと、介助的なことをしようとすると本人は機嫌が悪くなったり、拒否したりするからだ。


その日は終日晴天で、まだ初夏だというのに真夏のような気温だった。汗ばむ時間もあったはずだけれど、帰宅して着替えを促してみても「しなくていい」とのこと。

最近の母は気温の変化にも疎く、暑くても寒くても洋服で調整するということがしづらくなってきている。そんな母には、着やすさに加え、気温や湿度の変化に合わせて汗や熱を逃がしてくれるような服がいいのかもしれないと思った。

4. インクルーシブファッションのシャツに惹かれて

そんな矢先、スマホに届いたお知らせを見ていたら、気になるアイテムを見つけてしまった。

天然素材を使った肌にやさしい生地で仕立てた服で、老若男女誰が着てもに合いそうものだった。ぱっと見はふつうの服だけれど、前あきボタンが工夫されていたり、腕の部分が開くようになっていたりなど、一着ごとに異なる仕様が施されている。記事を読むと、この仕様は買う人ごとのニーズをヒアリングしてカスタマイズができるのだという。


ナチュラルなムードのカフェ
写真上:PIXTA


ちょっと前、友人とお茶をした際に入ったカフェで店員さんが着ていたシャツがそんな感じのものだった。ナチュラルな風合いの色や光沢のあるしっかりした素材感が気になってしまい、「どこのものですか?」と尋ねていたのだった。ブランド名は聞いたことがなかったのだけれど、「ユニバーサルというか、インクルーシブファッションのブランドなんです」という答えが印象に残っていた。

スマホで見つけた服も、身幅がゆったりとしていてお腹回りもカバーでき、動きやすそう。また、パジャマほどくだけてはいないから、普段着にもちょうどよさそうだ。

これなら、私も着てみたい──お母さん用というより私も着てみたいと思わせる服だった。


私はおしゃれや服装についてはお母さんほどこだわりはない方で、50代になるまではその時々の状況に応じた服を選んできた。

学生時代はその当時の流行りを追い、社会人になってからはポジションに合った無難な服、母親になってからもそれらしい服装からはみ出すことがなかった。 

そんな私が、このカスタマイズができる服に惹かれてしまった。こういう服が、「インクルーシブファッション」と呼ばれているらしい。それって誰が着てもいいってことよね? いかにもな介護用グッズなどを勧めてもなかなか使ってくれないお母さんだけれど、こんなに着心地がよさそう服なら、私と一緒に着てくれそうな気がする。

腕が通しやすいデザインの、通気性のよいシャツを母に。色違いの同じスタイルのものを自分用に、と同時に、注文画面に進んでいた聖子なのだった。

 

 

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著者:MySCUE編集部

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