介助が必要になったらひとり暮らしは続けられないと考える人は多いでしょう。

しかし、長年介護の現場の取材をしてきた私は、日本各地でそれを実現している人のお宅を訪問してきました。そのうちの11人の体験ストーリーをまとめたのが、新刊『11の成功例でわかる 自分で自分の介護をする本』です。本記事では彼らに共通するポイントを紹介します。

 

1. 介助が必要な高齢者の自立。結局は「お金」?

『ひとり暮らしでも大丈夫! 自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)は、2023年に出版し、現在ではロングセラーになっています。この本では自宅で利用できる医療や介護のサービスをはじめ、介助が必要になることを防ぐヒントや住まいに関する情報などを紹介しました。

 

MySCUE記事 小山朝子 自分で自分の介護をするする


『ひとり暮らしでも大丈夫! 自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)


同書を手にとった人のなかには「介助が必要になってひとり暮らしを続けるには、結局お金が大事ということ?」という印象をもった方がいたようです。確かに、必要な介護や医療を受けるためには「お金の事情」は重要です。しかしながら、「心豊かなひとり暮らし」を送れるかどうかという観点においては、必ずしもイコールではないようです。

2. 「自分で自分を介護する」ってどんなこと?

野沢宏子さん(88歳・仮名)は約20年、ホームヘルパーとして働き、いろいろな家庭を訪問してきました。彼女がサポートをしてきた利用者のなかには「私の息子は一流商社に勤めている」など家族の自慢話ばかりする人もいたとか。ところが現実はひとり暮らしで始終「寂しい」と洩らし、自慢の子供や孫からはほとんど連絡がないという人もいたといいます。 


宏子さんはいろいろな家庭をみてきた経験から、たとえ家族がいたり、経済的な苦労はしていなくても寂しさを抱える人がいることを知りました。彼女自身は、息子一家とは不仲で経済的な余裕はあるとは言えない状況で生活してきました。しかし、寂しがってばかりの生活は送りたくないと、家族以外の頼れる仲間や友人をつくる心がけをしてきたといいます。


現在、宏子さんは認知症と診断され、その後もひとり暮らしを続けていますが、趣味でつながっている仲間が彼女の自宅をときどき訪れ、おしゃべりを楽しんでいます。

最近ではデイサービスで教わった絵手紙を自宅でも描くようになりました。住所録を見ながら友人ひとりひとりの顔を思い出して、絵手紙を描いていると心が安らぐのだとか。これまで大切にしてきた友人や仲間の存在によって、宏子さんは認知症になってもひとり暮らしを続け、心豊かな生活を送っているようでした。


自分が望む老後は一朝一夕で実現することはできません。宏子さんは「寂しくない老後を送りたい」という望みをかなえるために、これまで仲間や友人を大切にすることを心がけてきました。宏子さんはまさに「自分で自分を介護」をしてきたのです。


「介護」とはその人が望む生活を送るための支援であり、その実現に至るまでの過程をも含むものだと私は考えています。自分が望む生活を送るための過程が、「自分で自分を介護する」ということだと捉えているのです。


おそらく、「介護」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは食事・入浴・排せつなどの日常の動作の手助けのことなのではないでしょうか。私の見解では、それは「介助」という言葉で表現される行為なのです。

3. 望んだ暮らしを実現している人が言わないたったひとつの言葉

前述の野沢宏子さんは『11の成功例でわかる 自分で自分の介護をする本』に登場するひとりです。本書にはほかにも、詐欺の被害に遭った人、手足が自由に動かせない難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)となった人、パートナーと別居した人などの例も紹介しています。

 

11人の共通点はそれぞれの困難を抱えながらひとり暮らしを続けていること、そしてレジリエンス(resilience)があることです。レジリエンスとは「困難にぶつかっても、しなやかに回復し、乗り越える力(精神的回復力)」のこと。この本では、彼らの「心の持ちよう」にも重点をおいて書きました。

 

介助が必要になってもひとり暮らしを続けている人を取材するなかで、彼らが口にしなかった言葉があります。それは「無理でしょう」という一言です。それを言う前に、友人や周囲の人に自分の意向を素直に伝え、そのことをきっかけに解決に導いてくれる人や機関にたどり着くケースもありました。

 

家族にケアの負担をかけたくない。自身がケアをしている方なら、なおさらそう感じるのではないでしょうか。自分で自分を護り、ひとり暮らしを実践している11人の体験ストーリーは、「自分もできるかも?」とあなたにアナタに勇気を与えてくれるはずです。

 

MySCUE記事 11の成功例でわかる 自分で自分の介護をする本

 

『11の成功例でわかる 自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)


写真(トップ):PIXTA

 

 

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著者:小山朝子

介護ジャーナリスト。東京都生まれ。
小学生時代は「ヤングケアラー」で、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。この経験を契機に「介護ジャーナリスト」として活動を展開。介護現場を取材するほか、介護福祉士の資格も有する。ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点から執筆や講演を精力的に行い、介護ジャーナリストの草分け的存在に。ラジオのパーソナリティーやテレビなどの各種メディアでコメントを行うなど多方面で活躍。
著書「世の中への扉 介護というお仕事」(講談社)が2017年度「厚生労働省社会保障審議会推薦 児童福祉文化財」に選ばれた。
日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、オールアバウト(All About)「介護福祉士ガイド」も務める。

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