「ケア活」とは、シニアケアや介護に備えるための活動です。実は、親と一緒にスーパーへ買い物に行くことも立派なケア活のひとつです。一緒に買い物をする何気ない時間の中に、心身の変化に気づくヒントが隠れています。

この記事では、理学療法士の視点から、買い物中の行動から心身の変化を早めに見つけるポイントを解説します。

1. 買い物は心身の状態を自然に確認できる場所

買い物には「歩く・選ぶ・考える・支払う」といった日常の動作が自然に含まれています。実はその一つひとつの動きに、身体機能や認知機能の変化が表れるのです。

例えば、一緒に買い物をしながら次のような点に注目すると、親の心身の状態を自然に確認できます。

・歩くスピードやふらつきの有無(筋力・バランス機能)

・疲れやすさや立ち止まる回数(体力)

・商品の選び方や売り場探しの様子(記憶力・集中力・場所の認識)

・支払い時のやりとり(判断力・計算力)


こうした変化は、病院での検査を受けなくても、日常生活の中で気づけるものです。シニアケアの専門知識がなくても「最近ちょっとおかしいかも?」という小さな違和感が、早めの介護予防につながる大切なサインとなるのです。


シニアの買い物風景

2. 買い物中に気づける身体機能の変化

買い物中の動きや様子から、身体機能の変化に気づける具体的なポイントをご紹介します。


・歩くスピードが落ちていませんか?
以前より歩くのが遅くなり、周りの人に追い抜かれることが増えたら、体力や筋力が低下し始めたサインです。

特に「横断歩道の青信号を渡りきれない(1秒に1m進めない)」状態は、筋肉量が減少する「サルコペニア」のサインかもしれません。一緒に歩く際に、それとなく様子を見てみましょう。

歩幅が狭くなっていませんか?
ちょこちょこと小刻みな足取りで歩くようになったら、脚の筋力やバランス能力の低下が考えられます。私たちは歩くとき、片足で体重を支えながらもう一方の足を踏み出します。しかし筋力やバランス機能が衰えると、転倒を防ごうと無意識に歩幅が狭くなるのです。

一見すると安全な歩き方に見えますが、これも身体機能低下のサイン。足を引きずる「すり足」も同様です。

・カートに頼りすぎていませんか?
買い物中、ショッピングカートに体を預けるように寄りかかって歩いていませんか? これは、転倒への不安や、脚・腰の痛みを抱えているサインかもしれません。

背景には、筋力やバランス能力の低下、関節の変形といった問題が隠れている可能性があります。荷物を運ぶためのカートを杖代わりにしているなら、歩行能力の低下を疑ってみましょう。

・じっと立っているのが辛そうではありませんか?
レジ待ちなど、少しの時間立っているだけで疲れた様子はありませんか? 足踏みをしたり、体重を左右にかけ替えたり、棚やカートに寄りかかったりするのは、足腰の筋力が衰え、じっと立つことが難しくなっているサインです。

こうした様子が見られたら、日常生活全般で疲れやすくなっている可能性も考えられます。

3. 買い物中に気づける認知機能の変化

次に、買い物中の行動や判断から、認知機能の変化に気づける具体的なポイントをご紹介します。

・同じ商品をいくつも買っていませんか?
同じものをうっかり買ってしまうことは、誰にでもあることです。しかし、それが何度も続くようであれば、記憶力や注意力に変化が起きている可能性があります。

年齢とともに記憶力が変化してくると、以前に買ったものを覚えておくことが難しくなり、同じ商品を重複して購入してしまうことがあります。

「特売だったから」といった明確な理由がない場合は、買い物メモを一緒に作ったり、一緒に買い物に行ったりするなど、自然な形でのサポートを始めてみましょう。

・商品を探すのに時間がかかっていませんか?
いつも行くスーパーのはずなのに「どこにあったかな?」と迷いながら棚の前を行ったり来たりして、商品を探すのに時間がかかっている。そんな場面をよく見かけるようになったら、注意力や集中力の変化が関係しているかもしれません。

年齢とともに、集中力や注意力が変化してくると、多くの商品の中から目的のものを見つけることが難しくなり、以前より買い物に時間がかかることがあります。


レイアウトの変更やその日の体調など、他の要因も考えられますが、頻度が増えているようなら「一緒に探そうか」などと声をかけてサポートしましょう。

・小銭を使わずに支払うことが増えていませんか?
支払い時に一万円札や五千円札ばかりを使い、小銭を使わなくなっていませんか? その結果、財布に小銭がたまっていたり、支払いに戸惑ったりするようであれば、細かい計算や操作が負担になってきているサインかもしれません。


小銭を探す手もと


小銭での支払いには、金額の計算、小銭の選別、指先の操作など、複数の認知機能や運動機能を同時に使います。こうした機能は、年齢とともに少しずつ変化していくものです。

そのような場合には「ゆっくりでいいですよ」と声をかけてもらえるお店を選んだり、混雑していない時間帯に買い物をしたりするなど、本人のペースに合わせた方法を探してみましょう。

4. 気になる変化があったときは?

買い物には、記憶力や判断力、身体の動きなど、日常生活に必要な心身の機能が総合的に関わっています。だからこそ、買い物中の小さな変化は、心身機能の変化を早期に発見する大切なサインになるのです。

もし、気になる変化が続くようであれば、かかりつけ医や地域包括支援センターなどに相談することをおすすめします。
「少し心配かも」と思ったときこそ、ケア活の始めどきです。親との買い物時間を、さりげない健康チェックの機会として活用してみてください。



監修:中谷ミホ



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この記事の提供元
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著者:鈴木康峻

2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。

得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど

保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級

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