「デイサービス」「訪問介護」「ショートステイ」といった介護サービスの名称は聞いたことがあっても、実際にどんなことをしているのか、自分や家族に合うサービスなのか、不安に思う方も多いのではないでしょうか。
本連載では、実際の介護現場を訪問し、スタッフや利用者の生の声をお届けします。リアルな現場を知ることで、サービス選びの参考にしていただければ幸いです。
今回は、広島県三原市にある住宅型有料老人ホーム『あすなろ苑』を訪問し、施設長の多森さんにお話を伺いました。住宅型有料老人ホームとはどのような施設なのか、実際の暮らしはどうなっているのか、詳しくご紹介します。
今回訪問した住宅型有料老人ホームは、生活相談や緊急対応、食事提供などのサービスを提供する高齢者向けの住まいです。介護が必要な場合は、入居者が外部の介護サービス事業者と個別に契約して利用します。
「入居者が自由に介護サービスを選べるのが住宅型の特徴です。必要なサービスだけ利用できるため、費用を抑えやすいというメリットがあります」と多森施設長は説明します。
JR三原駅から車で約10分、静かな住宅街にある「あすなろ苑」は、株式会社ケアハートが平成20年8月に開設した住宅型有料老人ホームです。4階建ての建物の2〜4階が居住スペースで、入居定員は50名。全45室のうち、夫婦で暮らせる2人部屋も用意されています。

住宅型有料老人ホームでは、入居者一人ひとりの生活リズムや希望に合わせた暮らしが可能です。あすなろ苑の場合、食事の時間以外はとくに決まったスケジュールがなく、朝は自然に目が覚めてから、その日の体調や気分に合わせて一日が始まります。
日中の過ごし方もさまざまです。デイサービスに通う方、訪問介護のヘルパーによる入浴介助や掃除などのサービスを受ける方、お部屋でゆっくりと過ごす方、ご家族と外出する方など、それぞれが自由に時間を過ごしています。
また、年間を通じて、お花見や七夕会、クリスマス会などの季節行事も開催され、暮らしに彩りを添えています。協力医療機関の医師による定期往診も行われ、健康管理の面でも安心です。
①併設事業所による切れ目のない支援
多くの住宅型有料老人ホームでは、館内に訪問介護や訪問看護などの介護事業所を併設し、入居者一人ひとりのケアプランに基づいた介護保険サービスと、施設が提供する保険外(実費)サービスを組み合わせて、24時間365日のケア体制を整えています。
あすなろ苑も同様に、建物1階に訪問介護(ヘルパーステーション)、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、通所介護(デイサービス)を併設しています。
「併設事業所があることで情報共有がスムーズになり、急な体調変化にも素早く対応できます」と多森施設長。夜間も職員が常駐し、入居者の安心な暮らしを支えています。
②幅広い入居条件と医療的ケア
住宅型有料老人ホームは職員配置に法的な基準がないため、施設ごとに入居条件や医療対応の体制が大きく異なります。あすなろ苑では、自立の方から要介護5の方、認知症や寝たきりの方まで入居可能です。さらに、協力医療機関や併設の訪問看護ステーションとの連携により、痰の吸引や胃ろう、膀胱留置カテーテル、ストーマ(人工肛門)、在宅酸素の管理など、日常的な医療行為が必要な方にも対応しています。
「住宅型有料老人ホームは、法的な人員配置基準がない分、各施設の設備や人員配置に特色が表れます。当施設では医療的ケアが必要な方も安心して暮らせる環境を整えました」と多森施設長は話します。
③「その人らしい最期」を支える看取りケア
看取りケアとは、人生の最終段階にある方が、できる限り穏やかに、その人らしい最期を迎えられるよう支えるケアのことです。住宅型有料老人ホームで看取りまで対応する施設はまだ多くありませんが、あすなろ苑ではこれまでに30名以上の方の看取りケアを行った実績があります。
実際の看取りケアでは、ケアマネジャーを中心に、訪問看護師や協力医療機関の医師、訪問介護のヘルパー等がチームを組んで、24時間体制でサポート。医師の指示のもと、点滴や疼痛管理、清拭や体位変換など、医療と介護の両面から支援を行います。また、24時間いつでも面会が可能で、ご家族が居室に泊まり込み、最期の時間を共に過ごすこともできます。
「大切な人に囲まれて、その方らしい最期を迎えていただきたい」という思いが、あすなろ苑の看取りケアの根底にあります。

あすなろ苑の入居者の方、お二人に入居のきっかけを伺うことができました。
横路愛子さん(91歳)は、自宅で転倒して足を骨折したことから、一人暮らしの継続が難しくなり入居を決めました。
「一人暮らしの時は体調が悪いときは、自分でタクシーを呼んで病院へ行く必要がありましたが、ここではコールボタンを押せばすぐに職員さんが来てくれます。この安心感が何より心強いです」と話してくださいました。
広島市内で一人暮らしをしていた矢野暁美さん(84歳)は、三原市内に住む妹さんの紹介で見学に訪れたのがきっかけでした。
「見学に来た時の職員さんの優しい眼差しと対応に感激して、すぐに気に入りました。ここでの生活は、職員さんがよく声をかけてくれるので孤独を感じません。おかげで毎日穏やかに暮らしています」と、優しい笑顔で話してくださいました。
多森施設長によると、入居のきっかけとして最も多いのは、一人暮らしや高齢夫婦世帯で、認知症の進行や身体機能の低下により自宅での生活が困難になったケースです。ケアマネジャーからの相談が全体の半分以上を占め、次いで病院からの紹介が3〜4割、残りは職員や知人からの紹介による入居だといいます。

最後に、多森施設長に住宅型有料老人ホームを検討する際に押さえておきたいポイントを伺いました。
①月額費用の内訳をしっかり確認する
住宅型有料老人ホームでは、基本料金(家賃・管理費・食費)にも以下の費用が必要です。
●介護保険サービスの自己負担分(介護度や状況により異なる)
●医療費(診察代、薬代など)
●おむつ代などの日常生活費
●理美容代
●保険外サービス(買い物代行、外出付き添い、夜間の介護など)
「特に介護度が高く、多くの介護サービスを必要とされる方は月額費用が高額になる場合がありますので、入居前に具体的な金額を確認しておくことが重要です」と多森施設長はアドバイスします。
②施設の対応範囲を事前に確認する
「住宅型有料老人ホームは施設ごとに対応できる範囲が大きく異なります」と多森施設長。特に以下の4点は必ず確認しておきましょう。
●認知症が進行した場合の対応
●医療的ケア(点滴、経管栄養など)が必要になった場合
●長期入院時の居室確保(3ヶ月以上など)
●看取りケアの対応可否
施設によっては、これらの状況になると退去を求められることもあります。『最期まで施設で暮らせる』と思って入居したのに、途中で転居を余儀なくされるケースも少なくありません。入居前に必ず確認しておくことが大切です。
住宅型有料老人ホームは、介護サービスを自由に選べる柔軟性と、自分らしい生活を続けられる自由度の高さが魅力です。ただし、施設により対応範囲や料金体系はさまざま。今回訪問したあすなろ苑のように、医療対応や看取りケアまで幅広く対応している施設もあれば、限定的な施設もあります。
大切なのは、ご本人やご家族のニーズをしっかり整理し、それに合った施設を選ぶこと。費用面や対応可能な状態について事前にしっかり確認することで、安心して長く暮らせる「終の住処」を見つけることができるでしょう。
【取材協力】
住宅型有料老人ホーム あすなろ苑(株式会社ケアハート)
所在地:広島県三原市頼兼二丁目9番10号
ホームページ:https://careheart.jp/
著者:中谷 ミホ
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。
保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級