認知症ケアに役立つ回想法の効果と自宅でのやり方│介護福祉士が解説

回想法は、1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラーによって提唱された、主にシニアを対象とした心理療法です。昔の思い出や経験を振り返ってもらうことで、これまでの人生と現在の自分を肯定的に受け入れ、精神の安定をはかることを目的としています。

認知症の方は、直近の記憶は忘れてしまいやすい一方、昔の思い出は覚えている傾向があるため、多くの高齢者施設で定期的に回想法が実施されています。

回想法によって、昔のことを思い出して相手に話す過程で脳が活性化され、認知症を予防したり、進行を緩やかにしたりする効果が期待されています。他者と会話することで不安や孤独感が和らぎ、気持ちが穏やかになり、情緒の安定にもつながるといわれています。

また、過去を思い出すことで、これまでの人生を再認識すると同時に、現在の自分についても肯定的に捉えなおすことができます。

回想法は、グループで行うものとマンツーマンで行うものの2種類がありますが、今回は自宅で実施しやすいマンツーマンで行う方法を紹介します。

①回想法で使用するものを準備する

本人に過去を思い出してもらうためのきっかけとして、五感を刺激するものを用意すると、特に記憶がよみがえりやすくなります。

以下のものから、準備できそうなものを探してみましょう。

■視覚
・本人の昔の写真
・当時の新聞の切り抜きなど

■聴覚
・CD
・歌詞カード

■触覚
・当時使っていた生活用品
・仕事道具

■味覚
・地域性のある食べ物
・以前よく食べていたもの

■嗅覚
・好きな花
・好きな香り

実物を用意するのが難しければ、パソコンやスマホで探して本人に見せても問題ありません。

②本人と語り合う
写真や現物をケアラーと本人で一緒に見たり、本人が好きな歌を一緒に歌ったりして、当時の思い出を振り返ってもらいます。本人の幼少期に印象的だった地域の行事など、地域性のある話題も話が盛り上がりやすくなります。

「その時、この辺りはどんな雰囲気だった？」
「近所でテレビを持っている家はあったの？」
などと、時折質問を挟むのもよいでしょう。

本人の性別によっても興味を持ちやすい話題に違いがあります。

男性の場合・・・スポーツ全般（野球・大相撲・ゴルフなど）、囲碁・将棋、自動車、バイクなど

女性の場合・・・家事全般（料理・掃除・裁縫）、園芸、生け花、ファッションなど

スポーツの話題は、本人の青春時代に横綱だった力士や活躍したプロ野球選手、高校野球で強かった学校などを調べておくと話が弾みやすいです。

また、花嫁修業として料理や生け花などを習っていた女性が多く、生け花の流派や得意料理などから話が広がることもあります。

回想法の時間を、より充実したものにするための工夫を3つご紹介します。

■環境を整える
見知らぬ人が大勢いる場所や、騒がしい場所だと落ち着かないため、自宅のリラックスできる部屋で行いましょう。お茶やお菓子を用意して「雑談の一環」として行うと、お互いリラックスして話しやすくなります。

■実施した記録を簡単に残す
本人が楽しそうに話した話題や歌などをメモに残しておくと、次の回想法に活かせます。定期的に行う場合、毎回簡単に記録を残すことで本人の変化にも気づきやすくなるでしょう。

■他のセラピーと組み合わせる
・回想法で話した思い出を色鉛筆やクレヨンなどで描いてもらう「絵画療法」
・回想法で使用した雑誌の切り抜きや写真などを自由な感性で紙に貼り付ける「コラージュ療法」

このように、ほかのセラピーと組み合わせて行うとさらに充実した時間となり、脳の活性化にもつながります。

上記以外でも、俳句や楽器など本人の趣味があるものと組み合わせてみるとよいでしょう。

回想法は薬を使わない心理療法なので副作用はありませんが、実施するうえで注意する点が４つあります。

■基本的に戦争や政治に関する話題は避ける
戦争や政治運動などのセンシティブなテーマは、本人にとって辛い記憶を思い出す可能性があるため、基本的に避けましょう。例外的に、本人が軍歌が好きだとあらかじめ知っている場合は、音楽療法として取り入れる場合もあります。

■本人のペースで話してもらう
本人に過去を振り返ってもらうなかで、戦争をはじめとした思い出すことが辛い出来事に直面することも少なくありません。

本人のペースを尊重し、無理に話を引き出そうとしない関わり方も、安心して話せる環境づくりのひとつになります。

■本人の話を否定しない
回想法の目的は、本人に過去の思い出を語ってもらうことです。歴史的な時系列や細かい内容が事実と異なっていても、訂正する必要はありません。会話の中で否定が多くなると、かえって本人の自己肯定感を下げ、話す意欲を失わせてしまう恐れもあります。

本人の気持ちに寄り添いながら、話を傾聴する姿勢を忘れないようにしましょう。

■時間は1回1時間以内にする
回想法で、本人が疲れ果てるまで話させるのは逆効果です。1回につき1時間以内に設定し、定期的に行う場合は「毎週〇曜日の〇時から」と決めておくと、本人にとっても楽しみになります。

回想法の実践方法について学べる市民講座も各地で開催されており、オンラインで学べる講座もあります。より自信を持って行いたい場合は、受講を検討してもよいでしょう。

回想法は、ケアラーの知らなかったエピソードが出てくることも多く、双方にとって有意義な時間となり得るのが大きなメリットです。

思い出の品そのものを用意できなくても、スマホで画像を検索すれば簡単に実践できるので、ぜひご自宅でも行ってみてはいかがでしょうか。

 監修：中谷ミホ

 写真：PIXTA