スキーのように両手にポールを持って歩く「ノルディック・ウォーク」。ポールがあれば、いつでもどこでも、自分のペースでウォーキングを楽しめます。北欧・フィンランドで生まれたこの運動は、クロスカントリースキー選手たちの夏期トレーニングがルーツ。1990年代に専用ポールが登場し、2007年には日本人向けの歩き方が考案されました。ひざや腰への負担を減らしながら運動できることから、現在ではシニア世代の健康づくりにも広く取り入れられています。

ノルディック・ウォークは、2本のポールを使って歩く北欧発のウォーキングスタイルです。全身の約9割の筋肉を使う全身運動であり、通常のウォーキングよりも高い運動効果が得られます。ポールを使うことで支持基底面(体を支えるために地面と接している部分がつくる面積のこと)が4点となり、バランスが向上し転倒防止にもつながります。
日本では1990年代に紹介され、2007年にはひざや腰への負荷を軽減する日本独自のスタイルが確立されました。誰でも簡単に始められる安全な有酸素運動として、シニア層を中心に人気が高まっています。

ノルディック・ウォークは「すべての人に有益なウォーキング」といわれています。特に以下のような人におすすめです。
●運動不足を解消したい人
スポーツは苦手だけれど、運動不足を解消したい人に適しています。
●健康診断で指摘を受けた人
メタボリックシンドローム、脂質異常症(高脂血症)、高血圧、糖尿病を指摘されている人の生活習慣病予防に役立ちます。
●姿勢や体形を改善したい人
シェイプアップや姿勢矯正、美しい歩き方をしたい人におすすめです。肩甲骨を動かすことで猫背が改善され、姿勢がよくなります。ウエストの引き締め効果も期待できます。
●体に痛みや不安がある人
ご高齢で体力に自信のない人、あるいは腰痛、ひざ痛、股関節痛があり、通常の歩行が困難で悩んでいる人にも適しています。リハビリテーションや介護予防の一環としての活用も期待されています。
●専門的な支援が必要な人
リハビリ・介護予防・転倒予防の一環として活用を検討している専門職の人にも推奨されます。さらに、医療現場では、ロコモティブシンドローム対策、呼吸器リハビリ、心臓リハビリ、認知症予防対策、脳梗塞による片まひの人に対するリハビリなど、あらゆる分野での活用が進んでいます(ただし、これらは専門のドクターの指導のもと、オーダーメイドの活用方法が存在します)。

ノルディック・ウォークは、一般的なウォーキングに比べて非常に高い健康効果が期待できます。
●高い運動効率とエネルギー消費
ノルディック・ウォークは全身の約9割の筋肉を活用する全身運動です。連盟の調査では、通常のウォーキングよりもエネルギー消費量が2〜3割増えることが明らかになっています。運動強度を示すメッツで見ると、安静時が1メッツであるのに対し、「散歩」は3メッツ、「ウォーキング/速歩」は4.3メッツですが、ノルディック・ウォークは5.2メッツに相当します。週に2回1時間ずつノルディック・ウォークを楽しめば、厚生労働省の定める週間必要運動量の約半分が達成できる計算になります。
●関節への負担軽減と転倒予防
両手にポールを持つことで四足歩行となるため、消費カロリーはアップするにもかかわらず、腰や両脚(特にひざ、足首や関節など)にかかる負担は逆に大きく軽減できます。このため、体感的には楽に感じるのがノルディック・ウォークの最大の特長です。また、バランスがとりやすくなるため、歩行時の転倒を防ぎ、シニア世代の健康づくりや介護予防に役立ちます。
●ダイエット、姿勢矯正、肩こり解消
上半身の筋肉を活動させるとともに、適正な長さのポールを持つことで背筋が伸び、歩幅が広がり、理想的なウォーキングフォームを身につけることが容易になります。肩甲骨を動かす運動のため、猫背が改善されて姿勢がよくなります。必然的に体幹部のねじれが生じ、ウエストの引き締め効果も期待できます。また、首や肩の筋肉への血行がよくなるため、肩こり解消にも効果的です。
●リフレッシュ効果と精神的な効能
緑豊かな公園などを歩くことは、季節の草花や川を泳ぐ魚を眺め、五感が刺激され、心も体もリフレッシュできます。森や湖、小川のほとりをノルディック・ウォークすることで、リラクゼーション効果やNK細胞(がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃する免疫細胞)の増殖も期待できます。

ポールには、「ディフェンシブポール」と「アグレッシブポール」の2種類があり、それぞれ効果や目的が異なります。ノルディック・ウォークは、体の状態や運動の目的に合わせて強度を調整できるのが魅力です。ポールの突く位置や角度を変えることで運動強度を調整できます。
●ディフェンシブスタイル(運動強度:弱)
ポールを踏み出した足の横にほぼ垂直に突くため、ポールが体重を大きく支える役割を果たします。これにより、ひざや腰の負担を軽減しながら歩くことができ、歩行に不安がある人やリハビリ、姿勢矯正を目的とした人に適しています。使用するのはディフェンシブポールです。
●スタンダードスタイル(運動強度:中)
ポールを突く位置が踏み出した足と残った足の間あたりで、自然な腕の動きに合わせて行います。ディフェンシブよりも推進力が付き、体力の向上を目指す人や、活発なウォーキングを楽しみたい人向けです。ディフェンシブポール、またはアグレッシブポールを使用します。
●アグレッシブスタイル(運動強度:強)
ポールを残った足のつま先あたりに突くのが特徴で、強く突くことで体が前に押し出され、歩幅とスピードが上昇し前傾姿勢になります。運動強度が非常に高く、心臓への負担も大きくなるため、アスリート向けのトレーニングや上り坂での活用が推奨されます。ひざや腰に不安がある人には推奨されず、ポールの長さも長いアグレッシブポールを使用します。
ノルディック・ウォークは、慣れてきたら歩くスピードを速めて運動強度を強めるなど、体の状態や運動の目的に合わせて強度を調整できるため、継続しやすいのが魅力です。自分のペースで運動強度をコントロールしましょう。

緑豊かな公園や、季節の草花、川を泳ぐ魚を眺められる場所など、自然の中を歩くことで、心と体がリフレッシュできます。現在、欧州では最も愛好者が増えているスポーツといわれ、至る所でコースが設置されています。
日本でも長野県をはじめ、山形、岩手、青森、宮城、新潟、北海道などで続々とコースが設置され、大会も各地で誕生し始めています。また、砂浜を歩く「ビーチノルディック」も新しいトレーニング方法として注目されています。
仲間と会話しながら歩くのは非常に楽しい経験です。五感が刺激され、心も体もリフレッシュできます。

ノルディック・ウォークを始めるには、各地域で開催されている体験会に参加してみるのがおすすめです。安全で効率的な歩き方を学ぶためにも、体験会をぜひ活用しましょう。(一社)東京都ノルディック・ウォーク連盟では体験会を定期的に開催しているほか、(一社)全日本ノルディック・ウォーク連盟のウェブサイトでも全国の体験会情報が確認できます。
また、全国各地に設置されているノルディック・ウォークステーションは、地域における活動拠点としての役割を担っています。ここには、運動強度別の指導プログラムを身につけたWLM(ウォーキングライフマイスター)や公認指導員が在籍し、適時体験会や講習会を実施しています。さらに、連盟公認の安全基準を満たしたポールや関連グッズの販売・斡旋も行っています。体験会・講習会やイベントに関する詳細については、各ステーションに直接お問い合わせください。

実際にノルディック・ウォークを体験した人からは、さまざまな体の変化や喜びの声が届いています。その一部をご紹介します。
「介護の仕事をしています。仕事前に歩くと血行がよくなって体が軽くなるので、仕事中も楽に動くことができるようになりました」(60歳女性)
「始めて1年になります。以前より、階段の上り下りがラクになり、気づけば足首が細くなりました! 次は二の腕の引き締めを目標に頑張りたいです」(58歳女性)
「義母にすすめられて体験しました。運動経験が少ない私にもちょうどよい運動量で、ひざや腰に負担を感じることなく、無理なく続けられそうです」(42歳女性)
「半年ほど前から週1ペースで続けています。体が全体的に引き締まり、以前より太りにくくなったことを実感しています」(51歳女性)
東京都ノルディック・ウォーク連盟代表理事の山下義尚さんは、その効果について、「ポールを使うことで肩甲骨を大きく動かすため、猫背が改善されて姿勢がよくなります。ウォーキングの延長線上の運動でありながら、その運動効果はウォーキング以上です」と話します。
さらに、「緑豊かな公園などを歩く体験会を開催しています。季節の草花や川を泳ぐ魚を眺めながら、仲間と会話しながら歩くのは本当に楽しいですよ。ぜひ気軽に試してみてください」と、仲間との交流がもたらす健康効果についても述べています。
ノルディック・ウォークは、2本のポールを使うことでウォーキング以上の運動効果を発揮しながらも、ひざや腰への負担を軽減できる理想的な健康法です。ポールで全身の筋肉を使うため、効率良く全身を鍛えられるだけでなく、姿勢の改善や認知機能の維持にも役立ちます。自然を感じ、仲間と交流しながら無理なく続けられる「生涯スポーツ」として、今、幅広い世代から注目を集めています。まずは、お近くの体験会に参加し、ポールの持つ推進力と安心感をぜひ体感してみてください。
監修:一般社団法人 東京都ノルディック・ウォーク連盟
公式サイト
構成:研友企画出版
【監修者プロフィール】
一般社団法人東京都ノルディック・ウォーク連盟は、東京都におけるノルディック・ウォークの普及と推進を目的とする団体。2012年2月に任意団体として発足し、2017年4月に一般社団法人として設立。一般社団法人全日本ノルディック・ウォーク連盟の東京都下部組織として、健康増進、生活習慣病予防、子どもの運動不足解消、女性のボディリメイク、アスリートのリハビリ、高齢者の歩行寿命延伸など、多様な目的に対応した事業を展開する。主な活動は、体験会や定期教室の開催、地域大会の運営、公認指導員の育成と普及支援、各種イベントや大会への協力、地域サークルの立ち上げ支援など。幅広い世代にノルディック・ウォークの効果と楽しさを伝える活動を実践。東京都足立区を拠点に、健康的なライフスタイルの推進と地域づくりへの貢献を目指す。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。