1. はじめに
介護する人のメンタルヘルスを専門とする、介護者メンタルケア協会代表 橋中今日子です。
私は理学療法士、リハビリの専門家として、14年間にわたり、下は乳幼児、上は100歳を越える方を対象に、リハビリを通じて心と体が元気になるお手伝いをしてきました。
そして、それ以上長く携わってきたのが、家族の介護です。52歳で父がガンで他界してから、大正生まれで認知症になった祖母、度重なる病で寝たきりになった母、知的障害の弟、家族3人を同時にひとりで21年間介護してきました。
現在は、この21年以上の介護経験と、のべ1800件以上の家族介護者の相談から得た情報を元に、家族介護者や医療介護専門職の方のメンタルヘルスだけでなく、企業や行政と連携して、仕事と介護の両立に関する情報を発信しています。
さまざまな介護に関する相談に対応していく中で、気づいたことがあります。それは、相談に来られる方の多くが、今どんな状況で、何をしなければならないのか、次に何をすればいいのかがわからず、パニックになっているということです。
そこで、次々と起こるトラブルに対して混乱しないために、介護の地図として「介護の4つの時期」を作りました。これは、介護者が今どの時期にいるのか、何をするべきなのかをすぐに把握する手助けになるものです。
今回は、この「介護の4つの時期」の大まかな流れをお伝えします。それぞれの詳細な課題やよくある事例などは、追って別の記事で詳しくご説明していきます。
2. 治療と相談をする「パニック期」
まず最初に訪れるのが「パニック期」です。これは、家族が病気やケガによって介護が必要になる時期です。突然の介護には、入院から始まるケースと、いきなり家で介護しなければならないケースの2パターンがあります。
病院に入院した場合は、病院に在籍するメディカルソーシャルワーカー(MSW)が、主治医や地域の医療・介護サービスと連携して、退院までサポートしてくれます。
一方で突然在宅介護に突入した場合は、住宅環境や支援体制を整えるために、まず「地域包括支援センター」に相談することをお勧めします。
地域包括支援センターとは、高齢者が地域で安心して暮らすためのサポート機関で、いわば「介護のよろず相談所」です。「お住まいの地域名 地域包括支援センター」で検索してみると、最寄りのセンターを見つけることができます。電話での相談にも対応していただけます。
この地域包括支援センターで「家族が倒れ、介護が必要になった」ことを伝えましょう。書類の書き方や申請方法は、窓口で尋ねながら手続きすると迅速に進められます。
パニック期のポイントは、「医療・支援窓口」と繋がることです。
・入院の場合は、メディカルソーシャルワーカー(MSW)に相談する
・在宅の場合は、地域包括支援センターに相談する
の2点です。
これだけ押さえておけば大丈夫。一からすべての情報を集める必要はありません。要介護者の病状や状態にもよりますが、パニック期はおおよそ3週間~3カ月で落ち着きます。
3. サービス申請や手続きをする「環境調整期」
パニック期が落ち着いたら、次に到来するのが「環境調整期」です。
環境調整期には、介護保険やさまざまな制度を活用して介護環境を整えます。まずは介護保険を申請し、ケアマネジャーを決めるステップに進みましょう。
介護保険の申請窓口は、パニック期でもお伝えした地域包括支援センター、そして市区町村(市役所・区役所・町役場)です。申請すると約1カ月半ほどで要支援・要介護認定が決定し、続いて担当のケアマネジャーも決まります。
要介護度とケアマネジャーが決まるまで時間がかかりますが、緊急に福祉用具やサービス利用が必要な場合は、認定が出る前に前倒しでサービスの利用が可能になることもあります。前倒しで利用できるかどうかは、行政の判断が必要です。
入院から介護が始まるケースでは、病院に在籍しているメディカルソーシャルワーカー(MSW)が、主治医や市区町村の行政窓口と情報を共有しながら、適切な助言を行ってくれます。介護保険申請の時期などについても、転院や退院の時期と合わせて相談しながら進めることができます。
しかし在宅介護から突然始まるケースでは、助言してくれる機関がありません。パニック期で「地域包括支援センターにまず相談しましょう」とお伝えしたのは、いち早く相談窓口と繋がり、環境調整期に移行するためです。
介護保険の申請をしてケアマネジャーが決定し、住環境の整備やサービス利用が始められる状態になるまでに、おおよそ1カ月半~2カ月ほどかかります。この間、申請や手続きで翻弄されますが、慌てず、一つずつ進めていきましょう。
4. 介護者の疲労がピークにくる「生活期」
続いて、実際の介護生活がスタートする「生活期」です。
この時期は要介護者の状態も落ち着き、周りもホッとする時期ですが、介護者自身の疲れがピークに来ます。なぜなら、パニック期と環境調整期の間、入院や転院の手続きに加えて介護保険の申請など、さまざまな対応のために休む暇もなく動き続けているからです。仕事を休んだとしても、休息はできていません。そのため、心身のダメージが生活期にどっと押し寄せてしまうケースがよく見られます。
介護者は休息を取るどころか、24時間365日にわたる介護へと突入していきます。介護中心の暮らしになるからこそ、要介護者自身の休息が必要であることを、当事者はもちろん、周囲の人も知っておく必要があります。
5. 「看取り期」
「看取り期」がいつ訪れるのかを正確に知ることは、誰にもできません。
この時期は、最期をどこで過ごすのか、どこまで医療的なケアを受けるかなど、さまざまな選択と決断を求められます。突然、容態が急変して大きな決断を迫られることもあるでしょう。
介護初期の「パニック期」と「環境調整期」、介護本番が始まる「生活期」では、介護者自身がしなければならないことが山のようにあり、身体の負担と時間的制約に悩まされます。しかし、「看取り期」は、家族が生きる時間を静かに見守ることが多いです。
どのように最後を過ごすか、要介護者と事前に話し合う機会があったとしても、いざその時になれば迷いが出て、心が揺れ動くものです。命に関わる選択と決断を重ね、死生観と向き合うことによる精神的な負担が最も大きくなる時期と言えます。
6. 「パニック期」~「生活期」を何度も繰り返すのが介護
ここまで、「パニック期」から「看取り期」までを簡単に説明しましたが、実際の介護は、「パニック期~環境調整期~生活期」を何度も繰り返しながら長期化していきます。
要介護者の状態は、病状の進行や加齢により変化します。ようやく落ち着いたと思った途端、「転倒して骨折した」「新たな病気が見つかった」など、再びパニック期が訪れ、新たに介護環境を整え直し、新しい介護生活が始まるのです。
この「パニック期」から「生活期」へとのサイクルを目まぐるしく繰り返していく中で、介護者は、今自分が何をすべきなのか、立ち位置を見失いがちです。
さらに介護者を苦しめるのは、何度も起きるトラブルに、職場や周りの人から「またなの!?」という眼差しを投げかけられることです。このサイクルと負担感は、介護体験のない人には理解しづらいものです。