1. パニック期のおさらい
パニック期は、家族が病気やケガにより介護を必要とすることが発覚した時期を指します。
脳梗塞や脳出血など、緊急を要する手術や治療が必要な場合は、入院となります。一方で、認知症や骨折などの場合、外来に通いながら在宅で療養しなければなりません。パニック期は、入院から始まるケースと、いきなり在宅で介護しなければならないケースの2パターンがあります。
パニック期に突入したら、まずは「医療・支援窓口」と繋がりましょう。入院の場合はメディカルソーシャルワーカー(MSW)に相談し、在宅の場合は「地域包括支援センター」に相談します。
パニック期は、おおよそ3週間~3ヶ月で落ち着きます。要介護者の病状が安定し、地域包括支援センターなど相談窓口と繋がることで先行きの見通しがつくからです。入院の場合は、退院の目処がついて自宅に戻れるのはいつか、同じ病院で今後も治療を続けるのか、転院するのかがわかってきます。
2. パニック期の負担と課題
パニック期は、最初の「無理」をしてしまう時期です。突然の事態を切り抜けるために、脳が一気に興奮して緊急モード(闘争逃走反応)になります。つまり、脳が興奮していて、疲れていることに気づいていないため、火事場の馬鹿力で乗り切れてしまうのです。
パニック期に家族にのしかかる負担を、細かく見てみましょう。
・精神的な負担:突然の家族の病やトラブルで大きなショックを受け、病状や今後の生活について不安が募る中、さまざまな手続きや準備が求められる。
・時間的な負担:入院手続きや主治医からの説明などが最優先となり、急遽時間を空ける必要がある。そのため、仕事やプライベートの時間を削って対応する。
・身体的な負担:緊急対応に追われ、休息する時間がほとんど取れない。
・対人関係の負担:同居や近距離別居の家族、心理的距離が近い家族に負担が集中しやすく、特にきょうだい間の負担の差は、その後の介護にも影響する。
対人関係については、次のような問題が起こることがよくあります。
①同居のきょうだいが全てに対応し、別居のきょうだいは知らんぷり
②同居や近距離のきょうだいがサポートせず、遠距離のきょうだいが無理をする
③倒れた親の心配はするが、サポートしているきょうだいへの労いまで意識が向かない
・経済的な負担:医療費や入院雑費がかかるほか、介護保険未申請の場合、福祉用具を自費で購入する必要に迫られる。また、要介護者の自宅や病院への移動費を自身で負担することになる。
3. 事例で学ぶ①退院後の転院・施設 4つの選択肢
父親(67歳)が脳出血で倒れたAさん(40代・女性・会社員)のケースです。
父親は急性期病院(重篤な怪我や病気の手術と治療を行う病院)に搬送され、手術直後、主治医から「右の手足の麻痺が強く残る可能性があります。転院先を探しておいてください」と告げられました。
父親は母親(65歳)と二人暮らし。母親も最近、ひざが痛い、腰が痛いと不調を訴えることが増えていました。Aさんは、実家から車で2時間ほどの場所で一人暮らしをしています。
父親の命が助かったとホッとしたのもつかの間、どのぐらい回復するかも全くわからない状況で転院先を探すように言われて、Aさんはパニックになってしまいました。
「自宅につれて帰ってあげたい、でもどこまで回復するのか全く情報がない」
「母一人での介護が無理だとしたら、私が仕事を辞めて実家に戻らなければいけないの?」
Aさんを支えてくれたのが、急性期病院に在籍しているメディカルソーシャルワーカー(MSW)のBさんでした。Bさんは、父親のことだけでなく、母親とAさんの生活環境や意向を丁寧に聞いてくれ、「今すぐ決められなくて当然です」と共感してくれただけでなく、転院先の候補4種類と、それぞれの特徴を教えてくれました。
1つ目は「回復期リハビリテーション病院」です。リハビリテーション病院は、リハビリテーションを集中的に受けられますが、国から入院対象となる疾患や入院期間が厳しく定められています。基本的には「在宅復帰を目指す人」を対象としているため、施設入居を検討している場合は、入院を断られることもあります。
2つ目は、長期的な入院・入居ができる「医療療養型病院」と「介護療養型医療施設」です。前者は医療保険、後者は介護保険が適応されます。それぞれ医師や看護師の人数は異なりますが、両者ともに急性期・回復期を終え、病状や状態が比較的落ち着いたものの、医療と介護の両方を必要とする方が利用しています。
※国は2024年にこの介護療養型医療施設を廃止し、新設した「介護医療院」への移行と普及を図っています。
3つ目は、介護保険施設である「特別養護老人ホーム」と「介護老人保健施設」です。どちらも介護保険が適用されるので、民間の介護施設よりも費用が抑えられます。このため希望者が多く、入居待ちになることもあり、申し込んでもすぐには利用できない可能性があります。また、人工呼吸器の利用、気管切開、人工透析などの医療的処置とケアを必要とする方の場合、ケアスタッフが少なかったり、施設環境として対応できないなどの問題から、入居を断られることもあります。
4つ目は、民間の介護施設です。民間の施設の中には、医療的ケアが必要な方の受け入れに積極的なところもあります。しかし、介護保険施設よりも入居費用が高くつくため、費用面が大きな課題となります。医療療養型病院への転院待ちや介護保険施設の空き待ちのために、短期的に利用されるケースもあります。
MSWのBさんは、これらの情報を提供してくれた上で「自宅復帰を望まれているのであれば、まずは回復期リハビリテーション病院への転院を第一に考えるといいと思います」と、実家の近くと、Aさんの勤め先の近くにある2つの回復期リハビリテーション病院の情報をくれました。
Aさんは、MSWのBさんから転院先の情報を貰えただけでなく、親身になって話を聞いてもらえたことでパニック状況から脱出し、実家近くの回復期リハビリテーション病院への申し込みをスムーズに行うことができたのです。
4. 事例で学ぶ②自分の知識で判断せずに専門家の意見を聞く
こちらは、私の祖母のケースです。
祖母は83歳の時、転倒して膝蓋骨(しつがいこつ)骨折を受傷しました。手術や入院の必要はありませんでしたが、1ヶ月間ギプス固定での車椅子生活になりました。ひざを曲げられないため、食事動作以外は、自力で行うことがほぼ不可能です。ベッドから車椅子への移動はもちろん、寝返り、起き上がり、トイレと、いきなり全介助状態になりました。しかし、手術を必要としない骨折だったので、急性期病院へは入院ができず、在宅での介護となったのです。
2002年当時、介護保険制度は始まっていましたが(2000年に創設)、地域包括支援センターがなかったため(2005年に創設)、私は社会福祉協議会に相談して介護ベッドと車椅子をレンタルし、市役所で介護保険の申請をしました。
要介護認定が降りるまでには通常1ヶ月半ほどかかります。これからどうしようかと青ざめていた時に、偶然にも私が働いていた病院のMSWのCさんが、「おひざの骨の骨折は、急性期病棟への入院はできませんが、回復期病棟への入院対象ですよ。家族の方だけでは大変でしょうから、ギプス固定期間だけでも回復期リハビリテーション病院へ問い合わせてみませんか? 骨折中の身体機能低下も防げます」とアドバイスをくれたのです。
私は最初「私は理学療法士(リハビリテーションの専門家)ですし、家で見られます。大丈夫です。入院なんて大袈裟ですよ」と反論したのですが、今思えば、祖母を全介助しながら寝たきりの母と障害を抱える弟のケア、加えて働き続けるのは不可能でした。
その後、祖母は回復期リハビリテーション病院でリハビリをしっかりと受けたことで、杖なしで歩けるほどに回復しました。もし、あのまま寝たきりの状態で介護していたらと思うと、ゾッとします。あの時、自分だけの判断で行動しなくてよかったです。この体験から、私自身も医療関係者ではありますが、自分の持っている知識だけで判断せずに、専門家に聞く・相談することの大切さを学びました。
私は運よくMSWの方と繋がることができ、かつ回復期リハビリテーション病院の空きがあったことで祖母を入院させることができましたが、ここまでスムーズに進むのは稀だったと思います。
ですが、現在は地域包括支援センターの存在があります。介護保険の申請、ケアマネジャーの探し方、要介護認定が降りるまでの期間にどのようなサービスが利用できるかなど、介護する人の状況に合わせて、さまざまな情報と助言を得ることができます。
5. まとめ
パニック期のポイントの一つ目は、まず「医療・支援窓口」と繋がることです。
・入院の場合は、「メディカルソーシャルワーカー(MSW)」に相談する
・在宅の場合は、「地域包括支援センター」に相談する
二つ目は、最初に無理の積み重ねが始まる時期なので、介護する人自身が休む時間、自分をケアする時間を意識して取ることです。仮眠する、マッサージを受ける、入浴時にふくらはぎを揉むなど、小さなことで構いません。
介護は長期化しやすいものです。パニック期は、倒れた家族のことばかりに意識が向きやすい時期だからこそ、長期戦に備えて自分自身をケアすることもまた、介護を上手に乗り切るためのコツですよ!