1. 早期発見が最大の予防といわれる認知症。その対策の新しい形
ゴーグルのような機器を目元にセットして、コンピューター上に作られた世界を体感するというVR。近年話題の最新テクノロジーですが、まだまだ聞きなじみがないという人も多いのではないでしょうか。VRは現在、主にゲームやエンターテイメントの分野で活用されていますが、そのVRと視線追跡技術という高度な技術を応用して認知機能をチェックするテストを開発したというのが、東京のスタートアップ企業「株式会社FOVE」です。
「認知症の原因や治療方法はまだまだ解明されていないと言われていますが、重要なのは早期の発見。認知症の前段階にあたる『軽度認知障害(MCI)』の時点で治療を始めることができたなら、脳の働きは回復する可能性があるといわれています」
MCIは日常生活にはほとんど影響がないといわれますが、放置すると徐々に認知症に移行。それにつれて回復も困難になっていきます。だからこそ、脳のコンディションは定期的に、そして気軽にチェックを受けたいものです。
2. キーとなるのは視線。目の動きを追って、脳のはたらきを解析
ユーザーがVR内で認知課題を回答する際の視線の軌道を追跡して評価するというのが、このテストのしくみです。VRヘッドセットを装着すると、テストのスタート画面が目の前に現れます。そこから一問一問、選択肢を目で追う、見つめる動作で回答していくという流れになっています。
「5分の間に、全部で12〜15の認知課題が登場します。課題は認知能力に関わる5つのカテゴリーをカバーしていて、そのカテゴリーとは①記憶力 ②判断力 ③計算力 ④言語力 ⑤空間認知力です」
測定方法の開発にあたっては、筑波大学と連携。医学博士、水上勝義教授の監修のもと、有効性についての臨床研究も行っているそう。
3. 所要時間はわずか5分。結果の受け取りまでその場で完了
次世代の新しい評価方法として、多方面から評価されているこの認知機能セルフチェッカー。サービスの詳細や予約方法などは、ホームページ上でチェック可能です。
「多くの方々から好評をいただき、導入医療機関も全国で徐々に増えています。医療機関リストは、下記二次元コードを読み取って、ご確認いただけます」と古内さん。
医療機関リストは、下記二次元コードを読み取るとご確認いただけます。
そもそもこのテストの開発は、医療の分野の専門家からの問い合わせがあったことが第一歩だったと古内さんは言います。
「FOVEはもともと、ゲーム関連の分野に軸足を置いて、VRヘッドセットの製造と販売を行っていました。そこからヘルスケアというまったく異なる方向へ向かったのは、視線追跡ができるVRヘッドセットというものが数少なかったこと。それに加えて、弊社のヘッドセットによって取れる視線のデータが、とても精度の高いものだったことが理由です。医療に関わる方々から『自分たちの研究や治療に役立つかもしれない』とご指摘をいただき、一気に開発を進めました」
テスト終了後、5分程度で測定結果が手渡されます。その場ですぐにわかるというのも魅的。早期発見がものを言うだけあって、アクションも早く起こしたい。そんなニーズに応えてくれるようなクイックプロセスです。
「実は私たちとしては、高齢者の方々のみならず40代以上の健康な方々にもぜひ試していただきたいと思っています。それはやはり、脳の機能に何らかの症状が出てくる前に、対策をしていただきたいから。いずれは血圧の測定と同じ感覚で、このセルフチェックを行ってもらえるようになればと考えています」
4. 取材を終えて…
介護のある生活の中で、認知症は最も重く困難なテーマではないでしょうか。それなのに、認知症の診断はまだまだ身近なものではありません。早ければ早い方が良いとわかっていても先延ばしにしてしまったり、自覚症状が出てから診断を受けたり……。こういった習慣そのものも、変わっていく必要があるように思います。
今回ご紹介したFOVE社のテストを、編集部のスタッフが実際に受けてみました。ヘッドセットを装着したら自動的に始まり、流れに沿って設問を目で追っていくだけ。とにかくわかりやすい! 誰かに話をしたり、文章を記入したりするのとは違い、回答作業にストレスがないところも良いと感じました。また、回答する間の様子を人に見られているという感覚がないのもポイント。また、被験者の付き添いの方は、モニターでVR内の動作を見守ることができます。テストの流れや被験者の方の様子が把握できるところも、安心感があります。
現在は限られたスポットで展開しているこのVRテストですが、今後は設置場所も徐々に拡大する予定だそう。
FOVEの公式ホームページには、より詳しい詳細とともに、認知症や脳機能に関するコラムも充実。ぜひチェックしてみてください。