要介護者の最期の時間を見守る「看取り期」では、介護者はさまざまな選択と決断を迫られます。介護していた家族が亡くなって10年以上たっていても「あの時の選択は正しかったのか?」、「もっと何かできたのではないか?」と後悔する方は少なくありません。この記事では、看取り期で起きやすいトラブルと対策について、介護者メンタルケア協会代表橋中今日子が解説いたします。

1. 看取り期のおさらい

介護で経験する4つの時期の最後にあたる看取り期は、最期の時間をどこで過ごすのか、どこまで医療ケアをするかなど、さまざまな選択や決断を迫られる時期です。
 
老衰や長患いの末に看取り期に入る場合は、既に介護保険を利用していたり医療機関と連携できていたりするため、サポート体制が整っていることが比較的多いです。しかし、突然倒れたまま意識が戻らないケースや、病状が急変するといったケースもあります。中には、親が旅先で倒れ、縁もゆかりもない土地でいきなり看取りをするなど、予想もしていなかったタイミングや環境、状況の中で看取り期に突入するケースもあります。
 
看取り期に、いつ突入するかを正確に予測することは不可能です。そこで国(厚生労働省)は、いざという時のための準備として「人生会議:アドバンス・ケア・ プランニング(Advance Care Planning:以下、ACP)」を広めることに力を入れています。「人生会議:ACP」とは、看取り期を迎えた時のために、本人が家族や医療・ケアチームと、希望や情報を事前に共有する機会を設けることを指します。私自身の経験からも、事前にACPの機会を作ることは、とても大切なことだと感じています。
 
しかし、先にお伝えしたように、看取り期には想定外のことがよく起こります。介護・医療サービスを提供する事業所は、地域によって数も質も異なるため、家族で事前に話し合って決めた看取りが実現できないこともあります。その結果、理想と現実とのギャップに苦しむこともあります。特に突然の病や事故などで状態が急変した場合、どこまでが回復を目指す治療でどこからが延命治療なのか、医師ですらわからないことも多々あります。
 
何がどうなるかわからない状況で、何度も大きな決断を迫られるのが看取り期の特徴です。

2. 看取り期に直面するさまざまな負担

家族の容態が急変し、突然大きな決断を迫られストレスにさらされることもあれば、看取り期が長期化して、予想外の負担に直面することもあります。今日明日の命だと宣告された後、何ヶ月も小康状態が続き、介護する側(介護者)が先に疲弊するケースもあります。
 
看取り期が突然訪れた場合と、長い期間を経て突入する場合とでは、介護者の負担は異なります。けれども、以下の3つの負担については、状況にかかわらず多くの人が体験しているものです。
 
経済的な負担
・医療、介護サービスを受ける頻度の増加
・遠方に住む介護者の移動や滞在などの諸経費の増加
 
身体的負担
・度重なる移動や、慣れない病室での寝泊まりによる寝不足
・普段とは違う環境に伴う疲労の蓄積
・「最期までしっかり見守りたい」という使命感で、疲れを自覚していても頑張り過ぎてしまう
 
心理的負担
・病院、施設、自宅など、看取る場所の選択や、どこまでの医療ケアを施すかなど、正解のない決断を迫られる
・本人の希望を叶えたいという想いと、理想と現実とのギャップに対する苦悩

3. 事例で学ぶ:不仲だった母との最期の時間が貴重な体験に

看取り期が、家族とのかけがえのない時間になったという方は、とても多いです。親の死生観や価値観、生き様に触れて勇気づけられた方、不仲だった関係が改善できた方もいます。
 
Oさん(40代・女性・会社員)は、体調を崩した母親が末期の膵臓がんと診断され、1ヶ月もたたずに他界するという経験をしました。Oさんは子どもの頃から母親とそりが合わず、進学を機に地元の九州を離れ東京へ移り住み、実家にはほとんど顔を出していませんでした。しかし、突然の余命宣告をきっかけに、母と本音で語る時間を過ごせたと言います。
 
Oさんは「母の最期の2週間に付き添う日が来るなんて想像もしていませんでしたし、母から『今まで、ごめんね』と言われた時は、驚いて声も出ませんでした。これまでのわだかまりが溶けて、本当にいい時間を過ごせました」と振り返っていました。
 
看取りの時間を通じて、不仲だった兄弟姉妹と協力することができた、家族の意外な一面に触れることができたといった体験をされた方がいる反面、兄弟姉妹や親族間との価値観の違いでトラブルを体験する方もいます。
 
私自身も、祖母や母の看取りの際は、姉や親族との価値観の違いで悩みました。しかし、その体験を通じて、価値観が違う人の意見を聞く余裕を持てるようになりました。
 
また、家族との最期の時間をサポートしてくれた医療・介護専門職の人たちが、どれほど心強い存在かということも改めて実感しました。それ以降は、以前と比べて他者に頼ることができるようになったと感じています。自分の死生観を問い直す体験を経て、新しいことへチャレンジする意欲も高まりました。
 
家族を看取る体験は、悲しく苦しいものだけではないのです。

事例で学ぶ:不仲だった母との最期の時間が貴重な体験に

4. まとめ

看取り期は家族の死と向き合う不安や恐れ、答えが出ない問題に対して大きな決断を迫られるプレッシャーが重なります。しかし、過剰に不安を感じる必要はありません。
 
心が揺れ動くのは自然なことです。手続きに追われることもありますが、介護・医療サービスを提供する事業所の方など、支援者の方々と繋がりながら、一つずつ対応していきましょう。
 
また「息を引き取る瞬間に立ち会う」ことにこだわらないでほしいです。必死で付き添うよりも、穏やかな時間を共に過ごす「思い出の貯金」を増やしましょう。
 
理想とのギャップを感じたり、「本人の希望を叶えられていないのではないか」という自責の気持ちが湧き、苦しくなった時などは、これまで頑張ってきた自分を評価し、ねぎらいの気持ちを持ってください。
 

写真:freepik ※トップ画面


この記事の提供元
Author Image

著者:橋中 今日子

介護者メンタルケア協会代表・理学療法士・公認心理師。認知症の祖母、重度身体障がいの母、知的障害の弟の3人を、働きながら21年間介護。2000件以上の介護相談に対応するほか、医療介護従事者のメンタルケアにも取り組む。

関連記事

シニアの体型とライフスタイルに寄りそう、 2つの万能パンツ

2022年7月23日

排泄介助の負担を軽減!排尿のタイミングがわかるモニタリング機器とは?

2022年9月23日

暮らしから臭い漏れをシャットアウト! 革新的ダストボックス

2022年9月5日

Cancel Pop

会員登録はお済みですか?

新規登録(無料) をする