この記事では、認知症を疑う症状がある家族が受診を拒むケースを例に、医療機関や相談窓口とつながるファーストステップについて、介護者メンタルケア協会代表の橋中今日子が解説いたします。

1. 家族に認知症の兆候が……それでも受診を拒まれてしまう

介護が必要にとなる原因の1位は認知症です。その中でも患者数が最も多いアツハイマー型認知症は、脳の老化が原因で発症します。アルツハイマー型認知症は、本人や家族が物忘れの症状などの異変に気づいて受診につながることが多いです。最近では認知症に関する特集がメディアで多く取り上げられることもあって、情報がより入手しやすくなりました。しかし、早期受診の必要性を理解していても、いざ自分や家族が認知症を疑う症状が表れた時には戸惑うものです。家族に受診を拒まれ、困っているというケースは少なくありません。

2. 事例で学ぶ:Bさん(40代、女性)の場合 祖母が認知症かも?本人も家族も受診を嫌がるケース

都内在住の会社員の女性Bさん(40代)のケースを紹介します。Bさんの実家は北関東にあり、母親(60代)は父親(60代)と祖母(80代)と一緒に住んでいます。実家は代々店舗を営む自営業で、祖母は店番や畑仕事をしながら元気に過ごしていました。

 

しかし、1年前から、祖母は「いつも使っているカバンがない‼」「メガネがない」と物を探すことが増えるようになったそうです。母親からの電話で祖母の様子を聞いたBさんは「それって認知症の物忘れの症状じゃない?」と伝えましたが、母親は「そんなに深刻なことじゃないと思うわ」と答えました。

 

半年ほどたった頃、母親から「家が大変なの」と連絡がありました。祖母が「通帳がなくなった!」「泥棒が入った!」と毎日のように大騒ぎしているのだそうです。祖母は一日中物を探し回り、「財布がない、あんた知らないか」と隣近所におしかけて行くこともあるようです。Bさんは「おばあちゃんを早く病院に連れて行ったほうがいいよ」と母親に言いましたが、母親は「認知症かもしれないから、病院に連れて行こうとお父さんに話したら、『そんなはずはないだろう! ただの物忘れだ!』って怒鳴り散らされたの。お父さん、お義母さんにも『こいつ、母さんのことを認知症かもしれないって言うんだ!』って言うのよ。おばあちゃんからも『私のことをボケ老人扱いして、ひどい!』って怒鳴られて、もうどうしたらいいかわからない……」と泣きながら話しました。

 

Bさんは「実家に行って、私がなんとか説得しなければ!」と焦りましたが、ケアマネジャーをしている友人のことを思い出して相談してみました。友人は「まずは、地域包括支援センターにおばあさまの状態とご近所さんの間でトラブルが起きていること、お母さんが疲れていることを伝えてみて。電話で相談できるから大丈夫だよ!」とアドバイスしてくれました。

 

Bさんは、すぐに実家近くの地域包括支援センターの電話番号を調べて連絡をしてみました。友人からのアドバイス通り、祖母の物忘れの症状によってご近所トラブルに発展しかけていること、主に対応している母親は祖母を病院に連れて行きたいと思っているが、父親が反対していること、祖母自身も母親のことを敵視して受診への同意が得られず、疲労困憊していることを伝えました。

 

すぐに、地域包括支援センターの職員から母親に連絡が入り、実家への訪問の日程調整をしてくれたそうです。そして「ご主人も、お義母さまも、本当は受診の必要性を感じておられると思うんです。でも、現状を認めることが辛くて、強い口調で奥さまに当たられてしまっているのかもしれません。ご自身を責める必要はありませんよ」と言ってもらえてほっとしたと、母親は話してくれました。

 

その後、自宅を訪問してくれた地域包括支援センターの職員が父親と祖母に「何もなければそれで安心できます。受診だけでもしてみませんか?」と話してくれたことがきっかけで、祖母は総合病院の受診を承諾しました。

 

祖母はアルツハイマー型認知症との診断を受けました。診断を受けた直後は、父親も祖母もショックを受けていたそうです。その後、介護保険の申請をして要介護1の認定を受けた祖母は、園芸や畑仕事などの活動を積極的に取り入れているデイサービスに通い、以前のような元気ではつらつとした姿を取り戻しています。一日中物を探したり、ご近所さんを巻き込んで大騒ぎすることも減ったそうです。母親がBさんに「家が大変!」と泣いて電話をしてきた日から、約8ヶ月が経過していました。

事例で学ぶ:Bさん(40代、女性)の場合 祖母が認知症かも?本人も家族も受診を嫌がるケース

3. このケースから学べる重要ポイント「まずは相談窓口とつながる」

Bさんは、自分が実家に行って祖母や父親を説得しようと考えていましたが、それでは家族間の軋轢がさらに大きくなっていた可能性があります。Bさんは運よく介護支援の専門家であるケアマネジャーの友人がいましたが、友人・知人に介護や医療の専門家がいなくても大丈夫です。「困った時は地域包括支援センターに相談する」と覚えておきましょう。

一点注意しておいてほしいのは、相談したからといって、すぐに問題解決には至らないという点です。相談する目的は、まず支援の窓口につながり、そこからネットワークを広げ、利用できるサービスの選択肢を増やしていくことです。

 

今回のケースでも、Bさんの友人→地域包括支援センター→医療機関の受診→介護保険の申請→デイサービスの利用と、段階的につながりました。Bさんのケースでは、相談後すぐに受診への同意が得られましたが、なかなかスムーズにはいかないものです。地域包括支援センターやケアマネジャーと相談しながら、年単位の時間をかけて何度もチャレンジした末、受診や介護保険の申請につながったというケースもあります。今悩んでいる方の中には「相談したけれど、思うような支援を受けられなかった」「サービスの利用につながらなかった」という体験をされている方も多いかと思います。1度で諦めず「ダメもとで、何度でも相談する」と頭に入れておくと良いでしょう。

このケースから学べる重要ポイント「まずは相談窓口とつながる」

4. 元気なうちに知っておきたい地域包括支援センターのこと

実はBさんは「介護の相談は地域包括支援センターに連絡する」という知識は持っていました。けれども「介護保険の申請の段階になってから相談する窓口だから、病院に行けていない、診断を受けていない段階では相談できない」と思い込んでいたそうです。

 

地域包括支援センターの連絡先は、インターネットで「お住まいの地域名」と「地域包括支援センター」で検索すると出てきます。トラブルが起きてからでは余裕がなくなるので、事前に検索して調べておきましょう。地域包括支援センターが発行しているパンフレットを入手しておくと、なお良いでしょう。市役所などで配布しています。

 

また、物忘れの症状が出てきたからといって認知症だと断定するのは危険です。認知症に似た症状を引き起こす他の病気が隠れていた、というケースもあります。実際に、認知症の疑いで受診したものの、脳腫瘍が原因であることがわかって緊急手術を受け、命を救われたというケースもあります。「何かおかしい」と感じたら、すぐに医療機関に相談しましょう。早期に原因を特定し、適切な治療を受けることができます。迷わず受診してください。




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著者:橋中 今日子

介護者メンタルケア協会代表・理学療法士・公認心理師。認知症の祖母、重度身体障がいの母、知的障害の弟の3人を、働きながら21年間介護。2000件以上の介護相談に対応するほか、医療介護従事者のメンタルケアにも取り組む。

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