介護の新しい形づくりに取り組む、楠本あやさん。育児と介護に取り組むダブルケアラーであり、高齢者施設の紹介役としてこれまで数多くの家族とコミュニケーションをとってきた彼女がスタートした「カワイク介護」は、兵庫県を中心に、コミュニティ作りの基盤として多くの支持を集めています。そんな楠本さんに、「カワイク介護」の活動と介護に対するご自身の視点についてインタビューを行いました。

1. 「介護」×「カワイク」= 暗いイメージを変えるために

兵庫県芦屋市を中心に活動を展開する「カワイク介護」。その名にある「カワイク」とは、ズバリ「可愛く」という意味だそうです。2020年、独自にこのプロジェクトを始動した楠本さん。イベントとオンラインサロンを主軸に、オリジナルデザインの介護用品の販売なども行っています。立ち上げを決意した理由は、介護に関わる人のみならず、社会で一般的な介護のイメージや意識をポジティブなほうへと変えるためだと言います。
 
「もともと私は育児関連の団体を運営していたのですが、その時にこう感じました。育児は一段落する日が見えるけれど、介護はそうじゃない。終わりが見えない中で、介護に対する向き合い方や情報源を探さなくてはならない……。そういった状況の中で必要なものは何かと考えた時に見えたのが、この『カワイク介護』だったんです」
 
これまでは実地のイベントを開催してきて、その中で「カワイク介護」のことを知った他の地域の方々からも要望が数々。より多くの声にこたえるために、この9月よりオンラインサロンをスタートすることに。
 
「オンラインなら、より広い方と対話できると考えたんです。それに、1人でネットの情報を探していると、精神的に迷子になってしまうことが多々あるんですね。だから、サロンという場で相談に乗ったり、いろいろな提案をしたりという形式が理想的だと考えました」
 
このほかにも、美容や婚活プランなど、介護を頑張る女性のためのサービスも用意。リアルとオンラインの双方で、情報発信やコミュニティ作りに取り組むという形態が、何ともユニークです。
「介護」×「カワイク」= 暗いイメージを変えるために

2. 「介護」×「カワイク」= 福祉の枠を超えて誰もが考えるテーマに

自身も25歳から介護する側の立場に立ってきて、そのうえ娘を出産と育児も同時進行。現在は娘と認知症の祖母とともに暮らしているといいます。介護の現実をよく知る彼女が、介護とはかけ離れたところにあるような「可愛い」という要素を取り入れたのには、どういった理由があったのでしょうか。
 
「カワイイという感情には、人の体温がちょっと上がるようなパワーがあると思うんです。これまでの介護にはネガティブなイメージがありましたし、当事者でなければそもそも関心を持ちづらいという閉鎖的な部分もあったと思います。だから、まずは相互理解が大事。オシャレとカワイイから、社会と介護とのつながりを作ることができたらと思っています」
 
 
こうした思いを乗せて開催したイベント「ユニバーサルカワイイ」には、地域包括支援センターをはじめとする行政や企業も協賛。介護のほか、障がい者やLGBTQといったテーマについてもカバーしたその内容について、「“福祉”感はゼロです」と楠本さん。誰でも参加可能で、5月の開催時の来場者は約600人にものぼった。
 
 
「お互いの顔が見えて人とのつながりがあって……そういうイベントの場だからこそ安心して相談ができたり、知識を深められたりするんですね。また、介護とは関わりのない方が地域包括支援センターの存在を知る、寝たきりだけが介護じゃないというような現実に触れたりするといったように、ハブ的な役割も果たしていました。来場者の皆さんには、思い思いに楽しんでいただけたようです」

3. 経験者として見つめる介護の今と、伝えたいメッセージ

自ら介護に取り組む側であり、同時に仕事では高齢者施設を紹介する役割のもと2000件にもおよぶ介護家族をサポートしてきた経験を持つ楠本さん。今の社会における介護の課題とは一体どんなことでしょうか?
 
「第一に思うのが、認識不足です。多くの方々はがどうしても浅く、また現実と違いすぎている部分も多いのが現状です。例えば、ヤングケアラーの方が周囲の大人に困っていることを相談したとして、『まずは、地域包括支援センターに行ってみるのがいいよ』と答えられる人がどれくらいいるでしょうか。周囲に相談することを勧めるフレーズを耳にしますが、相談してもわかってもらえないのでくじけてしまうんですね。こういった孤立につながっていくような状態から、みんなの目に触れるところに介護というテーマを持っていくのが、本当に大切なんです」
 
 
また、自身の経験もふまえてこんな言葉も。
「ケアラーとして介護に向き合っていて毎日が大変でも、不幸な自分を感じることは避けたいと思っていました。仕事を通じてお会いしてきたケアラーさんたちからも、同じような思いを伺いましたね。介護が始まるとどうしても、ケアを受ける高齢者の方が一番だという意識がご家族の中に芽生えますが、やりたいこと、遊びに出かけることを諦めてしまっていては、いつかパンクして『この状況さえなければ』『対象者がいなかったら』なんて考えてしまいませんか? そして、そんなふうに考えてしまうことに対して、自己嫌悪に陥ってしまう」
 
 
「だから、私はこうお伝えしていました。『ご本人も大切、ご家族の皆さんも大切』と。私も常に、祖母の介護をやりながらも自分の人生をないがしろにしませんし、娘の人生も大事にしています。1人で背負わない、苦しまない。そのためにも、社会全体の意識が変わる必要がありますし、いつでも話をしに行けるコミュニティの重要性が高まっています。そういったことが、『カワイク介護』のゴールともいえるんです」
経験者として見つめる介護の今と、伝えたいメッセージ

4. 取材を終えて…

「辛い、苦しいといったイメージが先行する介護というテーマを、誰もが触れられる場に持っていく」。明るいエネルギーに満ちた楠本さんのお話の中で、とても印象的だったのがこの言葉です。「経験しなければ実像が分からないもの」から「みんなで考えていくもの」へと、変わっていかなければならない介護。そこに必要なのは多様なコミュニティなのかもしれません。
 
 
「要介護というと一般的には寝たきりや認知症などをイメージなさる方も多いですが、実際は本当にいろいろな形がありますよね。そういったことを当事者ではない方々に知ってもらいたいんです」
 
 
介護は受ける側はもちろん、ケアする側のライフスタイルもまた十人十色。介護のあり方そのものが、ひとつのイメージに収まらないのだと、今回の取材を通して改めて実感しました。「カワイイ」というユニークな切り口から生まれていく介護の新しいスタイル、今後も注目したいですね。
この記事の提供元
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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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