介護は100人いれば、100通りのやり方があると言われています。親を自宅で介護するか、施設に預けるかの判断も人それぞれですが、今回はわが家が在宅介護と施設介護をどう考えているかについてご紹介します。

1. 工藤家の介護方針は在宅介護中心

わが家には、介護の基本方針があります。まず可能な限り、認知症の母を住み慣れた自宅で介護する、ということです。仮に介護者であるわたしが疲弊して、精神的にも肉体的にも限界を迎えそうになったら、母に介護施設に入ってもらおうと考えています。
 
この方針はわたしが勝手に決めたものではなく、母とエンディングノートを一緒に書きながら決めたもので、母の意思を尊重しています。母からは「最期まで家で生活したいけど、あんたが介護で大変になったら施設でもいいわよ」と言われています。
 
認知症介護を始めて10年以上経ちましたが、わたしはまだ限界を感じていません。できれば最期まで自宅で介護して、看取りも自宅でできればと思っています。ただ自宅に固執し過ぎると疲弊しそうなので、常に母を介護施設に預ける選択肢は持っています。
 
この方針で母を介護してみて、人に勧められる考え方だと思ったし、理にかなっているとも思うようになりました。なぜ、そう思うようになったのでしょう?

2. 在宅介護からスタートして、介護の知識が深まった

もし介護が始まってすぐに母を介護施設に預けようとしたら、おそらく失敗していたと思います。
 
母は今でも、自分が認知症とは思っていません。忘れっぽさは加齢が原因で、同世代の人と何ら変わらないと思っています。誰の手も借りずに自宅で生活できるのに、何で介護施設に入らなければならないのと、親子ゲンカになったことでしょう。
 
実は自宅から施設に通って介護サービスを受ける、日帰りのデイサービスの利用を決めた際に、なぜ通わないといけないのかとケンカになり、利用するまで2年以上もかかりました。
 
たまたまかかりつけ医から、母に合うデイサービスがあると紹介され、わたしと一緒に見学に行ったところ、母が以前住んでいた地域にあったことや、他の利用者さんとの相性がよかったので、なんとか利用までこぎつけることができました。
 
日帰りのデイサービスですら2年もかかりましたから、住む場所自体が変わる介護施設だったら、それ以上の時間がかかるか、実現はしなかったと思います。
 
とはいえ、わたしも母は自宅で生活できると思っていたので、当時は施設を検討しませんでした。しかし認知症が重度まで進行した今は、病気やけがをきっかけに急に施設に入る可能性が高くなってきているので、施設見学をしています。
 
自宅での介護からスタートしたおかげで、何も知らなかった介護に関する知識が深まったのは大きかったと思っています。
 
母を担当するケアマネジャーさんと話す機会が増え、介護保険サービスの種類や特徴を理解するようになりましたし、サービスをうまく組み合わせることで、母を介護施設に預けなくても、自宅で介護できると思えるようにもなりました。
 
もし最初から母を介護施設に預けていたら、介護のプロに任せたからと安心してしまい、介護保険サービスについて勉強することはなかったかもしれません。
在宅介護からスタートして、介護の知識が深まった

3. 在宅介護で介護費用の節約ができた

最初から母を介護施設に預けなくてよかったと思えたもう1つの理由は、お金の問題です。在宅で介護を長く続けられているので、介護費用を安く抑えられています。
 
介護施設でかかる費用は施設の種類によって違いますが、生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」(2021)のデータによると、在宅介護の平均費用は月4.8万円、介護施設の費用は月12.2万円で、施設は在宅の2.5倍強の費用がかかります。
 
わが家は10年以上、在宅で介護をしているので、このデータに基づいて計算すると、10年の在宅介護の総費用は576万円、施設は1,464万円となり、900万近い節約になります。実際にかかった介護費用とは違いますが、間違いなく節約はできました。
 
介護費用はすべて、母の貯金で賄っています。収入は国民年金と遺族年金のみなので、お金に余裕があるわけではありません。もし10年前から母を介護施設に預けていたら、今ごろ貯金は底をつき、わたしのお金で介護を続けていたと思います。
 
在宅で介護を続けてきたから介護費用が抑えられ、10年以上経った今でも母の貯金だけで介護ができています。今後介護施設に入居することになったとしても、その費用は母のお金で賄えます。

4. 介護についてシミュレーションしておく

改めて在宅介護と施設介護、どちらがいいと思いますか?
 
親自身が最初から介護施設に入りたいと思っていて、元気なうちから自分で介護施設を探す方もいます。また親の健康状態によっては、自宅での介護が難しく、最初から施設に入るしかない場合もあります。
 
介護は100人いれば、100通りのやり方があると言われますが、自分ならどういう介護方針にするかを、親子で話し合ってシミュレーションしておくといいと思います。
 
わが家の介護方針である在宅介護からスタートして、介護施設も視野に入れる方法は、介護を基礎から学ぶうえでもいいですし、金銭面でも節約につながるのでお勧めです。
この記事の提供元
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著者:工藤 広伸

介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。2012年より岩手で暮らす認知症の母を、東京から通いで遠距離在宅介護を続けている。途中、認知症の祖母や悪性リンパ腫の父も介護し看取る。介護に関する書籍の執筆や、企業や全国自治体での講演活動も行っている。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。著書に『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)、『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)ほか
介護ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/

音声配信voicy『ちょっと気になる? 介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

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