1. そもそも介護とは……
普段何気なく口にしている「介護」という言葉の意味を考えたことはありますか? 小学生から「介護って何?」と聞かれたらみなさんはどう答えるでしょうか。
多くの方が「イメージ」で用いている「介護」という言葉は、じつは「介助」のことではないかと感じることがあります。
拙著『介護というお仕事』(講談社)は小学校高学年以上を対象としていますが、同書で私は介護について「誰かの助けが必要な人の、心と体を支えること」、さらにいえば「介護はその人が望んだり、目標とする生活を送るための支援のことで、そのための計画を立てるなど、実現に至るまでの過程も含まれます」と書きました。
それに対し、「介助」とは食事・入浴・排泄など日常の動作の手助けをすることで、「介助」は「介護」を実現するための手段だといえると説明しました。
「介助」には自分以外の誰かの力が必要になるかもしれませんが、「介護」は自分自身でできることもあるというのが私の考えです。
2. 愛されキャラの男性から学んだ介護
私は以前、認知症でひとり暮らしを続けている男性の取材をしたことがあります。彼は自分の住む地域で洋服の仕立屋さんを営んでいました。自宅に伺うと洋服などが所狭しと散乱し、部屋の片隅には古い足踏みミシンがありました。
彼は商売をしていた頃から「自分は大好きなタバコを吸いながら、死ぬまで自分の家で暮したい!」と近所の人たちに言い続けていたそうです。そのため、彼が認知症になってから、
近所の人たちや介護保険のサービスを調整する介護支援専門員(ケアマネジャー)などが、火事を起こさないようにと交代で見守りをしていました。
ご近所の方のこの「介護」のかたちは私の心に残り、認知症になった男性自身も自分の最期の望みを周囲に常々伝えていたことで、「自分で自分の介護」をしていたのだと考えるようになりました。
加えて、彼が「愛されキャラ」であったことも、近所の人から「介護」を受けることができた大きな要因だったと言えるでしょう。
3. ひとり暮らしの高齢者が増えている
65歳以上のひとり暮らし世帯が増えており、高齢者5人のうち1人の割合となっています。今後はとくに首都圏をはじめとする都市部において高齢者が急増する見通しです。
ひとり暮らしの人が増加している理由として、配偶者との死別で独居になった女性の存在(男性より女性の方が90歳時の生存割合は高い傾向にある)や、未婚化による独身者の増加、高齢の親と子の同居率の低下などが挙げられます。
独居の高齢者に取材をすると「子どもからの同居の誘いを断った」というケースも意外と多いのです。「子供に迷惑をかけたくないから」、「ひとり暮らしの方が気楽だから」など、その理由はさまざまでしょう。
ひとり暮らしになってもできる限り自宅で暮らし続けたいと考える人は少なくありませんが、生活に介助が必要になったら難しいのではないかと考える人が多いようです。
その理由としては以下のような点があります。
●往診などをしてくれる医師がいない
●急に病状が変わったときの対応が不安
●誰(どこ)に相談すればよいのかわからない
●訪問看護や介護の体制が不十分だから
上記の不安要素は、「訪問診療」や介護保険のサービスを利用することで解決できる場合があります。訪問診療は、患者の求めに応じて医師が計画的に自宅を訪問し、診察や処置を定期的に行うことを指します。
4. 「最期までひとり暮らし」を実現した人の共通点とは
長年にわたり在宅医療の現場を取材し、認知症や難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気を抱えていたり、人口呼吸器などの医療機器を使いながらもひとり暮らしを貫いてきた方々にお会いしてきました。このような方たちと自分とは違うと思われる方もいるかもしれませんが、これまで一般的な社会生活を営んできた人も少なくありませんでした。
彼らの共通点を唯一挙げるとするならば、「自宅で最期まで暮したい」という明確な「意思」と揺るがない「意志」を持っていたということではないでしょうか。
その方々の住む地域に熱意ある医療や介護のスタッフ、ボランティアが存在していたという幸運もあったのかもしれませんが、それは幸運というより、その方々の強い意志が周囲の人を巻き込んでいった結果だったとも言えるのではないでしょうか。
長年ひとり暮らしをしてきた人も、家族と同居してきて結果的にひとりになった人も、ひとりで最期を迎えます。
本連載ではひとり暮らしを最期まで実現するヒントをお伝えしていきたいと思います。