介護や医療が必要になっても「このまま自宅で暮らし続けたい」という望みをもつ人は多いでしょう。これからの時代は自らで自らを護り、必要な「助け」を自由に活用する意識が必要です。2023年8月に発売された拙著『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)の内容から、先々の不安を解消するためのヒントを紹介します。

1. お口のケア、怠っていませんか

「将来、誰の手も借りずに暮らし続けたい」と願う人は多いでしょう。今回はその願いをかなえるために今から実行できることを紹介したいと思います。
 
それはズバリ「今の生活に意識を向けること」です。
 
最近、よく耳にする「フレイル」とは加齢とともに心身の活力が低下し、要介護状態になる危険性が高くなった状態のことです。要介護の状態と健康の状態の中間に位置し、放っておくと介護が必要になる可能性がある一方、健康に戻れる状態でもあります。フレイルの予防には、①栄養②体力③口の健康④社会参加が大切だと言われています。
 
上記の中で意外と思われたのが「口の健康」かもしれません。歯科医が行った調査によると、口のケアを行った高齢者は行っていない高齢者と比べ、肺炎や発熱の発症率が低かったことがわかりました。さらに口のケアを行うことで認知機能の低下が予防できたという報告もあります。
 
私自身は現在2~3か月に一度のペースで定期的に歯科医院に通っています。歯や歯肉の状態、虫歯の有無などを歯科衛生士に確認してもらい、プラークスコア(歯の磨き残しの割合)が高いときには月に何度か通い、繰り返し歯磨きの指導を受けることもあります。
 
かかりつけの歯科医院がある人とない人の認知症発症までの日数を比べると、かかりつけの歯科医院がない人のリスクは1.4倍になることもわかっています。
お口のケア、怠っていませんか

2. 心地よい香りが日々の暮らしにもたらす効果

以前、ラジオNIKKEIの『知ればナットク、認知症』という番組でパーソナリティーを担当していましたが、この番組でご一緒させていただいたのが世界で初めて「レビー小体型認知症」を発見した小阪憲司先生でした。レビー小体型認知症とは、変異したたんぱく質のかたまりが脳の神経細胞を壊すことで生じ、実際にはいないのにいるように見える幻視などの症状が現れます。
 
小阪先生からは「認知症の予防にはウォーキングが効果的」だと伺いました。
 
ウォーキングという運動だけでなく、街を彩る花や緑を見て季節の移り変わりや風の心地よさを感じることもその効果に繋がっているように思います。
 
最近では、認知症と嗅覚の関係も注目されています。においに鈍感になったら、アルツハイマー型認知症の初期症状が疑われるといわれています。
 
私は自宅の庭にローズマリーやタイム、レモンバーム、マートルなどのハーブや月桂樹(ローリエ)などを植え、日々の暮らしの中でその香りを楽しみ、料理に使うこともあります。
 
取材でパリに滞在していた際、ハーブ薬局を訪れる機会がありました。ここではスタッフが個人の体調や悩みに合わせてハーブティーや精油(エッセンシャルオイル、植物から抽出した天然の香料)を選んでくれるのです。現地で体調を崩した際にここで購入したミントのオイルにはとくに助けられました。ミントには集中力や記憶力を高める効果もあるとか。
 
ドイツでは嗅覚の低下を回復させるためのトレーニングも行われているようです。
 
お気に入りの香りを見つけて生活に取り入れることは今の暮らしにゆとりをもたらし、自分の認知機能を判断するという効果も期待できそうです。
心地よい香りが日々の暮らしにもたらす効果

3. 「睡眠」をおろそかにしない

常日頃から睡眠を大事にし、よく寝ていることを公言している大谷翔平選手。この影響もあってか「睡眠」への関心が高まっています。昨今では認知症と睡眠の関係も指摘されていることをご存じですか。
 
認知症の中でも最も患者数が多いアルツハイマー型認知症は、アミロイドβというタンパク質が脳に蓄積し、神経細胞が破壊されることで発症するのではないかと考えられています。このアミロイドβは、ノンレム睡眠(脳も体も眠っている状態)のときに脳内から排出されるため、睡眠不足になるとアミロイドβが蓄積してアルツハイマー病になりやすいと考えられているのです。
 
質の良い十分な睡眠をとるのが理想的ですが、現代女性にはなかなか難しい課題ではないでしょうか。仕事と家事、さらにSNSや趣味の時間も確保したいとなると、「睡眠時間を削るしかない」という事態に陥りやすいと感じます。
 
かくいう私自身も、仕事や家事、在宅介護で長年にわたって夜と昼との区別ない生活をしてきました。その結果、「なかなか寝付けない」、「深夜決まった時間に目が覚めてしまう」といった睡眠の問題が重なり、挙句の果てに睡眠障害外来を受診することにしたのです。
 
睡眠障害外来を受診すると、思いがけず「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症)」であることがわかりました。隠れ貧血は肝臓や骨髄に蓄えられている「貯蔵鉄」が不足している状態のことです。貯蔵鉄が不足しているかどうかは「フェリチン」の値で診断しますが、会社や自治体の健康診断で行われる血液検査ではフェリチンの値は測定されません。「受診をしなければ、自分が隠れ貧血であることに気づかないままだったかもしれません。
 
周囲から「よく病院に行くね」と揶揄(からか)われることもあるのですが、自分の体で気になったことは放置したり、先送りにしないことも「自分で自分を介護する」ことだと感じています。

4. 自分を振り返る習慣をつけるために

冒頭で述べた「今の生活に意識を向ける」ために、私が実践している方法をひとつご紹介しましょう。それは「3行日記」をつけることです。だいぶ間が空いている期間もありますが、私がかれこれ15年以上続けてきた習慣です。以前はその日あったことを書き綴っていましたが、最近はその日失敗したこと→感動したこと→目標という順番で書くようになりました。この方法で書くと自分自身を客観的にみることができるのだとか。 また認知症の予防として、日記を当日ではなく1日遅れで、前日のことを思い出しながら書くことを推奨している医師もいます。 口の中の清潔を保つこと、適度に体を動かすこと、睡眠を怠らないことなど、今回紹介してきたことは生活の基本的な心構えだといえます。しかしながら忙しい日々を送っていると、「自分の体の声」に気づかなかったり、気づいても無視してしまうことがあるでしょう。

 

かといって完璧を目指そうとすると息切れしてしまいます。 将来の自分のために、軌道修正を図りながら毎日を過ごしていきましょう。

 

写真下:『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)

自分を振り返る習慣をつけるために
この記事の提供元
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著者:小山朝子

介護ジャーナリスト。東京都生まれ。
小学生時代は「ヤングケアラー」で、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。この経験を契機に「介護ジャーナリスト」として活動を展開。介護現場を取材するほか、介護福祉士の資格も有する。ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点から執筆や講演を精力的に行い、介護ジャーナリストの草分け的存在に。ラジオのパーソナリティーやテレビなどの各種メディアでコメントを行うなど多方面で活躍。
著書「世の中への扉 介護というお仕事」(講談社)が2017年度「厚生労働省社会保障審議会推薦 児童福祉文化財」に選ばれた。
日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、オールアバウト(All About)「介護福祉士ガイド」も務める。

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