介護や医療が必要になっても「このまま自宅で暮らし続けたい」という望みをもつ人は多いでしょう。これからの時代は自らで自らを護り、必要な「助け」を自由に活用する意識が必要です。2023年8月に発売された拙著『自分で自分を介護する本』(河出書房新社)の内容から、先々の不安を解消するためのヒントを紹介します。

1. 「お試し」でサービスを体感してみる

公的な介護保険制度のサービスを利用することで住み慣れた自宅での暮らしを続けている人がいる一方、 「国の施しを受けるのは抵抗がある」、「まだ人のお世話になるような年齢ではない」と介護保険の申請に二の足を踏んでいる人もいます。
 
とくに制度が始まった頃は介護保険制度の申請をしたがらないという人の話をよく耳にしました。制度が社会に浸透してきた現在では介護サービスを利用することに抵抗感を抱く人が減った印象はあるものの、依然として個人の価値観やプライドなどから利用を拒んでいるケースがあります。
 
高齢の親をもつ子世代からすると介護保険のサービスを利用することで介護をする負担が減り、サービスの利用料もかかった費用の1~3割(所得によって異なる)のみですむため、介護保険を利用してほしいと思うかもしれません。
 
介護保険の申請をするかどうか決めかねている場合は、介護のサービスを「お試し」してみるという方法もあります。
 
「お試し」の場合、見守りや通院の付き添いなど、必要な時だけ頼みたいことを一回からでも利用できるシニア向けの民間サービスを利用する方法があります。料金は割高感があるかもしれませんが、サービスを受けるということを体感してみて、好感触が得られれば介護保険の申請をしてみるのも一案です。また、事前の登録が必要にはなりますが、シルバー人材センターや地域の社会福祉協議会などでもシニアの困りごとに対応したサービスを提供しているところもあり、比較的安く利用できます。

2. 介護施設への入所を検討している場合は

前章で「お試し」について書きましたが、今後介護施設がどんなところか試しに入居してみたいという場合は、一部の有料老人ホームなどで行われている「有料ショートステイ」に申し込んでみる方法もあります。介護保険適用外のサービスとなるため、要支援や要介護の認定を受けていなくても利用できます。ただし、体の状態や、ホームの状況によっては利用できない場合があるので事前に確認するのがよいでしょう。
 
「要支援」もしくは「要介護」の認定を受け、介護保険のサービスを利用しながら自宅で暮らしているものの、介護施設の利用も検討し始めた場合には、一度「ショートステイ(短期入所生活介護)」を利用してみるのも一案です。
 
「ショートステイ」は同居している家族が数日家を空けるような用ができた場合などに使われます。特別養護老人ホームなどにショートステイ専用のフロアがあったり、特別養護老人ホームと同じフロアの一角が使われているケースが多いようですが、ショートステイ専門の施設もあります。ショートステイは1泊から利用できます。
 
介護が必要になった場合、「施設か在宅か」という選択肢が挙げられることがありますが、ショートステイなどを活用して、「在宅ときどき施設」という選択肢も考えられるのです。
介護施設への入所を検討している場合は

3. 親の表情に「活気がない」と感じたら

介護保険制度には「小規模多機能型居宅介護」というサービスがあります。このサービスはケアプランの作成からサービス(通い・泊まり・スタッフによる訪問)の提供まで同じ事業所が行うのが特徴です。事業所のスタッフと利用者は「馴染みの関係」となり、さらに「通い」や「泊まり」を使う際の事業所も「通い慣れた」場所で、利用者同士も「見慣れた」関係となるため、環境の変化が好ましくないとされる認知症の利用者には安心に繋がると言われています。
 
このサービスはご近所の高齢者を民家などで受け入れて支えてきた「宅老所」がモデルとなっています。
 
私は以前日本各地の宅老所を取材したことがありますが、高齢者に限らず、赤ちゃんや障害者も同じ空間で同じ時を共有しており、第三者からすると「落ち着かないけれど落ち着いてしまう」面白さがありました。
 
転倒して「痛い、痛い」とわめいていた認知症の女性に赤ちゃんを抱いてもらうと、彼女のわめき声はピタリと止まり、赤ちゃんをあやしはじめたのを見て驚いたこともあります。
 
とくに認知症の人にとって、「人との関係」は、良きにせよ悪しきにせよ、その人の状態に影響をもたらすことを取材を通して感じてきました。
 
久しぶりにあった親の顔を見て「表情に活気がない」と感じたら、人と接する機会をつくってみることで笑顔が見られるようになることもあるかもしれません。

写真下:『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)
親の表情に「活気がない」と感じたら
この記事の提供元
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著者:小山朝子

介護ジャーナリスト。東京都生まれ。
小学生時代は「ヤングケアラー」で、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。この経験を契機に「介護ジャーナリスト」として活動を展開。介護現場を取材するほか、介護福祉士の資格も有する。ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点から執筆や講演を精力的に行い、介護ジャーナリストの草分け的存在に。ラジオのパーソナリティーやテレビなどの各種メディアでコメントを行うなど多方面で活躍。
著書「世の中への扉 介護というお仕事」(講談社)が2017年度「厚生労働省社会保障審議会推薦 児童福祉文化財」に選ばれた。
日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、オールアバウト(All About)「介護福祉士ガイド」も務める。

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