介護や医療が必要になっても「このまま自宅で暮らし続けたい」という望みをもつ人は多いでしょう。これからの時代は自らで自らを護り、必要な「助け」を自由に活用する意識が必要です。2023年8月に発売された拙著『自分で自分を介護する本』(河出書房新社)の内容から、先々の不安を解消するためのヒントを紹介します。

1. 「往診」と「訪問診療」の違い、知っていますか?

自宅で医療を受ける「在宅医療」の患者が増えている傾向にあります。
 
連載第1回目の原稿で「訪問診療」について触れましたが、在宅医療には「訪問診療」と「往診」があります。みなさんはこの違いをご存じでしょうか。
 
「訪問診療」は患者の求めに応じて「計画的」に自宅を訪問して診察、処置を継続的に行うことです。一方、「往診」は急な発熱など突発的に起きてすぐに病院に行けない事情がある場合、医師が患者のもとへ行き、応急的な診療や処置を行います。
 
近年では上記の「訪問診療」の体制が確立し、在宅医療を専門に行うクリニックが増えています。大学病院などの大きな病院と身近なクリニック・診療所とが連携する体制もできています。
 
私が介護をしていた祖母は気管切開(のどぼとけの下に開けた穴に管を入れ、痰の吸引などを行う)や胃ろう(胃に穴を開け装着した管を通して栄養剤を注入する)など複数の管の管理が必要な状態でしたが、在宅医療を受けながら自宅で暮らしていました。
 
退院前には、病院の「医療ソーシャルワーカー(MSW)」に今後の体制について相談をしました。退院後の生活をイメージするために、在宅介護の現場で働く訪問看護師の話を聞く機会をつくってもらったことを覚えています。
 
また、地域の大きな病院には「地域医療連携室」(「地域連携室」など名称が異なる場合もある)という部署があります。この部署では地域の病院や診療所、クリニックや施設などと連携して患者がスムーズに入院、退院できるよう支援する役割を担っています。
 
祖母を在宅で介護しながら胃ろうの管の交換などで医療的な処置が必要になったときには、地域医療連携室に連絡をして入院の調整をしてもらったことがありました。

2. 紆余曲折を経て選んだ在宅介護

医療的なケアが必要な祖母を在宅で介護しようと決意したのは、祖母が大学病院で手術を受けた後に転院したケアミックス病院(一般病床以外に長期療養向けの病床がある病院)で、ずさんなケアを受けたことがきっかけでした。
 
この病院では患者の多くが、“つなぎ”でホックの部分に鍵がついた「抑制着」を着ていました。管を自らで抜去するのを防ぐために着用するものです。頭髪は男性も女性も短く刈られていました。
 
丸刈りで抑制着を着た高齢者が呻き声をあげている姿に、当時20代だった私は大変ショックを受け、後に私が介護福祉分野のジャーナリストになる大きなきっかけとなりました。
 
祖母がこの病院に入院中、院内感染が発生したり、大きな褥瘡(じょくそう。一般に「床ずれ」とも呼ばれる。長く同じ姿勢でいることで皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、重症化すると皮膚が壊死し、治りにくくなる)ができていたことを長い間家族に知らされていなかったり、さらに口から食べられていたのに知らない間に管からの栄養にさせられていたりと次々と思いがけない事態が起きました。医療不信に陥り、やがて私たちの家族同士がこの病院のことで口論となり、家族関係まで悪化してしまう事態になったのです。
 
こうした経験を経て、自宅で祖母をみる決断をしたのでした。

結果的に遠まわりをしてしまいましたが、自宅では祖母はもちろん、私たち家族が「主体」となって動くことができ、迷いながらも自分たちが選んだ決断を貫くことができました。

3. 在宅医療の主役は患者と家族

自宅に戻ってから、ケアミックス病院に入院していたときの様子とは打って変わって祖母の表情は明るくなり、肌つやもよくなっていきました。重症化していた褥瘡も私たちが毎日処置を行うことで改善しました。
 
在宅医療の主役は医師や看護師でなく、患者であり家族です。また病院という「非日常」の空間ではなく、住み慣れた自宅でこれまでの暮らしを継続することができます。
 
さらに、在宅医療は患者という「人」が主体であり、体の「臓器」が主体ではありません。例えば、腹痛を訴えたとき、病院であれば必要な検査をするという流れになりますが、在宅医療の場合は、医師が「昨日はなにを食べたの?」と問いかけるでしょう。
 
命の「長さ」が目的ではなく、いかに毎日を生きるかという「質」が大切にされるのも在宅医療の特徴だといえるかもしれません。
 
20代の頃、祖母の介護をしていた私は「なぜもっと積極的に治療をしないのか」と疑問を抱いたり、反感を抱いたこともありました。

祖母が受けていた在宅医療を家族として見守りながら、老いや病気は「克服しなければならない」ことではなく、「ともに生きる」という考え方があることも徐々に理解できるようになりました。
 
あなたは人生の最終段階において、どのような医療を受けたいですか?

そのことをあらかじめ考えておくことも「自分で自分の介護をする」ことなのではないでしょうか。
在宅医療の主役は患者と家族
この記事の提供元
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著者:小山朝子

介護ジャーナリスト。東京都生まれ。
小学生時代は「ヤングケアラー」で、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。この経験を契機に「介護ジャーナリスト」として活動を展開。介護現場を取材するほか、介護福祉士の資格も有する。ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点から執筆や講演を精力的に行い、介護ジャーナリストの草分け的存在に。ラジオのパーソナリティーやテレビなどの各種メディアでコメントを行うなど多方面で活躍。
著書「世の中への扉 介護というお仕事」(講談社)が2017年度「厚生労働省社会保障審議会推薦 児童福祉文化財」に選ばれた。
日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、オールアバウト(All About)「介護福祉士ガイド」も務める。

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