“親の介護をする前に知っておきたかった12のこと”の最終回は、実は12個では収まらない!? その12「良いも悪いも介護は想定外のことばかり」だというお話と、私が介護経験を発信し続ける理由についてお伝えします。

1. その12:良いも、悪いも、介護は想定外のことばかり

認知症になる前のお父さんが大好きだった歌を、お母さんが運転する車のカーステレオから流し、家族で合唱して入所が決まった施設まで家族全員でお父さんを見送る。出迎えたスタッフと施設に入っていくお父さんの後ろ姿を見て、家族はそれまでと、これからのことを思って涙を流す。

そんなシーンが、家族の介護を取りあげたテレビ番組で流れていました。
 
私も父が在宅介護を卒業する日は、そんなふうに涙が流れるようなドラマチックなことがあったりするのかな……と、思っていました。ですが、我が家の場合は、そんなことはまったくなかったのです。
 
父は老人保健施設(以下、老健)の入所中に、特別養護老人ホーム(以下、特養)の入所が決まりました。看取りまで対応して費用的にも安価な特養の入所が決まったことに私は安堵していると…。老健側が契約した日まで(基本的には3ヵ月)入所していてほしいと言うのです。一方で、特養は空きが出たので1日でも早く入所してほしいと言います。

幾度に渡る双方との話し合いの末、老健との契約終了日を待たずに父は特養へ移れることになりました。けれども、両者の板挟みになったことで私は精神的にクタクタ状態。さらに、我が家には車がありません。偶然居合わせたタクシーに父と荷物を一人で抱え込み、退所日の件で微妙な空気になってしまったため誰からも見送られることもなく老健を後にしました。。タクシーの中では、ドライバーさんがチョイスしたラジオ番組から誰かの歌が流れていましたが、あのテレビ番組の認知症のお父さんとは違い、ドラマチックとは程遠い父が知らないような流行りの歌が流れていました。

特養に到着しても、コロナ禍で関係者以外は立ち入り禁止。入口で待ち受けていたスタッフが「では、ここからは私たちが担当します」と父の荷物をそそくさと台車に乗せて、父と共にあっと言う間に施設の中へ消えていきました。私は乗ってきたタクシーに再び乗り込み、「感傷的になる余裕も時間もないわ~」と、今度は要介護の母が待つ実家へ急ぎました。
 
20年以上も母と二人三脚で父の在宅介護をしてきたのに、父の施設入所は想像していたものとは違い過ぎるあっけなさ。多くの人が思い浮かぶであろう、あのテレビ番組のようなシーンには1つも遭遇しなかったのです。
 
これまで父と母の介護をしてきて分かったことは、介護は想定外のことの方が多い。いや、介護は想定外のことばかり起きるということです。
親の介護をする前にそれを知っていれば、「これが介護ってものなのね」とドンと構えて介護をすることができたかもしれません。だけど、そんな心構えは誰も教えてくれませんでした。想定外のことが起きるたびに、パニックに陥ったり、落胆したり、身体とメンタルが疲弊していきました。
 
ここまで、私的には「介護生活での想定外のこと」も含めた12の「親の介護をする前に知っておきたかったこと」をお伝えしてきました。だけど、実際に親の介護をすることになったとき「岡崎さんが言っていたことと違う!」となることも多いと思います。もし、そんな経験をしたら、あなたの介護における「想定外のこと」をどんどん人に話してください。

なぜなら、あなたの経験がこれから親の介護をする人に対して「知っておきたかったこと」になるかもしれないからです。今は親の介護に無関係でも、そういった話を聞く機会があったら、ぜひ、今後のために耳を傾けてほしいのです。

2. みんなで介護の想定外の話をどんどん発信しよう!

介護に関することをエッセイなどで発信している私にとって、介護の「想定外なこと」は良いネタになります。さらに、先にお話ししたようなネガティブな出来事(老健と特養とのいざこざ)でさえも、「テレビ番組のように感動的でないのが我が家らしい」と笑い話となり、私はこれからも語り継いでいくつもりです。単純な私は、心身ともに疲弊した思い出話であっても話を聞いてくれた人が笑ってくれたら、面白話として自分の中で更新することができるのです。

介護の「想定外のこと」の話が誰かの役に立ったり、経験者から共感を得られることが多いように思います。これは私自身の経験はもちろん、介護ライターとして多くの介護者に取材をしてきた中でも実感していることの1つです。

だから、私はきっと、自分のためにも、人のためにも、これからも介護経験を、想定外だったことを多めに発信し続けます。

なぜなら、親の介護をする前に、誰かの、さらに想定外のことをたくさん知っていれば、いざ、介護の壁にぶち当たったときに「似たような話を聞いたことがあったかも」とドンと構えて、一人では抱え込まずに周りの力を借りながら乗り越えていけると信じているからです。
この記事の提供元
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著者:岡崎 杏里

大学卒業後、編集プロダクション、出版社に勤務。23歳のときに若年性認知症になった父親の介護と、その3年後に卵巣がんになった母親の看病をひとり娘として背負うことに。宣伝会議主催の「編集・ライター講座」の卒業制作(父親の介護に関わる人々へのインタビューなど)が優秀賞を受賞。『笑う介護。』の出版を機に、2007年より介護ライター&介護エッセイストとして、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。著書に『みんなの認知症』(ともに、成美堂出版)、『わんこも介護』(朝日新聞出版)などがある。2013年に長男を出産し、ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)となった。訪問介護員2級養成研修課程修了(ホームヘルパー2級)
https://anriokazaki.net/

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