本連載をさせていただくにあたり、さまざまな資料を調べました。私の看護師経験と合わせても、サポート体制や介護自体の考え方が認知症発症のご本人様寄りの部分が多分にあると感じます。認知症介護にあたるご家族様の在り方について提起したいと思います。

1. 認知症患者ご本人に比率を多く置いた考え

1. 認知症状の早期発見が遅れたのは、親子のコミュニケーション不足か?

家族だからこそ、認知症の初期症状「何回も同じことを聞いてくる」「今までできていたことができなくなってくる」など、小さな変化気づきやすい、と説明を受けたり、そうした情報が書かれたりしています。しかし、その小さな変化に気づけず、認知症が進行してからの病院受診や自治体への相談になった場合、ご家族様はもしかしたら「親の変化に気づけなかった、子どもなのに」という自己嫌悪や戸惑いを多少でも感じるのではないでしょうか。同居をしていても、仕事や子育てなどさまざまな役割があり、小さな変化に気づけないこともあるでしょう。
 
この背景には、親御さんの役割損失を隠そうとする心理的な働きがあります。認知症の初期症状である、忘れやすくなっている、今までできていた簡単なことができなくなっているということに、少なからず気づいている方もおられますが、それを隠そうとされることがあります。それは今までの親である自分の役割を、果たせなくなるという喪失感があるからです。人はなにかしらの役割がなくなると生きる意味を見失います。それがどんなに小さなことでもです。
 
私は時々、受診同行をすることがあるのですが、以前かなりの難聴の方に同行した際にこんなことがありました。その方は、通常の会話でも少し声を張り上げないと聞こえていないくらいの難聴の方でした。外来担当の医師もそのことは把握されており、大きな声で説明をされていました。ご本人は「はい、はい」と全て聞こえているかのように返事をされていましたのですが受診後、私が「先生の説明で何か不明点はありましたか?」と補足の意味を込めて確認すると、「全然聞こえんかった、わからんかった」とおっしゃられました。私には全て聞こえているようにしか見えないほどの返答をされていたので、驚きました。「自分はしっかりしている」という自負があるからこそ、“聞こえているふり”をされていたのだと思います(後ほど医師の説明を代理で説明しました)。
 
お子様相手なら、なおさら知られたくないという思いが強いでしょう。ですので、親の小さな変化に気づけなかった、イコール、親子のコミュニケーション不足ということにはならないでしょう。

2.家族だからこそ本人のことをよく知っているでしょ?という周囲の思い込み
 
「親が認知症になったときの接し方」でお弁当箱に固執されるお母様の例を書きました。この方の場合は、娘様の予想が的を得ていたので、お母様の1つのものに固執するという症状を緩和することができました。しかし、全て同じように解決することは不可能でしょう。いくら子どもでも親の人生の全てを知ることはできないのです。他人よりは少々昔のことを知っているぐらいではないでしょうか。

人はさまざまな場面でそれぞれの役割を持っています。職場での役割、地域での役割、友人の中での役割、親としての役割、夫婦としての役割などです。同じ1人の人間でも、それぞれの役割を持って生きています。それはまるで別の顔をもっているようなもので、いくら身内だからといって全てを把握することはできません。

私も母が亡くなってから遺品整理をしていると、お友達同士の手紙、昔書いていた日記、アルバムをみつけ、初めて知ったことも多々ありました。しかしそれすらも母の人生のほんの一部分でしょう。
 
しかし世の中の風潮としては、子どもだから親のことを知っていて当然、という考えがあると思います。そして病院や施設スタッフがその考えを持って、何かしら情報収集すると、聞かれている子どもは「親のことを何も知らない」と後悔が残るでしょう。それはその後の介護者の人生に後悔を残すことになり、何年も自責の念を持たれることもあります。
 
3. ぎりぎりまで介護をがんばってしまう

介護サポートはさまざまありますが、どの部分でも家族が関わって成り立っているシステムとなっています。なにかしらの手続き、入院後のお見舞いや入院物品準備などです。家族がやって当たり前という考えがあります。日本には昔から家族の世話は家族でするという風習があるからかもしれません。しかし、現代は単独世代が増えており、昔の何世代もの家族が同居するという家族構成とは異なってきています。しかし、昔の介護の考え方がそのまま引き継がれているように思います。だからこそ、家族がサポートの手続きを行いにくい、介護保険手続きの申請が遅れるなどの問題が出てくるのかもしれません。
認知症患者ご本人に比率を多く置いた考え

2. 認知症患者さんと家族の在り方

まず、現代の認知症の社会的サポートには介護側、身内に寄り添ったサポートが必要ではないかと思います。よく、認知症の方の「その人らしさを大切にした関わりが大事」とあります。もちろんそうなのですが、介護側の「その人らしさ、その人の人生も大切」です。そして介護で良い関わりができたからこそ、介護側が残りの人生を後悔なく前に進めることができると思います。どうしても介護される方に重点を置いたサポートシステムが多いと思います。しかし、社会全体で関わるという考えが必要ではないでしょうか。
 
では、どういったサポートが必要なのでしょうか。例えば株式会社エラン様の入院セットというサービスは家族さんが洗濯などをこまめにするたびに通院しなくても、ご本人様の清潔が保てるサービスです。

警備会社などが行なっている見守りサービスもその一環だと感じます。親と同居していなかったり、もしくは仕事をしていると、24時間親の側で安全を見守ることができません。認知症になったからといって、同居を開始する、仕事を休職することは困難な場合もあるでしょう。見守りサービスなら24時間安全を守ってくれます。

また保険外訪問看護サービスもそうですね。介護保険内の訪問看護だと、時間や訪問回数に制限があります。しかし、家族としては訪問していない空白の時間が心配なこともあります。安心安全を守るのに適しているサービスと言えるでしょう
認知症患者さんと家族の在り方

3. まとめ

2で挙げたようなサポートシステムも少しずつでてきています。しかし世間の風潮はまだ、「家族だからがんばらないと」「家族なのに知らないの?」という考え方が根強く残っています。

認知症患者の家族の在り方として、全ての責任を負うのではなく、社会・地域のサポートを活用し、ご自身の人生を大切にしながら生活・介護できればと思います。1つの家族の在り方として提起したいと思います。
この記事の提供元
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著者:山川さちえ

<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くのがん患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺がんステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養のがん患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験からがん患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。

<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース

<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」

「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」

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