今年8月に発売された拙著『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)では人や社会との繋がりについて触れています。本連載第3回目の後半では「宅老所」の取り組みを紹介しました。今回は高齢者とボランティアの皆さんが集う地域交流サロン「どりいむ」(横浜市)を訪問しました。

1. 利用者もボランティアのみなさんも楽しみに集うサロン

本連載の第2回目でフレイル(加齢とともに心身の活力が低下し、要介護状態になる危険性が高くなった状態のこと)を予防する手立てのひとつは「社会参加」だと書きました。
 
さらにこんな調査結果もあります。同居家族以外との交流頻度が週1回未満で、かつ、外出する頻度が2~3日に1回程度の閉じこもり傾向にある高齢者では、閉じこもり傾向のない高齢者に比べて6年後の死亡率が2.2倍高くなるのだとか(参考:東京都健康長寿医療センターの調査)。
 
横浜市にある地域交流サロン「どりいむ」は、横浜市の介護予防・生活支援サービス事業(サービスB)として活動を行っています。介護予防・生活支援サービス事業とは、高齢者が住み慣れた地域で社会とつながりを持ち続けるために、多様なサービスを展開して介護予防に取り組む事業のことです。
 
「どりいむ」では月曜日から金曜日、午前10時~15時までさまざまなイベントを開催。参加者が仲間やスタッフとおしゃべりを楽しむ「いきいき夢サロン」をはじめ、スマホ教室、日本全国や海外(フランス・パリなど)とオンラインでつないだガイドツアー 、散歩や小旅行、運動、80代から始めた人もいるという「酒・煙草・賭けなし」の健康麻雀、ゲーム、料理、食事、園芸、手芸など、その多彩さには目を見張るほど。
 
小旅行など、参加者が一人では無理だと思うことでも「どりいむ」へ行くことで実現できることもあります。取材時には近所に散歩にでかけたときのことを楽しそうに話す参加者の笑顔が印象的でした。
 
一方、「どりいむ」の特徴として、ボランティアのみなさんが長く続いていることがあります。「他にもいろいろな地域交流の場に参加しているけれど、ここは落ち着くね。なんとなく昭和っぽい雰囲気がいいよね」とボランティアの男性。
男性ボランティアの方がエプロン姿でいきいきと働いており、ボランティアの方々も「どりいむ」に来ることで張りのある毎日を過ごされているように感じました。
 
「ここではスタッフが一方的に支えるのではなく、参加者から支えられることもあります。皆で作っていく場です」と運営者の割田  (わりた)ご夫妻は話します。
利用者もボランティアのみなさんも楽しみに集うサロン

2. 不妊治療のつらい経験から「社会の親」へ

割田ご夫婦は「どりいむ」の運営者というほかにも肩書きがあります。夫の割田修平さんは、「健康心理士」であり「不妊カウンセラー」。妻の節子さんは、「助産師」で「不妊カウンセラー」です。
 
おふたりは4年間の不妊治療を経験。一般の不妊治療から高度生殖補助医療(体外受精をはじめとする、近年進歩した新たな不妊治療法)も経験しましたが、結果として子どもを授かることはありませんでした。
 
節子さんは「近くにいる妊婦の方と同じ空気を吸っているのが苦しいとさえ感じる時期がありました」と当時のつらさを振り返ります。
 
しかしこうした経験を乗り越え「社会の親になろう」と決意。子育て支援やカウンセリング、そして保育園へと活動を広げます  。
 
現在は「どりいむ」の事業所内で不妊に悩む女性、カップル、夫の立場である男性のカウンセリングも行っています。不妊治療を経験した助産師と心理士のカップルが病院施設外で行うカウンセリングは全国でも希少だとか。
 
そして2020年10月、すべての年代の方々が集まる交流拠点を目指し、新たにシニア世代の支援にも活動の場を広げ、地域交流サロンを開設。その活動の根底にあるのは、「社会で生きる皆さんとともに手を携えて生きていきたい」という熱い想いです。
 
シニア世代の支援を始めたのは親の介護もきっかけのひとつだったとか。
「ここに集まるシニアの方々のご家族に対して直接的な支援はしていませんが、シニアの方がここに来て頂いている時間にご自身の時間が確保できるため、ご家族の支援にもなっているのかなと感じます」と割田夫妻は語っていました。
 
割田ご夫婦との出会いによって、あらためて「自分が地域や社会でできることはなにか」と振り返るきっかけになったように思います。
 
写真下:割田夫妻
不妊治療のつらい経験から「社会の親」へ

3. 割田夫妻のお話が聞けるイベントのご案内

この秋、「どりいむ」を運営する割田修平さん、節子さんのお話がオンラインで聞けるイベントが開催されます。奮ってご参加ください!
 
参加の詳細は以下のチラシ、もしくはpeatixにてご確認いただけます。
割田夫妻のお話が聞けるイベントのご案内
この記事の提供元
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著者:小山朝子

介護ジャーナリスト。東京都生まれ。
小学生時代は「ヤングケアラー」で、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。この経験を契機に「介護ジャーナリスト」として活動を展開。介護現場を取材するほか、介護福祉士の資格も有する。ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点から執筆や講演を精力的に行い、介護ジャーナリストの草分け的存在に。ラジオのパーソナリティーやテレビなどの各種メディアでコメントを行うなど多方面で活躍。
著書「世の中への扉 介護というお仕事」(講談社)が2017年度「厚生労働省社会保障審議会推薦 児童福祉文化財」に選ばれた。
日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、オールアバウト(All About)「介護福祉士ガイド」も務める。

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