1. 女性こそ筋トレが必要な理由とは?
筋トレというと男性が行うというイメージが強いかもしれませんが、女性こそ筋肉量アップが重要ということをご存じですか? もともと男性より筋肉が少なく、筋肉が増えにくい女性は、意識的に筋肉を鍛えないと、加齢とともに筋肉量が減っていきます。すると、太りやすくなったり、たるみの目立つ体形になってきます。また、将来のロコモティブシンドローム(ロコモ)や認知症のリスクも高まります。
「筋トレは、スポーツジムに行ったり、特別な道具を使ったりしないとできないと思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません」と話すのは、順天堂大学スポーツ医学研究室・整形外科専門医の伊藤恵梨先生です。
特別な道具を使わずに自宅でできる効果的な筋トレもたくさんあります。さらに筋肉量アップには、筋肉の材料やエネルギーになる栄養素を摂ることも大事。手軽にできる筋トレと食事の両面から取り組んで、筋肉を増やし、100歳まで自分の足で歩ける体をつくりましょう。
2. 筋トレは病気の予防にも役立つ
筋力アップがもたらす効果はさまざまあります。とくに体の中でも7割を占める下半身の筋肉を増やすと、全身の血行がよくなり、代謝の促進につながります。さらに筋トレ+ウォーキングなどの有酸素運動も行うと、より効果がアップします。
1.基礎代謝がアップして太りにくい体になる
筋肉量が増えると基礎代謝量(安静時の消費エネルギー)が増え、自然と太りにくくやせやすい体になります。ダイエットしたい人こそ、筋トレを取り入れましょう。
2.血流が促進されて肩こりの解消にもつながる
肩こりを解消するには、血行を促し、正しい姿勢を保持することが大切です。筋トレで血行をよくするとともに、必要な筋力をつけましょう。
3.運動によって認知症のリスクが低減する
筋トレは、脳の神経組織を活性化させたり、脳の血流を増やすなどして、認知症のリスクを下げることが多くの研究で報告されています。
4.糖尿病や高血圧などの生活習慣病の予防に
筋肉が増えると体内の糖が消費されやすくなり、糖尿病予防に有効です。また、血液循環がよくなって血管が拡張し、高血圧の改善にも役立ちます。
5.ロコモティブシンドローム、サルコペニアなど要介護を防ぐ
ロコモは、運動器の障害で移動機能が低下した状態をいいます。サルコペニアは加齢により筋肉量が減少し、身体機能が低下した状態です。いずれも筋肉の減少が大きく影響し、寝たきりや要介護の原因になります。
6.筋肉は「貯水タンク」になるため、熱中症の予防にも
筋肉は、水分を効率よく蓄える「貯水タンク」の役目もしています。そのため、筋肉が十分にあれば、夏の熱中症のリスクが低くなります。
3. 体の重さ(自重)を使って効率よく鍛える部位別筋トレ
筋肉は「筋線維」という細い細胞が集まってできています。筋トレをすると筋線維が傷つき、傷ついた筋線維を修復していくときに、前より少し太くなる「超回復」と呼ばれる現象がおこります。これを繰り返すことで筋肉の量が増えるのです。
「自分が楽だと感じる筋トレは、筋線維を傷つけないので、あまり効果が期待できません。筋肉の量や体力などによって運動強度の感じ方は違いますが、『ちょっときついくらい』が筋肉の量を増やすためには効果的です」と伊藤先生はアドバイスします。
ここでは、自部位別に、体の重さ(自重)を使って家の中でできる筋トレを紹介します。「回数をこなすことに意識が向きがちですが、それよりも正しい姿勢で確実に行うことが効果アップのポイントです。焦らずに鍛える部位の筋肉を意識しながら行いましょう」(伊藤先生)
鍛える部位を毎日変えながら行うのがおすすめです。「ちょいキツめ」と感じるくらいが効果をアップさせるポイントです。基本は1日10回×3セットが目安です。
●おなかを鍛える ひざ曲げレッグレイズ
ひざ曲げレッグレイズは、腰が反りにくく、腰を痛めるリスクが低くなります。反動をつけずにおなかの筋肉を使って行い、腰や肩が浮かないように注意しましょう。慣れてきたら脚を床につけずに行ったり、戻すときはひざを伸ばしてみるとレベルアップします。
①あお向けに寝て、両手は体の左右に置き、手のひらを床につける。ひざを曲げた状態で、両脚をそろえて上げる。
②ゆっくり脚を床に下ろす。①②をくり返す。
●腕や胸まわりを鍛える ひざ立ちプッシュアップ
大胸筋と上腕のたるみの原因になる上腕三頭筋、上腕二頭筋に効果があります。頭からひざが一直線の状態を保つようにします。最初は足先を床につけて行ってもよいでしょう。慣れてきたら、ゆっくりとひじを曲げて②で2~3秒キープするとレベルアップになります。
①腕立て伏せの姿勢になり、ひざを床につけ、足先を床から浮かせる。頭からひざを一直線にする。
②両ひじを曲げて、上体を床に近づける。ひじが直角になったら①に戻す。
●背中を鍛える タオルを使うラットプルダウン
背筋を鍛える代表的な筋トレで、肩こりの改善効果が期待できます。両ひじを曲げるときは肩甲骨を寄せるイメージで行います。上体が前に倒れないよう注意しましょう。慣れてきたら②で2~3秒キープします。
①背すじを伸ばし、肩幅よりやや広い位置でタオルを持ち、両腕を頭上に伸ばす。
②両ひじを曲げ、タオルが首の後ろにくるまでひじを下げる。ゆっくり①に戻し、これを繰り返す。
●脚やお尻を鍛える ワイドスクワット
ワイドスクワットは、姿勢が安定し、脚の筋肉量アップに効果的。とくに、衰えやすい内転筋も強化できます。つま先と同じ方向にひざを向けて、上体が前に倒れないようにしましょう。慣れてきたらキープする時間を増やすと効果がアップします。
①背すじを伸ばして両脚を肩幅の倍くらいに開き、つま先を外に向ける。
②ゆっくりひざを曲げて腰を真下に下ろす。太ももが床と平行になるように1〜 2秒キープしたあと、ゆっくり①に戻る。
4. 筋肉を増やす食事とは?
筋肉づくりに必要な栄養素は、筋肉の主要な材料になるたんぱく質、しかも良質なたんぱく質を摂ることが大切です。その条件はたんぱく質の構成成分である必須アミノ酸がバランスよく含まれていることで、たんぱく質を含む食材をいくつか組み合わせて摂ることです。特に女性はたんぱく質の摂取量が足りていないという統計もあるので、しっかり摂りましょう。
たんぱく質と並んでもう1つ、伊藤先生が筋肉づくりに重要というのが、糖質です。近ごろは糖質制限ブームで、糖質を極端に控える人もいますが、筋肉を増やすには逆効果となることもあります。
「エネルギー源となる糖質が不足すると、たんぱく質がエネルギー源となってしまい、筋肉の材料に使われなくなります。たんぱく質は糖質と同時に摂ることが大切なのです。糖質とたんぱく質を一緒に摂ることで、たんぱく質の筋肉への取り込みが促進されることもわかっています」(伊藤先生)
たんぱく質・糖質のほか、全体的にバランスのとれた食事をとることも大切です。主食、主菜、副菜を意識すると、筋肉づくりに必要なビタミン・ミネラルなども摂取しやすくなります。1日の食事では難しいときは、1日単位で考えるとよいでしょう。
●たんぱく質(主に主菜)
肉類は鶏のむね肉やささみ肉など、脂の少ない部位がおすすめです。肉類以外にも、鮭や卵、木綿豆腐、牛乳などにもたんぱく質は含まれます。さまざまな食材からたんぱく質を摂ることで、体に吸収されやすくなります。
●ビタミン、ミネラル、食物繊維(主に副菜)
野菜、果物、海藻類、きのこなど、食物繊維の多い食材から食べることで血糖値の急上昇を抑えることにつながります。
●糖質(主に主食)
ごはんやパン、麺類などは摂りすぎてしまう人は注意しましょう。砂糖の多い菓子類、甘い飲料水なども控えめに。
5. 筋トレをすると足が太くなる? 筋肉にまつわるギモンにお答えします
最後に筋トレについての素朴なギモンにQ&A方式で回答します。効果を知って、筋トレを継続するモチベーションにしてください。
Q.筋トレをすると、腕や脚が太くなってしまう?
女性はもともと筋肉をつくる働きをもつ男性ホルモンが少ないため、一般的には筋トレをしても、見た目が太くなるほど筋肉量は増えません。いわゆるマッチョな筋肉は、トレーニングマシンなどで大きな負荷をかけて行う特別なトレーニングでつくられるものです。今回のような自重で行う筋トレなら、太くなるというより、引き締まった女性らしい体をつくります。
Q.筋トレをしても体重がなかなか減らないのですが…
体重は自分の体の状態を知るうえで大切な目安となりますが、その数値だけに一喜一憂しないことも大切。女性は月経周期によっても体重が増減します。入浴や運動後にも体重が減りますが、これは汗で体内の水分が減っただけで、水を飲めばもとの体重に戻ります。
また、筋トレを継続していると、脂肪が減っても体重が増えることがあります。これは、筋肉が脂肪よりも比重が重いためで、筋トレの効果で筋肉が増えたということ。体重だけでなく、体脂肪率も記録したり、鏡で体形を撮影しておくことも、ダイエットの効果を確認する目安になります。
6. まとめ
介護などで忙しくなかなか筋トレをする時間をつくれないという人も多いでしょう。だからこそ、隙間時間に効率的に筋肉を増やすことができるトレーニングを行いたいですよね。それには、今回紹介した、体の重さ(自重)を使った筋トレがおすすめです。
さらに、運動だけではなく、運動+食事の2本立てが筋肉を増やすためには大事。筋トレを行うとともに、筋肉の材料になる栄養素も意識して、毎日バランスのよい食事を心がけましょう。
監修:伊藤恵梨先生
伊藤恵梨(いとう・えり)
順天堂大学スポーツ医学研究室・整形外科専門医。スポーツ選手や愛好家のけがだけでなく、全身を診ることができる医師を目指し、婦人科などでの研修も行っている。著書に『女性が医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP)など。