介護されている方は、栄養バランスについても考えて、毎日の食事の用意をされていると思います。しかし、実は普段「健康にいいから」と口にしがちな食物の中には、服用しているお薬との相性に注意が必要な食べ物、飲み物があります。介護をする際、こちらの内容も注意したうえで献立を考えてみてください。

1. 食品によって飲んでいる薬に影響が出る?

「薬同士で作用が起こって、薬が効きすぎたり、効かなくなったりしてしまう」という話を聞いたことがある方は多いと思いますが、実は「食品」も薬の効果を強めたり弱めたりしてしまうことがあります。

今回は、中でも多くの方が口にする食べ物や、多くの方が服用している薬に関係する食べ物を紹介します。
 
現在お飲みになっているお薬が対象になっているのか、ご自身がどんな食べ物に注意すべきなのか、等の具体的な内容については、必ずかかりつけの調剤薬局や病院までお尋ねください。
 
食品によって飲んでいる薬に影響が出る?

2. 「グレープフルーツ」は薬の効き目を20倍も強める?!

本来、グレープフルーツには、LDL(悪玉)コレステロールの酸化を抑制する作用や、血小板凝集を抑制する作用があることから、動脈硬化や血栓形成予防にいい果物であると言われています。

しかし、グレープフルーツと薬の相互作用は、時として命を脅かす事故も起こっていますので、注意が必要です。
 
●注意してほしい薬の種類
高血圧の薬、狭心症の薬、高脂血症の薬、不眠症の薬、精神神経薬の一部など
 
●どんな風に薬に作用するの?
グレープフルーツに含まれる「フラノクマリン類」には、上記のような薬が肝臓で分解されるのを邪魔する作用があります。それによって薬の血中濃度が上がり、薬の効果が強く出てしまいます。
 
●どんな症状が起こる?
例えば高血圧の薬が効きすぎてしまったら、副作用として血圧低下、頭痛、めまい、頻尿、心拍数の増加、顔の紅潮などの症状が現れます。その他の薬でも、グレープフルーツと一緒に服用することで効果が効きすぎてしまい、副作用が起こりやすくなってしまいます。
 
●類似する食べ物にも注意?
果実だけでなく、グレープフルーツジュースでも影響があるのでジュースを飲むことも控えましょう。他にも同じ柑橘類の、はっさく・ぶんたん(ザボン)・スウィーティーなどにも同じような作用があるので注意が必要です。

しかし、レモン、温州ミカン、すだちには、フラノクマリン類の含有量が少ないため、このような相互作用が起きる可能性が低いとされています。
 
●気を付けてほしいこと
薬に対する作用には個人差がありますが、グレープフルーツとの相性が悪い薬の服用前後にグレープフルーツを食べると、その薬への影響は24時間以上も続き、時には薬の効果を20倍も強めてしまうと言われています。

グレープフルーツやぶんたん、サボン、グレープフルーツジュースが好きでよく召し上がる方は、必ず薬剤師に自分が飲んでいる薬とグレープフルーツとの相性について、確認をするとよいでしょう。
「グレープフルーツ」は薬の効き目を20倍も強める?!

3. 「カフェイン」もお薬との相性が悪い?!

コーヒーや紅茶に含まれるカフェインには胃酸の分泌や消化管のはたらきを促進し、食べ物の消化吸収を助ける効果、基礎代謝を促す効果など、身体にとって嬉しい作用があり、適量であれば健康に嬉しい効果が期待できます。

しかし、カフェインも一部の薬剤との相性が悪いことが知られており、注意が必要です。
 
●注意してほしい薬の種類
精神神経薬、喘息の薬、抗菌薬の一部など
 
●どんな風に薬に作用するの?
上記の薬は、カフェインが肝臓で分解されることを邪魔する作用があるため、それによってカフェインの中枢神経を刺激する作用が強まる可能性があります。
 
●どんな症状が起こる?
カフェインの作用が強まり、中枢神経が興奮してイライラしてしまう、心臓の筋肉の収縮力が強まる、尿が多く出すぎるなどの症状が現れます。
 
●似た食物も食べない方がいい?
カフェインを含む飲み物はコーヒーだけではありません。紅茶、緑茶にもカフェインが含まれているのでこちらにも注意が必要です。
 
●気を付けてほしいこと
薬を飲む前後30分はコーヒーを飲むのを控えると良いでしょう。

日本においてもカフェイン中毒の死亡例が報告されていますが、欧州連合(EU)の欧州食品安全機関(EFSA)は、健康を維持するために望ましいカフェイン摂取量について、成人では1日400mg未満、1回の摂取量が200mgを超えないようにすべきと提言しています。

通常のコーヒーであれば、1日のカフェインの摂取量は4~5杯までが適当な量ということになりますが、日本においては、特に摂取許容量の規定は設けられていません。

コーヒーや紅茶、緑茶が好きな方を介護されている場合には、その方のカフェイン摂取量・タイミングの目安について、薬剤師に確認をしましょう。
「カフェイン」もお薬との相性が悪い?!

4. チーズ、ワインでチラミン中毒に?!

チーズにはカルシウムやたんぱく質、脂肪、ビタミンなどの栄養が豊富に含まれています。しかし、一部の薬が、チーズやワインに大量に含まれているチラミンを分解しづらくすることで起こってしまう「チラミン中毒」には注意が必要です。
 
●注意してほしい薬の種類
消化性潰瘍の薬、結核の薬、抗うつ薬の一部など
 
●どんな風に薬に作用するの?
上記に示した薬は、チーズやワインに大量に含まれているチラミンを分解しづらくしてしまう作用があるため、チラミンの血中濃度が上がって「チラミン中毒」と言われる症状が起こります。
 
●どんな症状が起こる?
顔面の紅潮、頭痛、急激な血圧上昇などの症状が現れます。これらの症状は、時に命に関わることがありますので、注意が必要です。
 
●似た食物も食べない方がいい?
チーズやワイン以外にも、チョコレート、ニシン、スモーク、乾燥させた肉や魚などはチラミンが含まれているため注意が必要です。
 
●気を付けてほしいこと
チーズなどの食べ物でも薬との相互作用が起こりうることを知っておきましょう。

チラミン中毒の症状はかぜの症状と似ているため、かぜだと思って放置することで悪化してしまうことがあります。チラミン中毒の症状について心に留めておきましょう。
チーズ、ワインでチラミン中毒に?!

5. クロレラ、納豆、緑黄色野菜も重大な薬と相性が悪い?!

身体に良いと考えられ、ついつい多く摂取しがちなクロレラ、納豆、緑黄色野菜も、薬物との相互作用を引き起こします。以下の薬を服用している場合には、細心の注意を払いましょう。
 
●注意してほしい薬の種類
血栓をできにくくする薬の一部など
 
●どんな風に薬に作用するの?
クロレラ、納豆、緑黄色野菜にはビタミンKが多く含まれていますが、そのビタミンKの血液を固まりやすくする作用により、血栓をできにくくする薬のワーファリンの働きが低下し、血液が凝固しやすくなります。
 
●どんな症状が起こる?
ワーファリンの働きが悪くなることで、血液を固まりにくくする作用が減弱します。

最悪の場合には、血栓塞栓症(静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、緩徐に進行する脳血栓症等)の悪化から死亡する可能性もあります。
 
●似た食物も食べない方がいい?
青汁、納豆には大量のビタミンKが含まれるため、ワーファリンを服用中の方には控えましょう。また、緑色のパセリやブロッコリー、ほうれん草や小松菜などはビタミンKが含まれているため注意が必要です。
 
●気を付けてほしいこと
納豆は1回(100g、市販の1包)食べるだけで、その影響は数日間続きますので、ワーファリンの服用と納豆を食べる時間をずらしたとしても食べてはいけません。

元々納豆が好きな方にとっては厳しいと思いますが、ワーファリンを服用している限り納豆は我慢してください。

ビタミンKを多く含む緑黄色野菜(特に緑色のパセリやブロッコリー、ほうれん草や小松菜など)は、一度に大量に食べると、ワーファリンの効果が弱くなってしまう可能性があります。一度に大量には食べずに、毎日小鉢程度に抑えるなど、医師・薬剤師と相談して食事を検討してみましょう。

6. 牛乳が薬の吸収やはたらきを低下させる?!

カルシウムの供給源として知られ、多くの方が飲まれている牛乳にも、薬との相互作用に注意が必要です。
 
●注意してほしい薬の種類
抗生物質の一部など
 
●どんな風に薬に作用するの?
牛乳に含まれているカルシウムと薬の成分が結合して、薬の吸収や働きを低下させる可能性があります。
 
●どんな症状が起こる?
抗生物質の吸収や働きが低下することで、細菌感染の治療や予防の効果が十分に出ない可能性があります。
 
●気を付けてほしいこと
抗生物質を服用する時間と牛乳を飲む時間を2~3時間ずらせば問題ありません。牛乳を飲む場合には、タイミングに注意して飲むようにしましょう。
 
 
監修:水野彩香
薬剤師・事業構想修士(専門職) 株式会社ブルペン執行役員(イロドリ薬局千年店 薬剤師)
大手調剤薬局を退社後、株式会社ブルペンに入社し、生まれ育った川崎市でイロドリ薬局千年店の運営を行っている。現在は地元の地域医療に貢献すべく、在宅医療にも積極的に取り組んでおり、プライベートでも介護が必要な祖父母のため、介護に関する提案やフォローを行っている。
牛乳が薬の吸収やはたらきを低下させる?!
この記事の提供元
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著者:山本 咲希(株式会社レインフラワー)

薬剤師/日本薬剤師会認定薬剤師。
北里大学薬学部首席表彰を受けて卒業後、薬局薬剤師として活動。
大学病院の門前薬局、内科、小児科、耳鼻科、皮膚科など、さまざまな薬局で調剤を学び、現在は薬剤師・起業家として活躍している。
地域医療研究、全国薬剤師・在宅療養支援連絡会J-HOPでの研究発表、OTC薬のアプリケーション開発、日本薬学会での論文発表を行っている。

「医療・教育・美容を武器に、元気に・迷いなく・美しく生きていける社会を作る」という理念のもと、クリニック・薬局向けのシステム開発・提供、区民講演会での講演を行うほか、自身もボディメイクの全国大会「ベスト・ボディジャパン」に出場、関東最大規模の大会でグランプリを獲得した。教育業界にも力を注ぎ、顧問を務める個別指導塾「生徒派」を入塾1年待ちの全国屈指の人気塾にしたほか、全国の塾・予備校のシステム開発を行う。自身の経営する化学専門予備校「花塾」も盛況で、仕事が生きがいの日々を走り続けている。
著書に『プランブロック式 ゼロから理系難関大学に合格できる戦略的学習計画法』(KADOKAWA)がある

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