車いすだから……と、大好きな温泉を諦めているご家族はいませんか? 全国には、体の不自由な方にこそ温泉を楽しんでほしいと、バリアフリーに取り組んでいる旅館 がいくつもあります。また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 を機に、行政もバリアフリーに力を注ぎ観光業をバックアップ。バリアフリールームを設置する旅館も増えてきました。今回から3回にわたって取り上げる【バリアフリー温泉旅のススメ】 、第1回は宿選びのコツをお届けします。

1. バリアフリー温泉旅を思い立ったら

まず、車いすの本人に希望を聞きましょう。行きたい温泉地が明確ならばなおのこと。具体的な地名でなくとも、「その地で何をしたいのか」「どんな時間を過ごしたいのか」、そうした望みを一緒に行く家族で共有し、みんなで旅のイメージを膨らませます。イメージがある程度できたら、いよいよ宿を決めるための情報収集です。
 
今は旅行サイトも多種多様。旅館情報に「バリアフリールームの有無」を記載しているサイトもありますが、そうした表記だけで宿を決めるのはおすすめできません。単にバリアフリールームがあるだけで、部屋までのアプローチに難があったり、旅館スタッフが対応に不慣れなことも珍しくないのです。
「バリアフリー温泉宿に大切なのは、ハードとハート。段差や手すり、車いす用トイレといった設備にばかり目が行きがちですが、実はそれ以上に、旅館スタッフが気持ちよく対応してくれるかどうかがいちばんのカギなのです」と話すのは、温泉エッセイストで跡見学園女子大学兼任講師の山崎まゆみさんです。
 
思い出深い旅になる決め手は、なんといっても宿。それはすべての旅にいえますが、特に車いすの旅にはハプニングやアクシデントがつきものです。さまざまな状況に柔軟に対応してくれる「優しい」宿こそが、バリアフリー温泉旅 に欠かせない「いい宿」。では、そんな「いい宿」に巡り会うにはどうしたらいいのでしょうか?
バリアフリー温泉旅を思い立ったら

2. 宿選びの最終決定に欠かせないことは?

行きたい温泉地がある程度絞れてきたら、「行きたい温泉地名 バリアフリー」と入力して検索してみてください。旅館サイトから個人ブログまで、想像以上に多くの情報が出てきます。これらのweb の 情報を手掛かりに、まずは行ってみたい宿をいくつかピックアップしてみましょう。大事なのはここから。「実際に宿に電話して、旅館スタッフの方と直接お話ししてみてほしいのです」と山崎さんはアドバイスします。
 
「知りたいことはいろいろあります。バリアフリールームの形状や設備、そこまでのアプローチや貸切温泉があるかどうかなど。でも、それらを一つひとつ聞いていくのではなく、逆の発想でいきましょう。まず、連れていきたい方のお体の状態を率直にスタッフに伝えてみるのです。日常生活でできること、できないこと、特に入浴、食事、移動に関する状態を伝えるのがい いと思います。経験値の高い旅館なら、必ず具体的な提案を返してくれます。『それなら、こちらの部屋がいいですよ』とか『このような方法で入浴いただけますよ』というように、話が広がるのです。旅館のバリアフリー経験値は、電話1本でかなり分かります」
 
逆に、「バリアフリールーム完備」でも、電話での問い合わせにそっけない対応を返す 宿には期待できません。最終的には、実際のやり取りを通した反応で宿を選びましょう。
宿選びの最終決定に欠かせないことは?

3. 入浴介助は家族がする? プロに頼む?

宿も決まり、いよいよバリアフリー温泉旅が現実味を帯びてきたところで、はたと考えます。入浴介助はどうしよう……。
 
「結論からいうと、温泉地での入浴介助はプロに頼んだほうが安全、かつみんなが笑顔で旅を楽しめると思います」と山崎さん。
 
特に、親御さんが施設に入居されていて普段は家族が入浴介助をしていない場合は、ぜひ外部のプロに頼んでください。同居していて入浴介助にある程度慣れている家族でも、勝手知ったる自宅の浴槽とは違い、温泉地は石造りのうえに温泉成分で滑りやすくなっています。安全のためにも、「みんなが楽しむ」という目的のためにも、プロの入浴介助を頼むことをおすすめします。
 
「バリアフリー対応をしている旅館は、入浴介助や食事介助をしてくれるトラベルヘルパー® さんや福祉事業者さんと提携していることが多く、あらかじめ相談しておけば、入浴介助のみ、もしくは入浴介助と食事介助に対応してもらうこともできると思います」
 
車いすの本人 だけでなく、一緒に行く家族一人ひとりが楽しむこともバリアフリー温泉旅の大切な目的。旅先ではある程度お金をかけて、みんなが笑顔で過ごせる時間を確保することも大切です。
入浴介助は家族がする? プロに頼む?

4. 温泉地への往復はどうする?

バリアフリー温泉旅は、できれば車での往復が望ましいでしょう。とはいえ、現在、公共交通機関も車いすユーザーに寄り添う対策がとられるようになってきていると山崎さんはいいます。
 
「新幹線内に車いすを設置できる席が必ずありますし、新幹線はもちろん、ローカル列車でも、乗車予定を知らせておけば、その時間に駅員さんが乗降用スロープを準備して待っていてくれることも。公共交通機関におけるバリアフリー対応 は日々、進化していると感じます」
 
ただ、「そんなバリアフリー対応の情報が一本化されていないのが残念なのです」とも指摘します。だとしたら、ユーザーである私たちは、どこにアクセスしたら旅行中に必要な交通情報にたどりつくことができるのでしょうか。
 
「交通情報に関しても、いちばん頼りになるのは宿泊する旅館です。バリアフリー対応に慣れている宿は、交通情報についても各社の情報を把握していることが多いです。まずは宿を決めて、その宿に、往復の交通情報やサービス内容についても相談してみるのがい いと思います」
温泉地への往復はどうする?

5. バリアフリー対応に長けた温泉地とは?

バリアフリー温泉という視点で日本全国を見渡したとき、頭一つ抜きん出ているのが、佐賀県の嬉野温泉だと山崎さんは話します。
 
「嬉野温泉に行けば、車いすの方はもちろん、どんなお体の状態の方も、温泉を楽しむことができると思います。バリアフリー温泉としての歴史も長く、対応 も他に類を見ない内容にまで及びます。たとえば、福岡に拠点を持つ民間救急車の会社と連携して、入院中の病院から民間救急車で嬉野に行き、人生最後の温泉を楽しむことができるといったことまでされているのです」
 
嬉野温泉を筆頭に、バリアフリー対応に地域をあげて取り組む温泉地も少しずつ増えてきています。たとえばトラベルヘルパーセンター東伊豆 に問い合わせれば、東伊豆・箱根であればどこでも入浴介助に応じてくれます。宿とトラベルヘルパーセンターは繋がっているので、東伊豆・箱根の一帯は、バリアフリー温泉旅を楽 しめる旅館が多いといえるでしょう。
 
また、これからの取り組みが楽しみなのが、山梨県の石和(いさわ)温泉とのこと。
 
「石和温泉に は昔から日本有数のリハビリテーション病院があって、今、医療と福祉と旅館がタッグを組んで、地元のリハビリテーションセンターの方々に入浴していただこうという取り組みを始めています。今後、バリアフリー温泉 として注目されるようになるのではないかと期待しています」

6. 家族がみんな、笑顔になれる旅を

バリアフリー温泉旅、それは車いすの家族を温泉に連れていく旅ではなく、一緒に温泉に行った家族みんなが笑顔になれる旅。そんな旅の実現に力を貸してくれる宿に出会いたいものです。次号から2回にわたり、山崎さんおすすめの、日本全国のバリアフリー温泉宿を紹介します。


監修:山崎まゆみ

温泉エッセイスト、跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学・観光取材学)、世界33カ国の温泉を巡り、テレビ、ラジオ、雑誌、新聞等で温泉の魅力を伝える。観光庁や地方自治体の観光政策会議に多数参画。「高齢者や体 の不自由な人にこそ温泉 」を提唱しバリアフリー温泉を取材、紹介。著書 『 行ってみようよ!親孝行温泉』は『バリアフリー温泉で家族旅行』のシリーズ第3弾 、他 『さあ、バリアフリー温泉旅行に出かけよう!』『温泉ごはん 旅はおいしい!』など多数。
この記事の提供元
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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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