1. 髪が成長する仕組み
髪の悩みを解消するために知っておきたいのが、髪がつくられる仕組みです。
ひと口に「髪」といっても、髪は頭皮から見える部分と見えない部分に分けることができます。頭髪の専門分野では、頭皮から外に生えて見えている部分を「毛幹」、頭皮の内側に潜って見えない部分を「毛根」といいます。
このうち、髪をつくっているのは毛根の奥の「毛球部」です。毛球部には、髪の元となる「毛母細胞」があり、その中心に「毛乳頭」と呼ばれる組織があります。
毛乳頭は毛母細胞に、「細胞分裂しなさい」「細胞分裂を休止しなさい」など、司令を出してヘアサイクルをコントロールする働きがあります。また、毛乳頭のまわりの毛細血管から酸素や栄養を取り 込んで、健康な髪をつくる役割も担っています。
「白髪や薄毛、抜け毛など、髪のトラブルは、髪をつくり育てている頭皮の内側の毛根の健康状態の現れといえます」と、クレアージュ エイジングケアクリニック総院長・浜中聡子先生は話します。
2. 白髪になる原因とは?
では、なぜ黒髪が白髪になるのでしょう?
髪の色は「メラニン色素」によって決まります。メラニン色素は、毛根の奥の毛球部にある色素細胞「メラノサイト」でつくられ、髪の元となる毛母細胞が細胞分裂をして、髪をつくるときに、メラノサイトからメラニン色素が供給され、絵の具が色をつけるように働き、黒色の髪になるのです。
「メラニン色素には、黒色系の『 ユーメラニン』と黄色系の『フェオメラニン』の2種類があり、メラノサイトの働きが活発だと、2種類の色がしっかりと出て艶やかな黒髪になります。反対に、メラノサイトの働きが弱くなると、メラニン色素の発色に偏りが出て、灰色を帯びた髪や黄色を帯びた髪が目立つようになり、やがて、どちらのメラニン色素も含まない白髪が髪全体にふえてきます」(浜中先生)
つまり、白髪になるのはメラノサイトの働きが低下し、メラニン色素を十分につくることができなくなっているサインといえます。
「メラノサイトの機能低下の原因は、加齢やストレス、それに伴う血行不良などが考えられます」(浜中先生)
3. 抜け毛・薄毛の原因とは?
髪には、成長過程を表すヘアサイクルがあります。
①髪の元となる毛母細胞が活発に働いて髪をどんどんつくり出す「成長期」(2〜6年)
②毛母細胞の働きが衰え始 める「退行期」(2〜3週間)
③毛母細胞の働きがストップする「休止期」(3〜8カ月)
これらの期間を経て、髪は抜けていきますが、この間、毛根では次の成長期に向けて毛母細胞が活発に働き、新たな髪がつくられ、一定の毛量が保たれているのです。
このヘアサイクルに乱れが生じ、髪が十分に成長していないまま休止期に入ると、短く細く、やわらかな抜け毛が目立つようになります。これが、抜け毛・薄毛の始 まりです。
女性の抜け毛・薄毛の原因には個人差がありますが、頭皮の血流の低下と女性ホルモンのエストロゲンの低下が、主な原因として考えらます。頭皮の血流が悪くなると、血液の流れにのって届けられる酸素や栄養が、毛根に十分にいき渡らなくなり、髪の元となる毛母細胞の働きが衰え、髪が抜けやすくなります。
「女性ホルモンのエストロゲンには髪の成長を助け、髪にハリやコシ、ツヤを与えるコラーゲンを産生する働きがあります。そのため、エストロゲンが低下すると、髪質が悪くなり、髪の成長を阻害。抜け毛や薄毛を招きやすくなるのです。特に、更年期や閉経を迎える50歳前後は、エストロゲンの分泌量が急激に低下するため、髪にトラブルを感じやすくなります」(浜中先生)
4. 健やかな髪を保つための生活習慣
白髪や抜け毛、薄毛の原因はさまざまですが、共通していえるのが「頭皮の血流の低下」です。ここからは、血流をよくして健やかな髪を保つ生活習慣を紹介します。
●バランスのよい 食事をとる
頭皮の血流をよくするには、栄養バランスのとれた食事を心がけることが大切です。血流がよくなると、髪をつくる毛根内の細胞に新鮮な酸素や栄養素を十分に届けることができ、健康的な髪を保ちやすくなります。
特に積極的にとりたいのが、たんぱく質。髪はケラチンというたんぱく質でできているため、毎日の食事で、肉や魚などから良質なたんぱく質をしっかりとりましょう。また、たんぱく質を分解したり、利用したりするには、大豆製品、うなぎ、しじみなどのビタミンB群、わかめなどの亜鉛をとることも大事なポイントです。
加えて、ビタミンCやE、リコピン、カテキン、アントシアニン、イソフラボン などの抗酸化成分を意識的に摂取することで、加齢による老化のスピードがゆるみ、髪のトラブルの予防や解消に役立ちます。
●有酸素運動を行う
運動は髪に限らず、体調管理にも効果的ですが、髪の健康のために行いたいのが有酸素運動です。有酸素運動はウォーキングやジョギング、水泳などが代表的ですが、酸素を取り込みながら全身の筋肉を動かすことで、心臓から血液を送り出す働きが活性化され、頭皮や手足など、体の抹消まで血液の流れがよくなります。有酸素運動は週に3〜5日、1日約20分行うのが理想的。運動中は会話ができ、やや汗ばむくらいの強度で行いましょう。
●質のよい 睡眠を心がける
睡眠不足が続くと、全身の血液のめぐりが悪くなり、頭皮の血流が低下します。また、髪の成長には睡眠中に分泌される「成長ホルモン」が深く関わっているといわれています。成長ホルモンが最も多く分泌されるのが眠り始 めの90分間。そのため、健やかな髪を保つには、寝つきをよくすることが大事になります。寝つきをよくして睡眠の質を高めるには、日中に有酸素運動を行うなど、アクティブに過ごすことが有効です。
●禁煙する
タバコに含まれるニコチンやタールには、血管を収縮させる作用があり、タバコを吸うと全身の血液循環に悪影響を及ぼします。その結果、頭皮の血流も滞り、髪の成長を妨げることになります。この機会に、ぜひ禁煙を心がけましょう。
5. 若々しい髪を育むヘアケア法
髪のトラブルを防ぎ、若々しい髪を育てるには、頭皮を清潔に保つことも大切です。頭皮に負担をかけないシャンプーとドライヤーのやり方を見直してみましょう。
●正しいシャンプーの仕方
体の内側からのケアに加え、髪や頭皮を清潔に保つことも、髪の悩みを解消するためには大切です。そこで、自己流になりがちなシャンプーの正しいやり方を、浜中先生に教えてもいらいました。シャンプーは1日1回、できるだけ夜寝る前に行いましょう。
①熱すぎず、冷たすぎない適度な温度のお湯で頭皮全体をすすぐ。
②手のひらにシャンプーをとり、お湯で軽く泡立てる。
③泡立てた泡を頭皮につけ、指の腹で、襟足→後頭部→側頭部→頭頂部→前頭部→前髪の生え際の順番に洗う。
④顔を下に向け、髪の流れに逆らうようにシャワーをあて、シャンプーのぬめりがなくなるまで洗い流す。
⑤シャンプーが残りやすい耳のまわりや襟足は、手のひらにお湯をためて頭皮にあて、しっかりすすぐ。
⑥髪の状態に合わせて、コンディショナーやトリートメントをつけて保湿する。保湿後は、シャンプーと同様に、ぬめりがなくなるまでしっかり流す(保湿のための保持時間は商品の説明通りに)。
●正しいドライヤーのかけ方
「ドライヤーの熱は髪によ くない……」と思い、自然乾燥をしている人も少なくないかもしれません。でも実は、髪を生乾きで放っておくのは、髪にドライヤーの熱以上のダメージを与えることになってしまいます。洗髪後はできるだけ早く、ドライヤーで髪を乾かしましょう。
①洗い上がりの濡れた髪をタオルで挟み、やさしくポンポンと叩くように水分をとる。
②頭皮から15cmほど離してドライヤーの温風をあて、根元から髪を乾かす。
③髪全体が乾いたら、ドライヤーの冷風を上からあてる。冷風をあてることで髪質が整えられ、ツヤが出る。
④手で頭皮を触って、しっかり乾いているか確認する。
6. 白髪は抜くとふえる? 髪にまつわるギモンにお答えします
最後に、髪にまつわる素朴なギモンに浜中先生にお答えいただきました。
Q. 白髪を抜くと白髪がふえる?
A. 白髪を抜いても、メラニン色素をつくるメラノサイトが活性化することはなく、白髪はふえません。ただし、無理に髪を抜くと毛根にダメージを与えることになり、ヘアサイクルが乱れて薄毛の原因になります。白髪が気になる場合は、ハサミでカットするか、白髪染め剤などを利用してカバーするのが、頭皮への負担が少なく安心です。
Q. わかめを食べれば髪はふえる?
A. わかめなどの海藻類には、髪の成長に必要なミネラルが豊富で、特にわかめに含まれるミネラルの一種、亜鉛は髪をつくるために必須の栄養素です。とはいえ、髪をふやすには、わかめを食べるだけでは不十分。たんぱく質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素を、毎日の食事でバランスよくとることが大切です。
Q. 女性の薄毛も、男性のように遺伝する?
A. 男性の薄毛には、遺伝的な要因があることが解明されていますが、女性の場合は遺伝的な影響があることは立証されていません。女性の薄毛は遺伝よりも、女性ホルモンのエストロゲンの低下や生活習慣の乱れ、ストレス、間違ったヘアケアなど、後天的な影響によっておこるケースが多いようです。
7. まとめ
介護などで忙しく過ごしていると、自分のことが二の次になり、髪にまで気がまわらないという人も多いかもしれません。でも、白髪や抜け毛、薄毛などの髪の悩みを解消し、若々しい髪を保つために特別なことをする必要はなく、大事なのは、毎日の生活の中で「髪を健やかに保つ」意識を持つことといえそうです。
今回紹介したヘアケア法なども含め、普段、何気なく行って いることを、ほんの少しだけ見直してみてください。髪にツヤが戻り、見た目の印象が変わると、気持ちもパッと晴れやかになれます。
監修:浜中聡子先生
浜中聡子(はまなか・さとこ) ※写真下
クレアージュ エイジングケアクリニック 総院長。医学博士。国際アンチエイジング医学会(WOSSAM)専門医、米国抗加齢医学会(A4M)専門医、米国先端医療学会(ACAM)専門医などの資格を取得。発毛治療を中心に、頭髪に関する悩み(抜け毛・薄毛・産後抜け毛など)・更年期など、女性が加齢変化にともなって抱える悩みに寄り添い、精神と体 の両面からケアする懇切丁寧な診療で多くの女性から高い支持を得ている。