わかる人には超わかる! そうでない人は「そんな親子(母と娘)がいるの!」と驚くかもしれない。「いやいや、うちはもっと大変!」という娘も!? その距離感が難しい“娘による実母の介護”について考える連載です。

1. 娘による実母の介護は大変?

いきなりのカミングアウトですが……。 父と母の両方を介護してみて(父は今も継続中)、私にとって、父の介護よりも母の介護の方が精神的に大変でした(お母さんがこの記事を天国で読んでいたら、ご立腹だろうな……)。
 
大前提として、これだけは声を大にして伝えたいのですが、毒親とか、母のことが嫌いとか、そういうことを言いたいわけではありません。母のことは大好きだし、尊敬もしているし、育ててくれたことを心から感謝しています。ただ、同性だからこそなのか、遠慮なく言いたいことが言い合えるという距離感ゆえなのか、いつまでも甘えたい娘と年老いて娘に甘えたい母親。複雑な問題が絡み合い、介護に直面したとき娘と実母の関係は難しくなることがあるように感じました。
 
『笑う介護。』(成美堂出版)などの著書にも書いていますが、母は東北出身なのに、そのファッションも含めて大阪のオバちゃんもびっくりするようなキョーレツなキャラクター。息子のことで少しだけ発達障害に少し詳しくなりましたが、もしかすると母にはADHD(注意欠陥/多動性障害)の傾向が少しだけあったのかもしれません。   大きな声で、言われた人のことなど気にせずに思ったことをズケズケと言います。だからこそ、裏表がまったくなく、人懐っこい性格で、どこへ行っても(大病を患ってたびたび入院していた病院とか)良くも悪くも目立ってしまうのです。
 
それでも他人であれば、そのズケズケした物言いは少し柔らかくなるのですが、実の娘である私には容赦がありません。そのため衝突は日常茶飯事。一方で、その言動から豪快に見えて、心はとても繊細でした。私が強く反撃するとスネてしまい、何日も口をきいてくれないこともよくありました。(親の介護をする前に知っておきたかった12のこと【その10とその11 】のエピード参照)
 

2. 「娘&実母」介護のあるある

母はパーキンソン症候群で要介護状態となると、思うように動かない身体へのストレスを怒りとして私にぶつけてきたり、いきなり大泣きをしたり、思い通りにいかないと「本当に使えない娘だ」と罵ったり。母の辛さもわかるのですが、私なりに一生懸命に介護をしているのにという思いや、娘という立場もぬぐえず「母親なのに、実の娘にそこまで言うか…」とやり場のない怒りや虚しさのようなものがわき上がって来たこともありました。認知症になった父のトンチンカンな言動にも悩まされましたが、娘の存在価値を否定するような言葉には精神的にかなりのダメージを受けました。
 
以降に登場にしてもらう予定ですが、実母の介護経験がある友人たちに母のことをこぼすと、意外にも「うちの母も!」「それ、わかる!」という声が返ってきたのです。さらに、まだ介護をしていない友人の中には、実母との関係性に悩みを抱えている人も少なくなく、将来の介護が不安だと言う人もいました。実母の介護で悩んでいる娘は私だけではなかったのです。

3. データでもやっぱりそうなのか……

母の存命中の実家は地域の寄り合い所のように近所のおばちゃんたちが次々とやって来てはお茶飲みをしていました。そこでよく話題になっていたのが「介護は実の娘にやってもらいたい」という話です。母の介護をする私を激励してくれていたのかもしれませんが、「うちは息子しかいないから、娘のいるあなたがうらやましい。やはり嫁だと気を使う」と言うおばちゃんの声に、私は苦笑いするしかありませんでした。
 
こうして娘側の声と母側の声を知った私は、実母の介護に苦戦する娘と、娘に介護を望む実母の間には、介護によってそれぞれの思いの違いから関係性がこじれてしまう要因がいろいろとあるように感じたのです。
 
「私の周りだけでなく、世の中的にはどうなのだろう」とデータを探していると、下記の調査(*1)で、性別(息子なのか、娘なのか)まではわかりませんが「誰に介護をしてほしいと思うか」という質問に、身内では配偶者の次に「子ども」が挙げられ、4人に1人はそれを望んでいます。ひと昔前はその担い手は「嫁」が多かったように思いますが、それを望んでいるのはたったの2.2%です。
 
実家でお茶を飲んでいたおばちゃんたちの声がそのまま反映されているような結果に驚きました。さらに、日本は女性の方が長生きをする傾向にあり、実家に来ていたおばちゃんの中にはすでに旦那さんが他界している人も少なくありません。配偶者である旦那さんを失くした奥さん、つまり母親は介護を家族であれば「子ども」にお願いしたいということになります。
 
また、母やご近所のおばちゃんたちの声から、母親は娘に自分がやるのと同じように家事や介護してもらうことを望んでいるようでした。それは嫁には言いづらくても、娘には言いやすいようです。だけど、娘たちも母親の影響を受けつつも、家庭を持ったり、仕事をしながら、自分なりの方法を見つけて家事を行っています。
たとえば、洗濯物の干し方、お皿の洗い方など、結果オーライならばいいと思うタイプの私と、自分なりのセオリーにこだわる母。そして、「やってあげているのに、うるさいな」と思ってしまう私と「私の言うとおりにやってよ!」という母とのバトルが始まるのです(父親はそのあたりは口出ししなかった)。
 
自分のことを産み、育ててくれた母親だからこそ、語ることはタブーな感じは確かにあります。でも「私も悩んだよ」として、娘の視点で実母の介護についての娘たちの声を聞くことで、今後、より増えていくであろう娘の実母の介護について考えていければと思っています。


*1 「介護に関する親と子の意識調査2019」(アクサ生命保険株式会社 2018年8月)より
データでもやっぱりそうなのか……
この記事の提供元
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著者:岡崎 杏里

大学卒業後、編集プロダクション、出版社に勤務。23歳のときに若年性認知症になった父親の介護と、その3年後に卵巣がんになった母親の看病をひとり娘として背負うことに。宣伝会議主催の「編集・ライター講座」の卒業制作(父親の介護に関わる人々へのインタビューなど)が優秀賞を受賞。『笑う介護。』の出版を機に、2007年より介護ライター&介護エッセイストとして、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。著書に『みんなの認知症』(ともに、成美堂出版)、『わんこも介護』(朝日新聞出版)などがある。2013年に長男を出産し、ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)となった。訪問介護員2級養成研修課程修了(ホームヘルパー2級)
https://anriokazaki.net/

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