老人ホーム入居後に、施設の「退去要件」に該当すると、施設側から退去を求められることがあります。今回は、施設側から退去を求められるケースとその際に確認すべきこと、注意点について解説します。
退去要件の項目は「入居契約書」や「重要事項説明書」「管理規定」といった入居前に交付される書面に記載されています。退去を求められるのは、主に以下の6つのケースです。
①身体状況の変化
心身の状態が悪化し、施設では対応できない医療行為が必要となった場合や認知症が進行した場合に退去を求められます。
また、状態が改善し、要介護度が施設の入居基準よりも低くなった場合も退去を求められることがあります。
②一定期間以上の不在
ケガや病気で長期間入院が必要になった場合も、退去の対象になります。ただし、入院期間の期限は、3カ月以上や6カ月以上と施設によって異なります。
③周囲とのトラブル
周囲とのトラブルも退去要件に該当します。
たとえば、認知症による、暴言・暴力、妄想、徘徊などの症状が見られ、ほかの入居者や施設スタッフと頻繁にトラブルを起こす場合です。施設側がケアを行っても症状が改善せず、サポートできる範囲を超えていると判断すると、退去を求められます。
④費用の滞納
毎月の利用料が支払えず、滞納した場合にも退去を求められます。ただし、すぐに退去しなければならないわけではなく、施設からの再三の督促に応じず、保証人からの支払いもない場合に退去勧告を受けます。
⑤不正手段による入居
入居申込書や診断書といった入居時に提出する書類に、虚偽の事項を記載するなどの不正が発覚した場合も退去の対象となります。
⑥施設側の都合
老人ホーム側の都合で退去となるケースもあります。たとえば、老人ホームを運営する事業者が倒産した場合などです。倒産すると、別の事業者が施設を引き継ぐため、退去となるケースはほとんどありません。ただし、新しい事業者の規定が適用されるため、契約内容やサービス内容、毎月の費用が変わる可能性があります。
施設を引き継ぐ事業者が見つからない場合は、施設が閉鎖されるため、入居者は新しい施設を探すことになります。
◾️退去の理由
まずは退去しなければならない理由を聞きましょう。
施設側の努力など、詳しい経緯を説明してもらうとともに、「入居契約書」や「重要事項説明書」などの契約条項(「退去要項」や「施設からの契約解除」に関する項目)も改めて確認します。
入居者の状態や行動がこれらに該当していれば、退去勧告に従うことになります。
もし、どうしても施設側の説明に納得できない場合は、公的機関などに相談することができます。退去に関する相談窓口は「重要事項説明書」に明記されているので、確認してください。
◾️返還される費用
退去時に返還される費用についても確認が必要です。老人ホームの退去時には、入居していた部屋をもとの状態に戻すための費用として「原状回復費」が求められることがあります。通常の使い方で、経年劣化による破損や壁紙等の汚れは、施設側の負担になります。しかし、入居者の故意・過失によって生じたものは入居者が負担して原状回復を行います。
また、入居時に初期費用として一時金を支払っている場合は、未償却分が返金される可能性があるので確認しましょう。退去日が償却期間を過ぎている場合や、入居一時金が0円の施設の場合は、返金はありません。
なお、有料老人ホームには、契約から90日以内の解約であれば、入居中の利用料などを除く入居一時金の全額を返還してくれる「クーリングオフ制度」が適用されます。
◾️退去するまでの期間
いつまでに退去しなければならないのかも確認しておきましょう。一般的には、退去までの猶予期間を90日としている老人ホームが多く、入居者は退去の期日までに次の入居先を探さなければなりません。
なお、新たな入居先を探す際には、入居中の施設から協力を得ることもできますが、難しい場合は、地域包括支援センターや老人ホーム紹介サイトを活用できます。
老人ホームから退去勧告を受けたと相談すると、入居希望者の状態に合った施設を紹介してもらえるでしょう。
著者:中谷 ミホ
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。
保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級