運動不足やストレスでおなか周りが気になってきたというケアラーの方へ。ご存じのように、肥満は見かけだけの問題ではなく、糖尿病や高血圧など、多くの病気を招くことがわかっています。また、日本肥満学会が定めた基準では、BMI 25以上が肥満とされ、50代男性の約4割もの方が該当します。さらに糖尿病や高血圧などがあると、単なる「肥満」ではなく、「肥満症」と診断され、減量治療の対象になってしまいます。ご自身だけでなく、家族の健康も気になるMySCUE世代にとって健康維持は大きなテーマ。肥満についての知識や生活上での注意点や最新の治療法などの情報を仕入れておきませんか?
肥満には大きく分けて、内臓まわりに脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」と、皮膚と筋肉の間にたまる「皮下脂肪型肥満」があります。
内臓脂肪型肥満は男性に多く、おなかだけがぽっこり出た体形になるのが特徴です。
一方、皮下脂肪型肥満は女性に多く、下腹部やお尻、二の腕などに脂肪がつきやすい特徴があります。このうち、さまざまな病気のリスクが高くなるのが内臓脂肪型肥満です。
<肥満のタイプ>
①内臓脂肪型肥満:腸や胃など内臓まわりに脂肪がたまるので、ぽっこりおなかの原因になります。皮下脂肪に比べて「つきやすく、落としやすい」というのも特徴の1つといえるでしょう。からだの奥に脂肪がつくので、指でつまむことはできません。
②皮下脂肪型肥満:下腹部やお尻、二の腕など、皮膚のすぐ下に脂肪がつくので、指でつまむことができます。女性は皮下脂肪がつきやすい傾向にありますが、更年期以降は内臓脂肪もつきやすくなります。
内臓脂肪型肥満は、おへその高さの断面画像で脂肪の面積が100㎠を超える場合をいい、おへそまわりの腹囲でも、内臓脂肪の蓄積状況を推定できます。
脂肪細胞からはさまざまな生理活性物質が分泌され、内臓脂肪が増えると、血糖値や血圧を下げる善玉物質の分泌が減り、逆に血糖値や血圧を上げる悪玉物質の分泌が増えると考えられています。
肥満かどうかは体脂肪の量によりますが、体脂肪量をはかる簡易的な方法がないため、BMI(Body Mass Index)が世界的な指標となっています。BMIの計算式は以下のとおりです。
例えば、体重74.0kg、身長171.0cmの人の場合、74kg÷1.71m÷1.71mでBMIは 25.3となります。日本人ではBMI 25以上になると肥満とされ、生活習慣病やがんなどのリスクが高くなります。さらに、高血圧や糖尿病などの健康障害が1つでもあると「肥満症」と診断されます。
肥満は、疾患を意味する状態ではありませんが、肥満症は医学的な治療の対象になるため、十分な注意が必要です。
<肥満症の目安>
●BMI25以上:肥満だが治療の対象ではない
●BMI25以上+11の健康障害または腹囲が基準値(男性85cm以上、女性90cm以上)を超え、腹部CT検査によって内臓脂肪型肥満と判定された場合:肥満症と診断され、減量治療の対象になる
●BMI35以上:高度肥満症と診断され、内科療法、減量手術などの対象になる
なお、肥満症の診断基準に必要な健康障害は、以下の11種類です。
①2型糖尿病・耐糖能異常
②脂質異常症
③高血圧
④高尿酸血症・痛風
⑤心筋梗塞・狭心症
⑥脳梗塞
⑦非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
⑧月経異常・不妊
⑨閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
⑩変形性(ひざ・股)関節症・変形性脊椎症、手指の変形性関節症
⑪肥満関連腎臓病
日本人は皮下脂肪よりも内臓脂肪がたまりやすく、軽度の肥満でも生活習慣病などの健康障害につながりやすいため、肥満症の人は減量治療の対象になります。また、現在は健康障害がなくても、BМI25以上で脂肪面積が100㎠を超えていれば肥満と診断され、治療の対象になります。
なお、2022年には、日本肥満学会編集『肥満症診療ガイドライン』が6年ぶりに改定され、最新の肥満症治療の方法や知見などが提示されました。
ガイドライン作成委員長でもある小川先生は、「肥満の原因には遺伝的な要因や社会・経済的な環境などさまざまあります。
しかし、中には周囲の人が「肥満と判定されるのは自己管理能力が低い人」と決めつけたり、肥満の人自身が「肥満は自己管理の問題で治療の対象ではない」と思い込んだりするケースも少なくありません。このような誤解を解消することも、肥満症による健康障害の予防、改善や適切な治療につながるのではないでしょうか」と話します。
さまざまな健康障害を防ぐためにも、そして適切に対処するためにも、肥満や肥満症に関する正しい知識を身につけておきましょう。
肥満を解消するには、食事や運動などの生活習慣を見直して改善することが不可欠です。まずは、自分や家族の普段の行動が肥満につながるNG行動になっていないかチェックして、当てはまる場合はすぐに改善しましょう。
■NG行動1:時間がなくて朝食を食べない
「朝は時間がなくて朝食を食べない」という人も多いかもしれません。しかし、朝食を抜くと次の食事のときに食べすぎてしまい、脂肪をため込む原因になります。朝食を抜くと、生体リズムが乱れて太りやすくなるともいわれます。朝、食欲がない場合は、バナナ1本など少量でもよいので、1日3食規則正しく食べる習慣をもちましょう。
■NG行動2:早食いである
早食いの人は肥満になりやすい傾向があります。脂肪細胞から分泌されるレプチンは、脳内の満腹中枢を刺激し、食欲を抑える働きがあります。食事を始めて20 分後から多く分泌されるので、ゆっくり食べると食べすぎを防ぐことができます。ひと口30 回かむように意識しましょう。そうすることで、消化管ホルモンのインクレチンが分泌され、満腹感が持続する効果もあります。
■NG行動3:お酒を毎晩飲む
ビール1缶(350mL)は約140kcal、チューハイ1缶(500mL)は約250kcal にもなります。お酒は種類にかかわらず中性脂肪をふやし、おつまみの食べすぎも肥満につながります。毎晩、お酒を飲む人はノンアルコール飲料に変えるなど、休肝日をつくりましょう。
■NG行動4:夜はおなかいっぱい食べる
「夕食のあとはからだを動かさない」という人も多いでしょう。夜におなかいっぱい食べると、エネルギーの多くが脂肪として蓄積されます。また、脂肪を蓄積する働きがある「BMAL-1(ビーマルワン)」というたんぱく質は、夜10時以降に活性化するといわれています。夕食はなるべく夜10 時まで(眠る3時間前まで)にすませるのが理想的です。
■NG行動5:野菜が苦手
食物繊維には糖質の吸収を緩やかにしたり、コレステロールの吸収を抑えたりする働きがあり、『肥満症診療ガイドライン』でも十分な食物繊維の摂取は減量に有用とされています。食物繊維の摂取量が多い人は体重だけでなく、血圧、LDL コレステロール、中性脂肪の検査値が低いという研究結果もあります。食物繊維は野菜やきのこ類、海藻類などに豊富に含まれるので、積極的に食べるようにしましょう。
■NG行動6:体重計に乗っていない
毎日、体重を測り、グラフにして視覚化すると、減量効果が上がることが実証されています。起床直後、朝食後、夕食後、就寝直前の4回測ることで、普段の食事と体重の増減を意識しやすくなるので、ぜひ実践してみてください。1日4回の測定が難しい人は、起床直後の体重を測ることから始めましょう。
体重を入力するとグラフ化してくれるスマホアプリや、スマホと連動できる体重計を活用するのもおすすめです。
■NG行動7:運動する時間がとれない
忙しくて運動する時間がとれない人は、通勤を運動の時間に変えましょう。ウォーキングなどの有酸素運動を1日30分、週に150分以上行うことで肥満解消が期待できます。ウォーキングは細切れで行っても効果は同じです。朝の通勤で10分、買い物で10分、帰りの通勤で10分ずつ歩けば30分になります。
減量の基本は食事や運動などの生活習慣の改善ですが、2023年、肥満の人に対するOTC医薬品(市販薬)や肥満症の治療薬が新たに承認され、治療の選択肢が広がりつつあります(いずれも発売時期は未定)。
2023年2月に承認された「オルリスタット(商品名:アライ)」は薬局で購入できる薬です(発売時期は未定)。
「オルリスタット」には、小腸での脂肪吸収を抑える働きがあり、生活習慣の改善とあわせて服用することで、内臓脂肪を減らす効果があります。直接薬局で販売されることから、ダイレクトОTC医薬品と呼ばれますが、要指導医薬品なので、購入の際には薬剤師と対面して指導を受ける必要があります。
<医師の処方なしで薬局で購入できる薬>
2024年2月に発売が開始された「セマグルチド(商品名:ウゴービR)」も、医師が処方する肥満症治療薬です。
GLP-1受容体作動薬と呼ばれる薬で、血糖値を下げるインスリンの分泌を促す働きがあるため、糖尿病治療薬として使われています。血糖値が高くないときは作用せず、食欲を抑える働きがあることから、肥満症の減量治療薬として承認されました。
<肥満症に対して、新たに承認された治療薬>
また、高度肥満症に対する外科治療も保険適用となっており、薬物療法などを6カ月以上行っても効果が不十分な人には、「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」が検討されます。
「肥満症の薬物療法は、肥満症と診断された人が食事療法や運動療法を行っても効果が不十分な場合に、医師の判断により検討されます。単にやせたいというだけでは対象になりません。肥満症や高度肥満症の人は、単なる肥満とは違い、れっきとした病気です。外科治療を含めて適切な減量治療を受けることで、さまざまな病気の予防・改善が期待できます」(小川先生)
厚生労働省の「国民健康・栄養調査報告」によると、30~60代の中高年男性では約3人に1人が肥満だといいます。前述したとおり、肥満は疾患ではありませんが、「からだに悪影響をおよぼす可能性の高い状態」であることは否定できません。そして、肥満に起因・関連して健康状態に悪影響が出ている、もしくは出ると予想される場合は肥満症と診断され、医学的な治療が必要になります。
肥満の予防や改善のためには、生活習慣を見直したり、適度な運動を心がけたりすることが大切です。当記事で紹介した、「肥満につながるNG行動7選」を参考に、正しい生活スタイルを身につけましょう!
「運動の大事さは理解しているけれど、どんな運動をすればよいかわからない」という人は、ぜひ下記の記事を参考にしてください。
本当はすごい「大人のラジオ体操」 効果絶大の正しいやり方とコツを紹介
小川 渉(おがわ ・わたる)
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門 教授。
日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」作成委員会委員長
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。