食べる時間帯によってエネルギー代謝が変わることには、体内時計が関係しています。体脂肪量を調整する時計遺伝子「BMAL 1(ビーマルワン)」は、体内時計と密接に関係し、一定の周期で増減を繰り返しており、その特性から、太る時間帯・太りにくい時間帯ができるのです。また、運動を行う時間帯や食事との間隔で筋肉のつき方やエネルギーの消費効率が異なることもわかってきました。今回は、体内時計の働きを元にした「時間栄養学」「時間運動学」を活用したダイエット方法をご紹介します。血糖値や血圧など、健康面での懸念も気になるケアラー世代はもちろん、親世代の健康維持のためにもぜひ知識をシェアしてください。
人間を含む地球上のすべての生物には、地球の自転にあわせたリズム、いわゆる体内時計が備わっています。そして、さまざまな神経や臓器などの働きは、この体内時計によって制御されているため、時間帯により活発になったり低下したりします。こうしたメカニズムを踏まえながら、「いつ」食事や運動をすれば健康に役立つか、といったことを研究したものが「時間栄養学」と「時間運動学」です。
「夜遅くに食べると太りやすいことには、体内時計が深く関係しています。運動も、時間帯や食事との間隔によっては十分な効果が得られません。体内時計を上手に活用することが、無理なく、効率よくダイエットするコツなのです」と話すのは、管理栄養士の小島美和子先生です。
体内時計は、脳にある「親時計」と、内臓や血管、筋肉などにある「子時計」から成り立っており、親時計は1日で約24.5時間のリズム、子時計は23~25時間の間でさまざまなリズムを刻んでいます。これに対し、地球の自転周期は1日24時間なので、放っておくとどんどんリズムが狂い、睡眠障害、肥満、糖尿病などの代謝障害や、免疫・アレルギー疾患をはじめとする病気の原因となります。つまり、体内時計を健康維持やダイエットの味方につけるためにも、まずは毎朝24時間の周期にあわせる必要があるのです。
では、どうやって体内時計を24時間周期にあわせればよいのでしょう。そのカギを握るのは「朝の光」と「朝食」です。脳にある親時計は、目から入ってきた光の刺激によって朝になったことを認識し、時計をリセットして1日をスタートします。このとき、子時計にもリセットするよう指令を出すのですが、それとは別に、子時計に直接リセットの指示を出す刺激があります。そう、朝食による刺激です。「朝食が大事」といわれる背景には、全身の体内時計をしっかりリセットするという意味合いもあるのです。
小島先生によれば、「体内時計をベースに生活リズムをととのえると、短期間で体調もよくなり、ダイエット効果も出やすい」とか。以下に、時間ごとの食事と運動のポイントをまとめたので、明日からでもさっそく実践してみましょう。
体内時計をきちんとリセットできるかどうかは、朝にかかっています。特に大事なのは、毎日決まった時間に起きて朝の光を浴び、起床後1時間以内に朝食をとること。それによって、リセット効果が高まるからです。あわせて、次の簡単エクササイズ&食事術を実践すれば、ダイエットの効率がぐんと高まりますよ!
<朝に実践したい簡単エクササイズ&食事術>
●朝日を浴びたら肩回し
朝起きてすぐに朝日を浴びたら、肩回しの運動を。両手の指先を肩にあて、肘を前後に大きく10回ずつ回しましょう。肩甲骨周辺にある褐色脂肪細胞に刺激を加えることで、脂肪が燃えやすくなります。
●ごはん+たんぱく質で燃焼モードに!
体内時計のリセット効果がもっとも高いのは、ごはんなどの糖質+たんぱく質の組み合わせ。朝食をとると体温が一気に上昇して、脂肪が燃えやすい状態になります。この脂肪燃焼モードは1日中持続するため、じっとしているときの消費エネルギーもアップします。
●食後に「ながら筋トレ」
短時間でかまわないので、テレビを見ながらスクワットをしたり、その場でジャンプしたりする(住宅事情が許せば)のがおすすめです。代謝が上がり、1日を通して脂肪が燃焼されやすくなります。
●通勤時にもプチトレを
筋肉に刺激が加わると、体内時計の働きが強化されます。特に朝は効果的なので、駅の階段を1段飛ばしで上ったり、スピーディーに歩いたりしてみましょう。
ちなみに、朝食には糖質が豊富な白米がベストです。必ず卵や納豆などのたんぱく質を付けましょう。たんぱく質を加えることで体内時計のリセット効果が高まります。
脂質の多い食事は代謝が上がりにくいので、パン食にするなら菓子パンではなく、ベーグルなど脂質の少ないパンを選びましょう。あわせて、サラダチキンや卵などのたんぱく質をとると、より効果的です。
1日のうちでもっとも代謝がよい日中は、エネルギーを気にするよりもさまざまな栄養素をとることを優先してください。量もしっかりとったほうが、間食の食べすぎを防げます。
<昼に実践したい簡単エクササイズ&食事術>
●昼食は品数を多くしてきちんと栄養補給いろいろな栄養素をとるためにも、副菜のついた定食など、品数の多いメニューを選びましょう。ダイエット中に「高エネルギーの料理が食べたい」と思ったら、脂肪に変わりにくいランチで楽しむのがおすすめです。
●昼休みを使ってウォーキング
ランチは少し遠くの店を選べば、必然的に食後のウォーキングができます。食後にからだを動かすことで血糖値が下がり、食べたものがエネルギーとして消費されるため、脂肪に変わりにくくなりますよ。
●間食をとるなら午後3~4時に
脂肪の量を調整している「BMAL 1(ビーマルワン)」(*)の働きが一番弱まるのは、午後2 4時頃で、食べたものをエネルギーに変え、脂肪としてため込まない時間帯といえます。おやつを食べるなら、夕食までの時間も考慮して、午後3~4時の間にしましょう。おすすめはナッツ類やヨーグルトですが、甘いものを食べたいときは全粒粉入りビスケットやナッツ入りチョコレートなどでもOK。食物繊維を含むものを選ぶと、血糖値が上がりにくくなります。
*冒頭に紹介した、からだに脂肪をため込む働きのあるたんぱく質が「BMAL 1」です。午後10~午前2時はBMAL 1の働きがもっとも高まるため、この時間帯に何かを食べるのは避けたほうがよいでしょう。
体温が上がり、筋肉もスムーズに動かせる昼~夕方は運動するのに最適な時間帯で、ダイエット効果が高いといわれています。ただし、極端な空腹状態での運動は避けましょう。極端に空腹の状態で運動をすると、からだは筋肉を壊してエネルギーを作り出そうとします。その結果、運動をしても筋肉が減ってしまい、代謝が落ちて太りやすくなるので要注意です!
<夕方に実践したい簡単エクササイズ&食事術>
●午後はチャンスを見つけて積極的に動く昼食から3時間ほどたったころは、もっとも脂肪が燃えやすいとき。このタイミングに外出する機会があれば、普段より速く歩くなど、積極的にからだを動かしましょう。
●帰宅時にウォーキング
帰宅時には「ひと駅手前で電車を降りる」、買い物時には「少し遠まわりして帰る」など、意識的に歩くようにしましょう。夕方に運動するときは、昼食をしっかりとり、空腹状態にならないように注意しましょう。
●夕食が遅くなるときは分食する
夕食が遅くなる場合は、2回に分けて食べる「分食」を心がけましょう。その際は、夕方におにぎりのような主食をとり、帰宅後は野菜や低脂質のたんぱく質(魚、豆腐など)をとるのがおすすめです。
夜は血糖値が上昇しやすくなるほか、BMAL1の作用のために脂肪をため込みやすくなります。夕食は動物性の脂質を控えめにし、できれば午後8時までにすませるようにしましょう。
<夜に実践したい簡単エクササイズ&食事術>
●夕食は「ごはん+食物繊維」で脂肪をためにくくする
夕食では糖質は控えめにしたいところですが、まったく抜いてしまうのはNG。適量の糖質と一緒に食物繊維をとると、血糖値の上昇がゆるやかになるのと同時に、満腹感も得やすいのでおすすめです。また、夕食で動物性の脂質(肉、乳製品など)をとると脂肪がたまりやすくなるので、主菜には魚や豆腐などを選びましょう。
●夕食後の運動は負荷の軽いものを
夜に負荷の強い運動をすると、交感神経が優位になり、体内時計が後ろにずれる原因になりかねません。運動するならできるだけ早い時間を選び、ヨガやストレッチなど負荷の軽いものを行いましょう。
ダイエットというと、どうしても総カロリー量や運動量などに目を向けがちですが、「何時に何を食べるか」や「どの時間帯にどうからだを動かすか」も大切なポイントです。体内時計を味方につけて、無理なく効率的にダイエットを実践しましょう。
なお、睡眠が不足すると代謝が落ちて、太りやすくなるといわれています。また、夜遅くなると食欲を抑える「レプチン」というホルモンが低下するため、深夜起きているだけでも食欲が増し、過食しやすくなります。今回紹介した「簡単エクササイズ&食事術」とあわせて、睡眠をしっかりとることも心がけてくださいね。
小島美和子(おしま・みわこ)
管理栄養士、産業栄養指導者、健康運動指導士、食コンディショニングプロデューサー。有限会社クオリティライフサービス代表取締役。管理栄養士の専門性を活かし「健康・食生活」領域で企画・開発・食教育事業を展開する、有限会社クオリティライフサービス設立。企業や健康保険組合での食生活改善指導、指導者教育・各種食教育ツールの企画開発。また、食品、健康サービス事業者でのヘルスプロモーション及びリテラシー向上のための企画・各種コンテンツ開発や、へルシーメニュー企画・開発サービスに携わり、食の現場でQOLを高める事業を展開。TV、ラジオ、雑誌での出演・企画。各種研修・セミナー講師等多数担当。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。