近年、無理のないダイエット法として「ゆる糖質オフ」を実践する人が増えています。ゆる糖質オフとは、1日に摂取する糖質量を減らすことで、からだの脂肪を優先的にエネルギーに変えるダイエット方法のこと。「毎日糖質の管理をするのは大変そう…」と思う方もいるかもしれませんが、朝食・昼食・夕食それぞれのルールを理解すれば、そう難しいことはありません。ハードな食事制限と違って、ある程度の糖質もとれるので、日々、家族の介護に忙しいケアラーにとっても、長続きしやすいはずです。
「肥満ぎみの人の食生活をみると、ごはんなどの炭水化物をとりすぎている傾向があります。体を激しく動かす仕事に従事する人や、日々ハードなスポーツをしている人でなければ、明らかに糖質をとりすぎていることが多いのです」と話すのは、いちかわクリニック院長の市川壮一郎先生です。
私たちが主食としているごはん、パン、めん類などの炭水化物はほぼ糖質であるため、主食がメインの食生活では、気づかないうちに糖質をとりすぎてしまうのだとか。そして、とりすぎた糖質は、エネルギーとして消費されずに脂肪としてからだに蓄えられ、肥満の原因となってしまうのです。
また、糖質のとりすぎは、肥満以外にもからだに悪影響をおよぼします。食事によって血糖値(血中に含まれるブドウ糖の値)が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌されて、血糖値を調整してくれます。しかし、食事で大量に糖質をとった場合は血糖値は急上昇し、それにあわせてインスリンも大量に分泌され、血糖値を急降下させてしまいます。
市川先生は、「急激に上がった血糖値がドスンと落ちる“血糖値の乱高下”には注意が必要です。将来的に健康障害を引き起こす要因になりかねません」と警鐘を鳴らします。血糖値の乱高下が動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳卒中、糖尿病、認知症のリスクを高めてしまうからです。
肥満を解消し、生活習慣病を防ぐには、とりすぎている糖質を減らすことが大切ですが、極端な糖質制限は長続きしません。また、厳しい糖質制限をしていた人が再度糖質をとると、リバウンドの原因となります。
「大切なのは、自分に合った糖質量(適量)をとること。適正な体重をキープできるかどうかを1つの判断基準にするとよいでしょう」と市川先生がいうように、糖質は無理なくゆるやかに制限するのが最善の策。そのための方法として注目されているのが、ゆる糖質オフなのです。
ゆる糖質オフの解説をする前に、糖質と肥満の関係について、もう少し詳しく説明しましょう。食事でとった糖質は体内でブドウ糖に分解され、インスリンの作用で細胞に取り込まれたあとに、グリコーゲンとして肝臓などに保持されます。それでも余ったブドウ糖は、中性脂肪となって脂肪組織に貯蔵されます。
一方、私たちが活動するときには、エネルギー源としてグリコーゲンが使われ、グリコーゲンが使い尽くされると中性脂肪が消費されます。つまり、糖質の摂取量が多いと新たにグリコーゲンがつくられ続けるため、中性脂肪は消費されるどころか増加しつづけ、太ってしまうわけです。
ちなみに、糖質は「炭水化物から食物繊維を除いたもの」と定められていて、主食となるごはんやパン、めん類などの炭水化物はほぼ糖質です。また、根菜類、果物などにも糖質が多く含まれています。以下に、糖質の多い食べ物を紹介しておくので、ゆる糖質オフを実践する前に確認しておいてください。
<糖質の多い食べ物>
●穀類
ごはん、パン、めん類などは糖質を多く含みます。玄米は白米よりも血糖値の上昇がゆるやかになりますが、だからといって食べすぎるのはNGです。
●根菜
いも類、にんじん、ごぼう、れんこんなども糖質が多め。ただし、ビタミンやミネラル、食物繊維が豊富なので、適量を心がけることが大事です。
●果物
果物にはブドウ糖、果糖、ショ糖などの糖質が多く含まれます。食後に少量を楽しむ程度にして、食べすぎには注意しましょう。
●スイーツ
多くのスイーツに使われる砂糖や小麦粉は糖質のかたまりなので、できるだけ避けましょう。食べるときは控えめに。
ゆる糖質オフではまず、主食の量を減らすことがポイントとなります。根菜類などは糖質以外の栄養素も豊富なので、極端に減らさなくてもよいでしょう。
今回は、ゆる糖質オフをテーマに話を進めていますが、みなさんのなかには「自己流で糖質オフに挑戦したことがあるけれど、失敗してしまった」という人がいるかもしれません。そうした人に知っておいてほしいのは、「失敗するケースには共通した要因がある」ということです。同じ落とし穴にはまらないためにも、事前に代表的な原因を理解しておきましょう。
●単純に主食を抜く
完璧主義の人ほどやりがちなのが、これまでの食事から炭水化物だけを完全にカットしてしまうことです。当然、食事の全体量が減るため、エネルギー不足によってからだがだるくなったり、とくに高齢者などで元気が出なくなったりします。
●野菜をあまりとらない
炭水化物には食物繊維も含まれているため、摂取量を極端に減らすと食物繊維の摂取量は減少します。加えて、野菜をあまりとらないでいると、食物繊維が不足して便秘などの不調を招くことになりかねません。
●糖質に神経質になりすぎる
「とんかつの衣はNG」など、おかずに糖質オフを求めるとメニューが限定され、挫折の原因になってしまいます。長く続けるためにも、おかずの糖質はあまり気にせず、バラエティーに富んだ食事を楽しみましょう。ただし、間食や甘いドリンクは糖質のとりすぎに直結するので、できるだけ控えるとよいでしょう。
ゆる糖質オフを無理なく続けるためには、毎日食べる炭水化物で糖質を調整するのがいちばん。1日3食の食べ方にちょっとしたコツがあるので、その方法を紹介します。
まず朝食では、葉もの野菜を中心としたサラダなどの野菜料理をたっぷり食べましょう。野菜に豊富に含まれる食物繊維の働きで、食後の血糖値の上昇がゆるやかになり、セカンドミール効果(*)も期待できるはずです。たんぱく質は、サラダチキンやゆで卵、ツナなどでとるのがおすすめ。主食の目安量としては、食パンなら8枚切り1枚、ごはんなら茶わん1 杯弱までとし、野菜→たんぱく質→主食の順に食べましょう。
なお、朝食で野菜を食べる最大の目的は、「十分な食物繊維をとる」ことです。野菜ジュースにも食物繊維が含まれているものがありますが、量的に不十分な場合が多いので、野菜の代用にはならないということを心得ておきましょう。
<ポイント>
・葉もの野菜中心に野菜をたっぷり食べる
・生野菜でも温野菜でもOK
・サラダチキン、ゆで卵、ツナなどを加える
・サラダはドレッシングで味の変化を楽しむ
・主食は野菜とたんぱく質のあとに食べる
*最初にとる食事(ファーストミール)が、次にとった食事(セカンドミール)の後の血糖値にも影響をおよぼすこと。
昼食は、基本的に好きなものを食べてOKです。ただし、炭水化物中心の丼ものやめん類は週1 回くらいにとどめましょう。食後は少し休んでからウォーキングなどで積極的にからだを動かしてください(できれば10 分以上)。
血糖値は食事を始めてから15 分くらいで上昇しはじめ、60 分くらいでもっとも高くなるので、上がりきる前にからだを動かすことで上昇を抑えることができます。
〈ポイント〉
・基本的に好きなものを食べてOK
・丼ものやめん類は週1回までに
・たんぱく質や野菜もとれる定食がベスト
・食後60分以内にからだを動かす
夜はごはんの量を徐々に減らしていき、最終的には茶わん半分になるようにしましょう。パンやめん類なども、半分程度に減らしていってください。その分、おかずの量や品数を増やすと、満足感が得やすくなります。ただし、塩分過多にならないよう味つけは薄めに。
夕食におすすめなのは鍋料理です。肉や魚、豆腐、野菜、きのこ類をたっぷり入れれば栄養価も高いので、冬以外の季節にも積極的に食べましょう。
「お酒をチビチビ飲みながらいろいろなおかずをつまむ」という晩酌スタイルは、主食をとらないことが多く、糖質を抑えやすい食べ方になります。ただし、シメに主食をとらないこと、飲みすぎないことに注意してください。
<ポイント>
・おかずをメインに食べる
・おかずはなるべく薄味に
・ごはんは茶わん半分を目標に、徐々に減らす
・鍋料理を活用する
ゆる糖質オフの成功率を上げるための裏ワザも紹介しておきましょう。手軽にできるものばかりなので、ぜひ実践してみてください。
裏ワザ① 水溶性食物繊維をたっぷりとる
食物繊維には不溶性と水溶性がありますが、とくに積極的にとりたいのが、糖の吸収を抑えてくれる水溶性の食物繊維です。わかめ、こんぶなどの海藻類、なめこ、干ししいたけなどのきのこ類に多く含まれるので、野菜とあわせて積極的にとりましょう。
裏ワザ② 糖質の前に脂質やたんぱく質をとる
食事をすると分泌されるインクレチンというホルモンには、インスリンの分泌を促す働きがあります。先に脂質やたんぱく質などを摂取しておくと、インクレチンが働いてインスリンが分泌されるので、糖質をとっても血糖値が急上昇しにくくなります。
裏ワザ③ 生でも加熱調理でもオリーブ油を使う
多くの研究で、オリーブ油には糖の吸収を抑える働きがあることがわかっています。オリーブ油は加熱しても酸化しにくいというメリットもあります。生のままドレッシングに使っても、加熱して使ってもよいでしょう。ただし、とりすぎには注意してください。
裏ワザ④ 調味料に積極的にお酢を活用する
酢の成分である酢酸には、食べ物が胃に滞留する時間を延ばす作用があり、糖質の消化・吸収の速度をゆるやかにしてくれます。食後の血糖値の急上昇を抑えるためにも、料理にお酢を活用しましょう。
先に、「糖質のとりすぎは、からだに悪影響をおよぼす」と説明しましたが、糖質過多は肌を老化させる原因にもなるともいわれています。
余分な糖質が体内のたんぱく質や脂肪と結びつくと、「AGEs(糖化最終生成物)」と呼ばれる悪玉物質がつくられ、そのAGEsがシミやシワ、たるみを引き起こすと考えられているからです。ゆる糖質オフで糖質量を減らし、肌も健康に保ちましょう。
ただし、意気込みすぎて目標設定を高くするのは考えもの。ゆる糖質オフは、その名の通り適度にゆるく続けていくのが成功への近道です。「継続すること」を第一に考えて、ゆっくりと理想の体形を目指しましょう。
市川壮一郎(いちかわ・そういちろう)
いちかわクリニック院長。医師、循環器専門医、日本糖質制限医療推進協会提携医。千葉大学医学部を卒業後、循環器専門医として救急医療に邁進する中で、病気となってから受診するのではなく、その前に予防できればより多くの方が毎日を健やかに過ごすことができると確信。2018年に生活習慣病を中心とした診療をするため、千葉県船橋駅前に「いちかわクリニック」を開業。日々訪れる数多くの患者さんに、食生活を含めた生活習慣の改善を行っている。特に糖質制限については、遠方からの受診を希望される患者さんも多く、糖質の取りすぎを無理なく是正することで、数多くの糖尿病患者さんの改善に成功している。
いちかわクリニック公式HP
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。