宅で介護する人の悩みの1つが食事です。栄養バランスの整った食事を用意しても、食事内容が本人の噛む力や飲み込む能力に合っていなければ、うまく食べられず、それが低栄養につながってしまいます。家族を介護している方は、簡単に作れて楽しい食事を、高齢者と一緒に考えて用意するように心がけましょう。

1. 食欲を促すには、食べやすさだけではなく、食べたい味を

 

食べやすさや栄養バランスだけを気にしていると、食べる楽しみが失われて、食は進みません。高齢者本人の好みの味、あの料理が食べたいという思いが、食べることへの意欲を剌激します。おいしい、食べたいと感じる料理なら喜んで食べることができ、低栄養を防ぐことにつながります。

 

日々の食事で食べたいと思うのは昔から食べ慣れた料理であり、そのなかでも比較的やわらかくて食べやすい物が高齢者には好まれます。

刺身、焼き魚、煮魚、天ぷら、うなぎのかば焼き、オムレツ、茶わん蒸し、グラタン、クリームシチュー、とんかつ、すき焼き、カレーライス、スパゲティ、そばなどがあげられますが、食生活の歴史は人それぞれなので、本人の食べたい物は何か、例をあげてたずねながら献立を決めるとよいでしょう。認知機能の低下や疾病等が原因で、好みが変わる場合もあります。

 

家族と同居の高齢者の場合、多少、口腔機能が低下していても、できるだけ家族と同じ食事をアレンジして食卓を一緒にすることが、楽しく食事をとる最良の方法です。

2. 家庭料理のアレンジで家族と一緒に食事を

噛む力が弱くなっていても噛んで飲み込める高齢者なら、いつもの家庭料理を少しアレンジすれば、好みの物や家族と同じ料理が食べられます。

 

【アレンジの基本】
●やわらかめの食材を使用する

●食べやすい大きさにカットする

●口の中でまとまりにくい物は、とろみをつけたり、つなぎでまとめたりする

●たんぱく質がとれる食品は火を通しすぎるとかたくなるので注意する

●野菜はやわらかくなるまでよくゆでたり、煮たりする

●パサつきそうな食品にはソースやたれをからめる

●ソースには野菜を加えたり、野菜料理にたんぱく質を加えたりして1品で多くの栄養素をとれるように工夫する

 

【アレンジ例】
豚肉のしょうが焼きのアレンジ例

●しゃぶしゃぶ用薄切りバラ肉を使うとよい

●しょうが汁にしばらくつけておくと肉がやわらかくなる

●片栗粉をまぶして炒めるとなめらかな食感に

 

ハンバーグのアレンジ例
●高齢者の分は1cm角にカットする

●デミグラスソースをかけて飲み込みやすくする

●ソースに、火を通しやわらかくしたみじん切りの野菜を加える

 

白身魚の蒸し物のアレンジ例
●焼くとパサつく魚も、蒸せばふっくらやわらかに

●酒を振りかけて電子レンジで蒸してもよい

●中華味のたれ、ポン酢しょうゆ、マヨネーズなどで味に変化をつける

●軽く電子レンジにかけたみじん切りのねぎや、おろししょうがなどを添える

 

咀嚼力(噛む力)の落ちた高齢者には、少々脂ののったロース肉などを勧めると、口の中でとろけるようでおいしいと喜び、食欲も増します。脂質が多く含まれている肉は、たんぱく質もエネルギーも同時にとることができます。

3. 「食べにくいもの」を把握し調理の工夫を

 

高齢のご家族が「食事を残している」「食べ物がいつまでも口の中にあって、なかなか飲み込まない」というような様子が見られたら、口腔機能が低下して食べにくくなっていると考えられます。

口腔機能が低下しているのに普通の形態の食事をとっていれば、食事量が減って栄養不足になる可能性があります。

 

食べる様子をよく見て、どんな食材が苦手なのか、どうして食べにくいのかを探り、食べやすい調理法を工夫しましょう。

 

高齢になると苦手な食材が増えてきます。咀嚼力が低下すると、繊維の多いかたい食材を好まなくなり、唾液の分泌量や体内の水分量が減ると、水分が少ない食材や薄くて上あごに貼りつきやすい食材が食べにくくなります。

また、舌やのどの筋力が落ちると、嚥下機能(食べ物をのどに送り込む機能や飲み込む機能)が低下して、口の中でバラバラになる食材や口の奥で形が崩れる食材は、むせる原因となります。粘り気や弾力性が強い食材はのどに詰まりやすく、逆につるりとのどに入ってしまう食材は誤嚥の危険があります。

 

このように、高齢になるとさまざまな食材が食べにくくなってきますが、食べにくいからといってその食材を敬遠してしまうことは、栄養バランスや食事のバラエティーといった面から、望ましいことではありません。そのうえ、噛まなくてもよいやわらかい料理ばかり食べていれば、口から食べる力がますます落ちてしまいます。

 

どうして食べにくいのか、その原因を把握し、医師や歯科医師に相談するとともに、食事を用意する際には、調理の工夫で食材を食べやすくしましょう。

4. 扱いやすい肉や魚介類の選び方

 

たんぱく質は、筋肉のほか、内臓、骨、皮膚、髪、血液、ホルモンや免疫物質などの材料になります。良質なたんぱく質をとるには、肉や魚類は必須です。ここではそれらの選び方を解説します。

 

【肉の選び方】
●脂肪が含まれ、やわらかい物が食べやすい方…豚のロース肉やバラ肉、牛のサーロイン、ひき肉

●パサパサしたり、かたくなる物が食べにくい方…豚・牛のひれ肉、鶏のもも肉や胸肉、ささ身肉

 

【魚類の選び方】
●生もの…食べやすい赤身魚(まぐろ、はまち、かつお、ぶり)、甘えび、ほたての貝柱の刺身、生のイクラ

●加熱調理(大根おろしあえ、あんかけ、煮物など)用…さんま、いわし、白身魚(たら、たい、ひらめ、かれい)、かに、かきなど

※食べにくいいか、たこなどは、摂食嚥下機能が低下している方には避ける

 

【切り方のポイント】
●食材は繊維を断つようにして、口に入れやすい大きさに切る

●肉、魚は2~3㎝幅ぐらいに切る(魚は骨を取り除く)

●野菜は繊維に対して直角に、食べやすい長さに切る

 

【食べやすさを工夫すべき食材】
水分の多い物やパサパサしている物、口の中でパラパラになる物は、むせやすいので、とろみをつけたり、つなぎになる材料を用いて食べやすさや飲み込みやすさを工夫しましょう。

 

【(上記の場合に)とろみやつなぎに使える食材例】
卵・乳製品:卵、ヨーグルト、飲むヨーグルト、生クリーム、ホワイトソース、アイスクリーム

野菜・果物:オクラ、山いも、さといも、れんこん、アボカド、バナナ

大豆製品:豆腐、納豆

調味料など:マヨネーズ、クリーミータイプのドレッシング、練りごま、みそ、片栗粉、寒天、ゼラチン

5. まとめ

食べる機能が弱くなった高齢者の食べる意欲を刺激するには、食べやすく、好みに合う食事を提供することが重要ですが同時に、介護者の過剰な負担にならないための食事づくりの工夫も欠かせません。

食べやすさのみではなく、本人が食べたい料理を提供することが、高齢者の食欲を支えます。ほかの家族と同じ食事がとれるだけでも、食への意識を刺激します。負担にならない程度に、ぜひ工夫してみてください。

 

次回は、高齢者の食欲をアップさせるポイントについて解説します。

6. 監修者プロフィール

中村育子(なかむら・いくこ)
名寄市立大学保健福祉学部栄養学科准教授。管理栄養士、在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員。静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府博士後期課程修了。医療法人社団福寿会慈英会病院在宅部栄養課課長。一般社団法人日本在宅栄養管理学会副理事長。在宅訪問管理栄養士の第一人者。『やわらかく、飲み込みやすい 高齢者の食事メニュー122』(ナツメ社)、『75歳からのラクラク1品栄養ごはん』(扶桑社ムック)など、著書多数。

この記事の提供元
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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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