シニアと行きたい旅行プランをトラベルライターの間庭典子がご提案! 車いすでもアクセスしやすい客室があり、人生最高の美食体験をかなえる、賢島(かしこじま)のスモールラグジュアリーホテルをご紹介します。
すでに開業8年目を迎える「ザ・ひらまつ ホテルズ & リゾーツ賢島」。初めて訪れたときには、とうとう日本でもこういう上質なスモールラグジュアリーホテルが実現した!と衝撃を受けたものでした。フランス料理を日本に広めてきたひらまつグループがホテル業界に進出したとあって、グルマンもうなった贅沢な宿。素晴らしい食材と一流のシェフによる奇跡の美食体験がかないます。
伊勢志摩のさらに南、賢島は近鉄志摩線の終着駅。大阪なんばや京都、近鉄名古屋駅と賢島をつなぐ、観光特急しまかぜも運行しています。賢島は2016年開催された「G7伊勢志摩サミット」の開催地となったことで注目されましたが、伊勢志摩国立公園内にあり、この地域は2000年も昔から、朝廷や伊勢神宮にアワビやサザエ、鯛や海藻など海産物を納め、万葉集でも「御食つ国(みけつくに)」とうたわれてきた地。神様にお供えするお食事、神饌(しんせん)もここから運ばれると聞いたことがあります。牡蠣やマグロ、そして伊勢エビなど、海鮮も多種多様! 神々に守られたピースフルな島なのです。
写真上:海産物に恵まれた英虞湾を一望できる立地。牡蠣や真珠の養殖でも知られる賢島。
賢島のロケーションも素晴らしいのですが、「ザ・ひらまつ ホテルズ & リゾーツ 賢島」の醍醐味は、ゆったりと館内で過ごす時間。全8室と決して広くはない規模感ですが、上質な家具やアートが調和した空間が心地よく、心と体が浄化されるような感覚に浸れます。チェックイン時にはラウンジでウェルカムドリンクを。親しい方の邸宅に招かれたような落ち着きのあるラウンジでくつろぎ、テラスからは英虞湾を見渡せます。
今回は半露天風呂を備えた客室のある別棟へ。客室に一歩足を踏み入れると視界に入るのが大きなお風呂です。リビングの一部が浴室と言っても過言ではないほどの圧倒的な存在感に驚くはず。温泉に入りながら、リビングでくつろぐ家族と語らう、なんて時を過ごせるのもこの間取りならでは。もちろん仕切ることも可能なので、ご安心を。いずれにしてもこの開放的な眺望温泉は、非日常を演出してくれます。
デザイン家具を配したインテリアも秀逸。天然の素材を生かしたあたたかみのあるコーディネートで、客室もホテルというよりも誰かの邸宅といった佇まい。ロケーションと空間のもつ贅沢さで、滞在そのものが特別な時間になるのです。
写真上:客室は段差のないシームレスな作り。リビングとひと続きで眺望風呂が。
このホテルはスペシャルな点は、究極の美食体験ができること。賢島の旬の素材の味を引き出し、一皿一皿がアート作品のように美しいディナーは感涙もの。なかでも漁が解禁される10月から4月までの伊勢エビはぜひとも味わってほしい。料理はどれも本格的なフランス料理でありながら、素材そのものの味や食感が伝わってきて、濃厚さと軽やかさのバランスが絶妙です。中には和食なのかな、とさえ感じる軽やかに仕上げたお料理も。フレンチのフルコースに慣れていないシニア世代でも、無理なく完食できそうです。素材と技術に自信がなければ不可能なコース構成です。
全8室なので1日に宿泊できるのは8組だけ。ダイニングもプライベートな空間で、家族だけの時間を過ごせます。レストランに宿泊できるオーベルジュの側面がありつつも、温泉旅館のようなおもてなしを堪能できます。そんなホスピタリティもシニア世代との旅行には適しているかもしれません。お料理の説明はもちろん、ちょっとした世間話などでのスタッフの方との交流が楽しいのです。ときにはちょっとしたわがままをかなえてくれそうな懐の深さも。かしこまったレストランとは違うぬくもりを感じるでしょう。
写真上:三重県といえば伊勢えび! 新鮮な素材を本格的なフレンチで堪能できる。
館内には神聖な伊勢志摩の海水を使ったプライベートタラソプールがあるスパもあります。アメリカ西海岸のネイティブアメリカンが心身を整えていたというクレイ(粘土)を活用するなど、海と大地の恵みにより、体が持っている本来の力を引き出すトリートメントが受けられます。心と体に蓄積された不要なものを、ゆるめて、手放し、流す。そんなデトックスにより、生まれ変わったような気分になれますよ。
ミネラル豊富なクレイや海水によるケアは、血行とリンパの流れを良くし、循環を促します。スピリチュアルな賢島の気により、気持ちも晴れ晴れとし、力がみなぎってきそう。さらに客室内の温泉に入って体をほぐし、英気を養いましょう。
写真上:海を一望できるスパ。右手は伊勢志摩の海水に浮かび、心身を整えるタラソプール。
生まれ変わったように清々しく目覚めた朝は極上の朝食を。パンの香ばしい香りに包まれて幸福な気分になります。中でもパリッと軽やかなクロワッサンは絶品です。ウェルカムドリンクでもサーブされたアラン・ミリア(*)のネクタージュースで、ビタミンもチャージ。採れたて野菜のサラダやエッグベネディクト、フレッシュな果実やヨーグルトなど、それぞれの素材は、目利きにより厳選されたものです。バターはもちろんエシレです。そんなシンプルだけれど、上質を実現した朝食が味わえるのです。
光る海面を眺めながらの温泉も最高です。チェックアウトまでの時間を有意義に過ごした後は伊勢志摩観光へ。心身を清めたあとに参拝する伊勢神宮は、ご利益も倍増しそうです。
このようにラグジュアリーを極めたホテルなのですが、根底に流れるのは安らぎ。車いすでも移動しやすい館内、ゆとりある客室で、当時からユニバーサルデザインを意識していたのには驚きました。半露天風呂を擁する客室のある別棟には、車いすのままで利用できるトイレを備えた部屋もあり、スパや貸切露天風呂には階段があるものの、パブリックスペースはバリアフリー。事前に相談すれば、階段のないダイニングルームに案内してくれます。
創業当時に訪れたときにも「もし余命宣告されたら、最期の宿はここにしよう」なんて冗談交じりに語っていましたが、50代となった今、それを切実に感じます。贅沢でありながら、五感をゆるめ、心身を整える、神聖な賢島の宿。宿泊料は一泊10万円以上と高額ではありますが、大事な人ととっておきの時を過ごす、夢の宿として覚えておきたい場所なのです。
* アラン・ミリア…フランスはリヨン郊外で果樹園を営むアラン・ミリア氏が1997年より展開しているジュースやジャムなどの食品ブランド。厳選された果実を使ったジュースやネクターは、フランスの4つ星、5つ星ホテルや有名レストランの多くで利用されている。
ザ・ひらまつ ホテルズ & リゾーツ賢島
著者:間庭典子(まにわのりこ)
中央線沿線の築30年以上の一軒家に後期高齢者の両親と同居する50代独身フリーランス女子。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)「mc Sister」編集者として勤務後、渡米。フリーライターとして独立し、女性誌など各メディアにNY情報を発信し、「ホントに美味しいNY10ドルグルメ」(講談社)などを発行。2006年に帰国し、現在は日本を拠点に、旅、グルメ、インテリア、ウェルネスなど幅広いテーマの記事を各メディアへ発信。旅芸人並みのフットワークを売りとし、出張ついでに「研修旅行」と称したリサーチ取材や、さびれた沿線のローカル列車で進む各駅停車の旅を楽しむ。全国各地の肴を味わえる地元の居酒屋やスナックなどの名店を探すソロ活動も大好き。