日々の介護の中で、やらなければいけないことが目の前にあるのに、やる気が出ない。そんな無気力な状態になる と、「これはただの甘えだ」「現実逃避をしている場合じゃない」などと、自分を責めてしまう人もいるかもしれません。やる気が出ない =甘えとは限りません。無気力は、心や体に疲れがたまっていたり、何かしらの病気が原因だったりするケースもあるからです。放っておくと、心身の不調に発展しかねないので注意が必要です。

1. すべてをうまくやろうとして、自分を追い込んではいませんか?

 

まずは、「やる気が出ない」と感じている2人の 方のお悩み事例を取り上げながら、それぞれの原因や対処法について解説していきます。

【お悩み】
50代女性です。介護に仕事にと忙しい毎日を送っているのですが、最近、急に無気力になってしまいました。気分も落ち込み、何もする気になれません。どうしたらやる気が出るでしょうか?


●介護も介護も仕事も「ほどほど」を心がけてみましょう

「今やらなければまずい」とわかっていても、やる気が出ないことは誰にでもあります。それは心や体が発する疲れのサインです。近頃、残業が増えたりしていませんか? 体が疲れをため込むと、エネルギーが枯渇してしまうので、注意してくださいね。特に、この方のように、家事・介護・仕事のすべてをうまくやろう と、 無意識に自分を追い込みがちです。もし、「自分は頑張りすぎる傾向がある」と自覚しているようなら、家事も介護も仕事も「ほどほど」を意識してみましょう。

また、生活パターンが不規則になると、体や心に悪い影響が出やすくなります。例えば、睡眠不足が続いているときや十分に休養がとれないときなどは、日々の疲れをリセットしづらいもの。そして、心身に不調を残したまま次の日を迎えると……?  やる気を出すのは難しいですよね。加えて、食生活が乱れているときも、ベストな体調を保ちにくくなったり、エネルギーがわきにくくなったりします。やる気を出すためにも、時間を決めて適度に休むことや、バランスが整った食事をとることを心がけ、規則正しい生活を目指しましょう。

●意識的にポジティブな感情を引き出すようにしましょう


ストレス発散の時間がとれないような状態が続くと、「何もしたくない」という感情が膨れ上がってしまいます。そして、そうした感情に流されて何もしないでいると、「何もしない(できない)自分はダメな人間だ」と考え、「さらに落ち込んでしまう」というネガティブサイクルに陥りかねません。

そんなときは、思い切って別の行動を起こしてみるのも1つの方法です。例えば、深呼吸をしたり、笑ってみたりする だけでも、副交感神経が活発になりリラックス感がもたらされます。鏡に向かってポジティブな言葉を発してみるのもよいでしょう。「よし、今日も頑張ろう」「今日もいい日にするぞ」などの言葉を発することで、感情によい影響を与えることができますよ。言葉と同時にほっぺたを軽くたたくなど、体のどこかを刺激するのもおすすめです。

自ら進んで行動を変化させて、ネガティブサイクルを意識的にポジティブサイクルに変えていけば、「やる気が出ない」という状態も少しずつ改善されていくはずです。

●負担を減らせる対処法を探してみましょう
特定の物事に対してやる気が出ない場合は、取り組み方や対処法が合っていないことも考えられます。例えば、ある仕事に対してのみやる気が出ないなら、仕事の進め方に問題があるのかもしれません。あるいは仕事そのものの負担が大きすぎるというケースもあります。

そんなときは一人で悩まず、上司や先輩に相談するなどして、状況の改善を図りましょう。また、 例えば家事の中でも掃除が苦手と感じる人は、家族に頼んだり、ロボット掃除機を導入したりすることで対応しやすくなるかもしれません。それでもできないときは、「今は掃除に時間を割けない」と割り切ってしまうのも手です。「やる気が出ない」と悩む前に、自分の負担を減らせる対処法を 探してみましょう。

2. ストレス対策の基本は「気づき」と「セルフコントロール」


続いては、ライフスタイルが乱れたことでストレス状態が悪化し、やる気が出なくなってしまった事例です。

【お悩み】
40代男性です。このところ疲れやすく 、仕事にも生活にも気力がわきま せん。食事を適当に済ませ、休日は夕方近くまで寝ています。また、何か嫌なことがあると、頭痛がひどくなってきます。このままではよくないと思いますが、どうすればよいのでしょうか。

●基本的なライフスタイルを整えることからはじめましょう



ストレス対策の基本となるのは、「気づき」と「セルフコントロール」ですが、この方の場合は、すでに心身の変化や生活習慣の変化に気づいています。ですから、それに対して具体的な対策を立てていきましょう。

セルフコントロールにおいて大事なのは、基本的なライフスタイルを整えることです。自分でも気になっているとおり、食生活や起床時間など、基本的なライフスタイルの乱れはストレス状態の悪化に直結します。まずは、食事をきちんと楽しく食べることと睡眠を十分にとること、そして無理なく続けられるような運動習慣を持つことの3つを心がけましょう。これらのライフスタイルを整えれば、心身ともに健康に近づき、気力がわいてくるはずです。

なお、自身のライフスタイルが整っているかどうかは、下記の【ライフスタイル・チェック】で確認できます。日頃の生活を振り返りながら、当てはまる項目をチェックして ください。

【ライフスタイル・チェック】
<運動>
□ 仕事から離れて、いい汗をかいている(1日15分が目標)
□ 無理をせず、マイペースで運動をしている
□ 競技ではなく、楽しみながら運動をしている

<労働>
□ 仕事に意義や、やりがいを感じている
□ 働きすぎになっていない
□ 職場での人間関係がうまくいっている

<睡眠>    
□ 毎日寝つきがよい
□ 自分に合った十分な睡眠時間がとれている
□ 早寝早起きの習慣がついている

<休養>
□ 仕事の合間に定期的に休む時間をつくっている
□ 昼休みをしっかりとれている
□ 1日の中に、ゆったりとくつろげる時間がある

<食事>     
□ 1日3食、規則正しく食べている
□よく噛んで ゆっくり食べている
□ バランスのよい食事をとれている

チェック しなかった項目については、意識して改善するようにしましょう。なお、睡眠については、「早起き早寝」を心がけることが大事です。一般的には「早寝早起き」といわれていますが、早寝しようと眠くもないのに床につくと、目が冴えて眠れない、なんてことになりかねません。一方で、午前6時に起きるような早起きの習慣をつければ、午後11時ごろには眠くなります。「眠くなったら寝る」ほうが体にとって自然なことなので、ぜひ「早起き早寝」を実践してみてください。


● お互いに支え合える「サポーター」を増やすことも有効


ライフスタイルを整えるには、「運動」「労働」「睡眠」「休養」「食事」という5つの要素のバランスを整えることが大事です。そして、それには個人の心がけや努力が不可欠なのですが……中には「自分自身の力だけでは難しい」という人もいるでしょう。そうした場合は、サポーター(支援者)の力を借りることをおすすめします。家族やパートナー、友人はもちろん、同僚や上司、後輩など、サポーターを増やしてお互いに支え合えれば、ライフスタイルの改善がよりスムーズになるはずです。まわりから前向きなパワーがもらえれば、継続もしやすいでしょう。


もし、身近な相手に相談できない、相談するのがためらわれるという場合は、相談機関や産業医、産業保健スタッフ、精神科医、カウンセラーなどに相談することを検討してください。

3. まとめ

「今日は何もしたくない」と思うことは誰にでもあります。ですから、そのこと自体を重くとらえる必要はありません。とはいえ、「何もしたくない」状態がずっと続くと、不安になりますよね。また、「やる気が出ない」という状態が続くのは、心身の不調や疲れすぎを知らせる生体警報の可能性もあります。

心と体の健康を維持するためにも、まずは「なぜやる気が出ないのか」を探り、自分に合った対処法を試してみましょう。

4. 監修者のプロフィール

山本晴義(やまもと・はるよし)
(独法)労働者健康安全機構横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長。神奈川産業保健総合支援センター相談員。1972年東北大学医学部卒業、91年横浜労災病院心療内科部長、98年より現職。専門は、心身医学、産業医学、健康教育学。日本医師会認定産業医、日本心療内科学会認定専門医・指導医、社会医学系専門医制度専門医・指導医、日本精神神経学会認定専門医、日本職業・災害 医学会評議員。厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」委員。心療内科医として、うつ病を含む勤労者のストレス病に関する啓発・予防・治療・リハビリに精力的に取り組んでいる。数多くの著作や講演を通じて、現代のストレス社会の中でも生き生きと過ごすためのヒントを伝授している。著書は『ストレス一日決算主義』(NHK出版)、『ドクター 山本のメール相談事例集』(労働調査会)など多数。

この記事の提供元
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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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