日々の介護で忙しかったり、ストレスがたまっていたりすると、食生活が不規則になりがちです。「忙しい日は朝食を抜くことが多い」「イライラしているとつい食べ過ぎてしまう」といった人も多いのでは? そんなときこそ栄養バランスのとれた食事で心身を整えることが大事。食生活が乱れて栄養バランスが崩れると、逆にストレスを感じやすくなってしまいます。ストレスと食事の関係や、心の健康を維持するための食事方法について解説します。
仕事や家事に追われて毎日が忙しい、同僚や家族との間で意見の食い違いがあった、冠婚葬祭や自宅の改修などで予想外の出費が続いた…。私たちの身のまわりには、ストレスにつながる出来事がたくさんあります。そして、そうしたストレスがたまってくると、つい食べ過ぎてしまったり、逆に食が細くなったりして、体調を崩してしまう人も少なくありません。
ここでは、ストレス過多な人にありがちな「食のお悩み」を取り上げ、心身を健康に保つための食事方法について考えてみましょう。
【お悩み】
40代女性です。毎日の介護でイライラし、ストレスがたまると、菓子パンを食べ過ぎてしまったり、深夜にスナック菓子を食べたりしてしまいます。やめたいのにやめられず、そんな自分が嫌になります。どうすればよいでしょうか?
●ストレスからくる過食が、生活習慣病の原因になることも
食べることはストレスを解消するための1つの方法になります。その証拠に、多忙な介護の合間に甘いものを食べたり、一区切りした後に好物を食べたりすると、いつも以上に幸せな気持ちになりますよね。
このお悩みのように、お菓子を食べ過ぎてしまったりするのもよくある事例ですが、食べたいという衝動が抑えきれなくなったり、やめたいと思っているのに食べ過ぎてしまったりする場合は要注意。生活習慣病や過食症の原因になってしまうなど、心身の健康に害をおよぼしかねません。
中には、「ストレスが加わると、食事がとれなくなってしまう」という逆の現象が起こる人もいますが、ストレスに起因する「食べる」「食べない」は、限度を超えてしまわないことが何より大事です。食事は空腹を満たすためのものではなく、私たちが豊かな生活を送るうえでの土台となるもの。日常生活において、ストレスをゼロにするのが難しいからこそ、意識して食生活を整えたいものです。
●ストレスを感じたときに見直したい3つの食習慣
食生活が乱れて栄養バランスが崩れると、ストレスを感じやすくなったり、ストレスに弱くなったりします。「最近、ストレスを感じているかも」と思ったときは、次の点を見直してみてください。
①時間をとって、ゆっくり落ち着いて食べる
仕事や家事、そして介護と忙しい日々が続くと、食事を楽しむ余裕もなくなってしまいます。しかし、いくら忙しくてもパソコン作業をしながら、あるいはスマホを見ながらの「ながら食い」はNG。かむ回数が減ったり、満腹感が得にくくなったりするため、体に悪い影響をおよぼしかねません。忙しいときでもきちんと食事の時間を確保し、落ち着いて食べるようにしましょう。食事に集中してゆっくり食べることで、暴飲暴食も避けられます。
②1日3食を決まった時刻にとる
忙しい時期は、どうしても食事時間が不規則になりがちです。しかし、深夜に食べたり、長時間食事をとらなかったりするのは、体に負担をかけるもと。1日3食を決まった時刻にとるようにして、生活のリズムを整えましょう。
特に、朝食を抜く人は、夜に食べ過ぎてしまう傾向にあります。夜の過食や遅い時間に食事をする習慣は良質な睡眠の妨げや、肥満、生活習慣病を招く原因にもなるので注意してください。朝食は1日の労働を支える活力の源です。慣れない人は牛乳1杯からでもいいので、朝食をとる習慣をつけ、朝・昼・夜とバランスのよい食生活を目指しましょう。
③リラックスして楽しく食事をする
「食べる」という行為には栄養をとるだけでなく、緊張をやわらげたり、気持ちを安定させたりして、ストレスを解消する働きがあります。ストレスを感じているときは、自分の好きな食材を選んだり、気の置けない友人と食事をするなど、「楽しむ」ことを心がけるとよいでしょう。
ストレスと上手に付き合っていくには、「何を食べるか?」も大切です。健康食の代名詞ともいわれる日本食をピックアップし、その効果や食べ方について紹介します。
2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されて以降、日本食は日本人の長寿を支えるヘルシーな食事として、世界中で注目を集めるようになりました。海外における日本食レストランも、以前の2倍以上に増加しているといいます。
そうした中、日本食に対する研究も進み、メタボ予防やダイエット、がん予防などに有効であることが広く知られるようになりました。しかし、日本食のよさはそれだけではありません。実は、心の健康維持にも効果があるといわれているのです。
その一例として、日本で21歳から67歳までの男女約500人を対象に、日本食を含む3つの食事パターンにおける傾向の高さと、うつ症状との関係を調べた研究結果を紹介しましょう。
●「健康日本食パターン」:野菜や果物、大豆製品、きのこなどをよく食べている
●「動物性食品パターン」:魚介類や肉類、加工肉、マヨネーズ、卵などをよく食べている
●「洋風朝食パターン」:パンや菓子類、牛乳・ヨーグルト、マヨネーズなどをよく食べ、魚や米飯などの摂取が少ない
それぞれの食事パターンの「傾向が高いグループ」と「低いグループ」でうつ症状の有無を比較した結果、「健康日本食パターン」の傾向の高いグループは、最も低いグループに比べてうつ症状の人の割合が56%も少なかったそうです。
また、「健康日本食パターン」の傾向の高いグループでは、葉酸(ビタミンB群のひとつ)やビタミンC、ビタミンEなどのビタミン類の摂取が多かったことがわかっており、これらの栄養素がうつ症状割合を軽減したと考えられています。
ちなみに、葉酸は貧血の予防にも効果があり、妊娠中の胎児の成長にも必要不可欠な栄養素です。ほうれん草や春菊、菜の花、ブロッコリー、アスパラガス、白菜、レタスといった葉菜・花菜・茎菜類、大豆やそら豆、納豆などの豆類に多く含まれていますが、これらの食材は和食でおなじみのものばかり。つまり、日本食を食べる習慣がある人は、ごく自然に心の健康維持に役立つ栄養素を摂取できているわけです。
しかしながら、日本食の場合、低たんぱくになりがちな点に注意する必要があります。うつ状態になると減少するといわれる脳内の伝達物質セロトニンは、たんぱく質から分解されるアミノ酸(トリプトファン)から作られるので、心の健康維持にはたんぱく質も欠かせません。
また、はっきりとしたことはわかっていませんが、青魚に多く含まれるEPAやDHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸が、うつ症状の改善につながるともいわれています。そのため、日本食中心の食生活を送るときは、たっぷりの野菜とともに、肉・魚類も意識してとるようにしましょう。
日々の介護の中で「ストレスがたまっているかな」と感じたときは、規則正しい食事を心がけたり、ストレス軽減に役立つ栄養素を積極的に摂取したりすることが大事です。さらに、下記の項目にも配慮すれば、より効果的にストレスの解消ができるでしょう。
・睡眠を十分にとる
・毎日軽い運動を実践する
・仕事や介護から離れられる趣味の時間を持つ
・自然に親しむ など
とはいえ、急に生活のルールが増えると、それがイライラにつながったりしかねません。決して無理をせず、自分のライフスタイルに合ったストレス対処法を見つけることからはじめてみてください。
ただし、食事や生活スタイルだけでは対応しきれないほどのストレスを抱えてしまったときは、信頼できる人や専門医に相談することも必要です。さまざまな工夫を組み合わせながら、上手にストレスと付き合っていってくださいね。
山本晴義(やまもと・はるよし)
(独法)労働者健康安全機構横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長。神奈川産業保健総合支援センター相談員。1972年東北大学医学部卒業、91年横浜労災病院心療内科部長、98年より現職。専門は、心身医学、産業医学、健康教育学。日本医師会認定産業医、日本心療内科学会認定専門医・指導医、社会医学系専門医制度専門医・指導医、日本精神神経学会認定専門医、日本職業・災害 医学会評議員。厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」委員。心療内科医として、うつ病を含む勤労者のストレス病に関する啓発・予防・治療・リハビリに精力的に取り組んでいる。数多くの著作や講演を通じて、現代のストレス社会の中でも生き生きと過ごすためのヒントを伝授している。著書は『ストレス一日決算主義』(NHK出版)、『ドクター 山本のメール相談事例集』(労働調査会)など多数。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。