介護の日々の中で「家族の間に波風を立てたくない」「自分の意見が正しいかどうか自信がない」などの理由から、言いたいことが言えずにストレスをためこんでしまう人もいるかもしれません。対立を避けるために自分を律するのは悪いことではありません。しかし、それが何度も続くと、心の不調を引き起こしかねないので注意してくださいね。心の健康を保つための方法として日記と音楽を取り上げ、それぞれの効果や実際の活用術を紹介します。
ストレス対策において特に重要なのは、できるだけ早くストレスに気づくことと自分をコントロールして、ストレスをためないようにすることです。そして、そのための方法としておすすめなのが日記です。
日記は、人には言えなかったことを「自由に表現する場」でもあるため、書くだけでストレス解消につながります。また、日記に書いた内容を読み返すことで、客観的に自分と向き合えるので、ストレスに対処するためのヒントが見つかる場合もあります。
日記の書き方に特別な決まりはありませんが、次の4つに配慮しながら書いてみるとよいでしょう。
①ありのままに書いてみる
その日の出来事や、それについて感じたこと、考えたことを思いつくままに書いてみてください。そうすることで、自分の1日を内省することができます。つまり、日記を書くこと自体が自分を観察し、整理し、理解することにつながるわけです。
②「嫌な場面」と「そのときの気持ち」を書いてみる
その日に起こった「嫌な場面」と、そのときに感じた「気持ち」を書き出してみましょう。嫌な場面を思い出すと、「なぜ、あんなふうになったのだろう」「なぜ、こうしなかったのだろう」と、考えが堂々巡りしてしまいがちです。しかし、日記に書き出すことで、考えや気持ちが整理することができます。また、いったん書き出した後に視点を変えて考え直してみると、別の見方や感じ方ができるかもしれません。
③ユーモアを交えて表現してみる
対人関係のトラブルがあった日は、四六時中、相手の顔が浮かんできたりしませんか? そして、思い出すたびに、嫌な気持ちがぶり返したりもするものです。そんなときは、「自分の視点」ではなく「客観的な視点」で、事実を脚色ながらユーモラスに表現してみましょう。それによって嫌なことを笑い飛ばせたら、きっと心が軽くなるはずです。
④「よかったこと」「ありがたいと感じたこと」を書き出してみる
「一日の仕事や家事、介護が終わって1人になると、つい後ろ向きなことを考えてしまう」という人は、1日のよかったことや、ありがたいと感じたことを書いてみましょう。長文を書くのが苦手であれば、箇条書きで構いません。そうして日々振り返りを行っていると、「前向きな事柄」にスポットをあてるクセがつきます。そして、少しずつ考え方が前向きになっていくはずです。
ここまで、心の健康を保つための日記の書き方について紹介してきました。しかし、中には「日記のよさはわかったけれど、書いたことがないから続くかどうかわからない」という人もいるかもしれません。そんな人のために、日記を書くにあたってのコツや心構えについても紹介しましょう。
●あえて筆記用具を使って書く
日記はパソコンやスマホでも書けますが、あえてペンや鉛筆などの筆記用具で、紙に書いてみることをおすすめします。お気に入りの日記帳や筆記用具を使えば、気持ちが入りやすくなって、ストレス発散効果が高まりますよ。
●楽しみながら書く
「毎日、書かなければいけない」とノルマ意識を持ってしまうと、逆にストレスになりかねません。日記は、できるだけ楽しみながら書くようにしましょう。嫌な気持ちがぶり返したり、どんどん高まったりしないように、気持ちが「すっきりする」「落ち着く」「楽しいと感じる」ように、リラックスしながら書くことも大事です。
●自分の気持ちを中心に書く
対人関係について書くときは、相手が発した悪口や否定の言葉には深入りせず、自分の気持ちを中心に書くようにするとよいでしょう。相手の言動については、ひと呼吸置いてからユーモアを交えて表現するようにしてください。繰り返しになりますが、嫌なことを笑い飛ばせるようになれば、確実に気持ちが楽になるはずです。
続いて、音楽を使ったメンタルヘルスケアについてお話しましょう。音楽には、疲れた心と体をリラックスさせる効果が期待できるとされていますが、そこには科学的な根拠があります。
好きな曲を聴くと、心を安らかにするセロトニンというホルモンが分泌されるほか、ストレスホルモンの一種であるコルチゾルの分泌が抑えられるという実験結果があるのです。もちろん聴き方はみなさんの自由。通勤時に楽しんでもよいですし、帰宅後にリラックスタイムをもうけて、じっくり聴くのもよいでしょう。
とはいえ、イライラしているときや気持ちが沈んでいるとき、不安になったときなど、自分の精神状態によって聴きたい曲は違ってくるものです。状況に合った曲を選ぶことで、イライラや不安が緩和されると言われているので、下記に示した状況別の<おすすめ曲>を参考にしながら、最適な曲を選んでください。
①イライラを解消したいとき
なんとなくイライラする、心の中の怒りが収まらない、何かに八つ当たりしたい。そんな気分のときには、イライラに負けない激しい音楽が適しています。できるだけ大きな音で聴くとよいでしょう。
<おすすめ曲>
・ピアノソナタ第2番第3楽章/ラフマニノフ
・交響曲第6番「悲愴」第3楽章/チャイコフスキー
など
②うつな気分を晴らしたいとき
わけもなく気分が沈んでいる、なかなかやる気が出ない。そんなときは、エネルギーがもらえるような力強い曲を選びましょう。スピーカーを使い、体に音を浴びるような感じで聴くのがおすすめです。
<おすすめ曲>
・カンタータ214番/バッハ
・ピアノ協奏曲へ長調/ガーシュイン
など
③眠れないとき
安らかな眠りを得るためには、穏やかな気分になれる、ゆったりとした音楽が効果的です。できるだけリラックスした状態で聴きましょう。
<おすすめ曲>
・オーボエ協奏曲ハ長調作品452/ヴィヴァルディ
・「コンソレーション」3番/リスト
・「愛の夢」/リスト
など
④目覚めが悪いとき
不安や心配ごとがあると眠りが浅くなり、目覚めが悪くなることがあります。そんなときには、緩やかなテンポだけれど、明るいイメージの曲を聴くとよいでしょう。
<おすすめ曲>
・ペールギュントの音楽より「朝の気分」/グリーグ
・動物の謝肉祭(ピアノ編曲)/サン=サーンス
など
「最近、ストレスがたまっているかも」と感じたときは、できるだけ早く対処することが肝心です。今回紹介した日記や音楽を使った対処法は、誰でも手軽にできる方法なので、ぜひ実践してみてください。
なお、音楽は聴くだけでなく、歌うことでもストレス解消効果が期待できます。カラオケなどで、気の合った仲間と一緒に大声で歌えば、緊張感とリラックスの適度なバランスが得られ、自律神経によい影響を与えるはず。全身運動にもなるので、心身ともにすっきりしますよ。
山本晴義(やまもと・はるよし)
(独法)労働者健康安全機構横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長。神奈川産業保健総合支援センター相談員。1972年東北大学医学部卒業、91年横浜労災病院心療内科部長、98年より現職。専門は、心身医学、産業医学、健康教育学。日本医師会認定産業医、日本心療内科学会認定専門医・指導医、社会医学系専門医制度専門医・指導医、日本精神神経学会認定専門医、日本職業・災害 医学会評議員。厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」委員。心療内科医として、うつ病を含む勤労者のストレス病に関する啓発・予防・治療・リハビリに精力的に取り組んでいる。数多くの著作や講演を通じて、現代のストレス社会の中でも生き生きと過ごすためのヒントを伝授している。著書は『ストレス一日決算主義』(NHK出版)、『ドクター 山本のメール相談事例集』(労働調査会)など多数。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。