医療的ケアとは、日常生活で行われる医療的な援助行為のことです。この記事では、老人ホームで受けられる医療的ケアについて解説します。ぜひ参考になさってください。
老人ホームで提供される医療的ケアは、スタッフの職種によって異なります。
以下、それぞれの職種が行える医療的ケアについて解説していきます。
・介護職員が行える医療的ケア
・認定を受けた介護福祉士が行える医療的ケア
・看護師が行える医療的ケア
基本的に介護職員による医療行為(医療的ケア)は認められていません。
ただし、下記の医療的ケアについては、厚生労働省が「医療行為に含まれない行為」として介護職員による提供を認めています。
◾️介護職員が行える医療的ケア
(1)体温測定
(2)自動血圧計を用いた血圧測定
(3)口腔ケア
(4)つめ切り
(5)耳垢(あか)の除去
(6)パルスオキシメーターを用いた酸素飽和度の測定
(7)一包化された薬の内服介助
(8)湿布の貼付
(9)軟膏の塗布
(10)点眼薬(目薬)の介助
(11)点鼻薬の介助
(12)座薬の挿入
(13)すり傷・切り傷・やけどの処置
(14)自己導尿の介助
(15)市販の浣腸薬による浣腸(挿入部の長さが5~6cmで、40g程度までのもの)
(16)ストーマパウチ(※)にたまった排泄物の除去
※ストーマパウチ:人工肛門や人工膀胱に装着する袋のこと
このように、介護職員が行える医療的ケアは、日常生活におけるサポートが中心です。看護師が夜間に常駐していない老人ホームであっても、介護職員が上記の処置を行います。
ただし、介護職員が医療的ケアを行う場合には、以下の条件を満たす必要があります。
①利用者の状態が安定していること
②医師や看護師の経過観察が必要ないこと
介護職員は、利用者の状態を常に観察し、必要な場合には医師や看護師と連携しながら、適切な医療的ケアを提供します。
認定を受けた介護福祉士が行えるのは、以下の2つの医療的ケアです。
・たんの吸引
・経管栄養の管理
医療的ケアの中でも「たんの吸引」と「経管栄養の管理」は、研修を終了し、「認定特定行為業務従事者」の認定を受けた介護福祉士であれば実施可能です。そのため、日常的に上記の医療的ケアを必要とする方は、看護師または「認定特定行為業務従事者」の介護福祉士が常駐する老人ホームを選ぶと良いでしょう。
看護師は、医療の専門職であるため、介護福祉士と比べてより広い範囲の医療的ケアを提供することができます。
◾️看護師が行える医療的ケア
(1)たんの吸引
口から、もしくは鼻の穴から吸引カテーテルという細い管を入れて、たんを吸引すること
(2)経管栄養
胃や腸に空けた穴、もしくは、鼻に管を通して栄養をとること。看護師は、栄養剤の投与や管の接続などを行う
(3)床ずれの処置
床ずれや周りの皮膚をぬるま湯で洗う、薬を塗るなどの処置
(4)膀胱留置カテーテルの管理
自力で尿を出せない人の尿道からカテーテルを入れて、固定する処置。尿や皮膚、全身状態の観察も行う
(5)中心静脈栄養
中心静脈(心臓に近い太い血管)に留置したカテーテルから、体に必要な栄養素が含まれている輸液を体内に入れること
(6)インスリン注射
糖尿病患者に、決められた量のインスリン(血糖値を下げるホルモン)を注射すること
(7)摘便
直腸内で硬くなったために自力で出せない便を、肛門に指を入れて外に出す処置
(8)在宅酸素療法
専用の機械とチューブをつなぎ、鼻から直接酸素を吸うこと。看護師は機械の管理や利用者の体調観察などを行う
(9)人工呼吸器の管理
自力で呼吸ができない人が利用する、人工呼吸器の管理を行うこと
(10)ストーマパウチの交換
人工肛門や人工膀胱の袋(パウチ)の交換、周囲の皮膚の観察や処置
注意点として、対応できる医療的ケアは施設により異なります。そのため、日常的に医療的ケアを必要とする人は、事前に確認が必要です。
また、夜間に看護職員が常駐していない老人ホームも少なくありません。24時間体制で医療的ケアを必要とする人は、夜間対応が可能な老人ホームを選びましょう。
老人ホームでは、病院のような専門性の高い医療行為は行えないため、医療面での対応には限界があります。
また、対応できる医療的ケアも施設によって異なるので、専門的な医療的ケアが必要な人は、医療体制が手厚い施設を選ぶとよいでしょう。
医療的ケアを必要とする人が施設を選ぶときのポイントは、主に以下のとおりです。
・医療機関との連携状況
・看護師配置の有無
・看護師の人数
・看護師の勤務体制
・対応可能な医療的ケアの種類
病院やクリニックが併設されている、もしくは看護師が24時間常駐しているなどの施設が望ましいでしょう。
老人ホームで受けられる医療的ケアは、施設ごとに異なります。
介護職員が行える医療的ケアもありますが、さまざまな条件が必要であり、かつ専門的なことは行えません。
日常的に医療的ケアを必要とする人は、施設の医療体制を確認したうえで老人ホームを選びましょう。
監修者:中谷ミホ
イラスト:Freepik
著者:古賀優美子
北海道の2つの自治体で約15年間保健師として勤務。母子保健・高齢者福祉・特定健康診査・特定保健指導・介護支援専門員業務などを経験。その後、高齢者デイサービスセンターで5年間介護員として勤務。2021年4月から専業ライターとして活動を始め、主に介護福祉関連の記事を執筆する。