今や夏の脅威となっている熱中症。熱中症は、暑さが原因で体温の調節機能がうまく働かなくなっておこる体調不良の総称で、重症化すると命にかかわります。熱中症というと炎天下でおこるイメージが強いのですが、近年は高齢者を中心に、室内でおこるケースがふえています。今回は、帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長・救急医学講座教授の三宅康史先生に、高齢者の熱中症について、室内でおこるケースを中心に解説していただきます。

1. 気温が急上昇する梅雨明けに熱中症は急増

1年のうち、熱中症で救急搬送される人数がピークになるのは7〜8月ですが、6月下旬から7月にかけての梅雨明けには、すでに注意が必要です。この時期は、まだ体が暑さに慣れていない人が多いため、気温がピーク時ほど高くなくても、熱中症をおこしやすいのです。

 

しかも近年、梅雨明けに気温が急上昇するケースが多く、最初に気温が上昇した日に救急搬送される人が急増しています。熱中症対策は真夏になってからではなく、梅雨明けからしっかり行うことが大切です。

気温が急上昇する梅雨明けに熱中症は急増

2. なぜ室内でも熱中症を発症するの?

消防庁の統計によると、2023年5〜9月に熱中症で救急搬送された人は全国で9万1,467人で、調査開始以来2番目の多さでした。年齢区分で最も多いのが高齢者(65歳以上)で約55%を占め、発生場所で最も多いのは「住居」で約40%となっています。

 

室内の熱中症の発生原因としては、室温や湿度の高さ、風通しの悪さといった環境要因に加え、とくに高齢者は、暑さを感知する機能や体温調節機能が低下するほか、のどの渇きに気づきにくく水分補給が不足しやすいことがあげられます。

 

熱中症は晴れた日の屋外でおこるとは限りません。気候変動や都市化などの影響もあり、現在ではむしろ室内でおこるケースが多いこと、倒れても発見が遅れ重症化しやすいこと、とくに高齢者はそのリスクが高いことを知っておき、しっかり対策を講じましょう。

なぜ室内でも熱中症を発症するの?

3. 高齢者が苦手なエアコンは、昼夜を問わず積極的に使用を

熱中症による救急搬送者に占める割合以上に、死亡者に占める高齢者の割合は高くなっています。2021年の東京都保健医療局(東京都監察医務院)の統計では、東京23区における熱中症による死亡者の8割以上は65歳以上の高齢者です。注目すべきは、そのうち約9割がエアコンを使っていなかったことです。

 

一般的に高齢者には、エアコンを敬遠する人が多く見られます。理由としては「体に悪いと思っている」「加齢によって暑さを感じにくくなっている」「電気代がもったいないと思う」などがあげられます。

 

家族やケアをする人は、「熱中症は命にかかわる恐ろしい病気」「昔と今とでは熱中症の常識が異なり、室内でも危険」「エアコンなどを適切に使えば避けられる」といった点を、高齢者によく説明することが大切です。

 

現代では、夏のエアコンは体に悪いどころか、逆に使わないと命の危険もあることを理解してもらいましょう。そのうえで、暑い日には室温28℃以下を目安に、昼夜を問わずエアコンを使うことが重要な熱中症対策になります。

 

エアコンが苦手な高齢者には、風が直接当たらないように風向きを調整したり、窓を少し開けて冷気を逃がしたり、部屋を仕切るドアを開けて広めの範囲に冷房を効かせたりといった工夫をしましょう。

 

夜間のエアコンが苦手で「つけたまま寝たくない」という場合は、寝る前の時間帯から寝室にエアコンをつけて十分に冷やしておき、寝るときに切るのも一つの対策です。また、除湿機能だけでも汗が蒸発しやすくなるので体を冷やすのに役立ちます。

高齢者が苦手なエアコンは、昼夜を問わず積極的に使用を

4. 温度・湿度計、扇風機やカーテンの利用で室温を下げる

エアコン以外にも、以下のようなさまざまな熱中症対策を実践しましょう。

 

●温湿度計を見やすい場所に置く
とくに高齢者は暑さを感じにくくなっているので、温度計の数字で確認することが大切。湿度計も兼ねていると、さらに便利です。温湿度計は見やすい場所に置いてチェックし、室温28℃以下・湿度50〜60%を目安にエアコンなどで調整しましょう。

 

エアコンの設定温度と実際の室温は違うので、きちんと温度計でチェックしてください。また、湿度は高くても70%を超えないように注意しましょう。

 

●扇風機やサーキュレーターを活用
エアコンとともに扇風機やサーキュレーターを使って空気を循環させると、室内の温度ムラがなくなり、効率よく部屋全体を冷やせます。部分的な冷えすぎを防げるので、エアコンが苦手な高齢者にもおすすめの方法です。扇風機やサーキュレーターは、エアコンの風下の低い位置にエアコンと向かい合わせに置き、頭を上に向けるのがコツ。高齢者に風が直接当たらないように気をつけましょう。

 

●カーテンやブラインドなどを利用
日差しが強い時間帯はカーテンやブラインドで日差しをさえぎり、室温の上昇を防ぎましょう。

 

●外からも日光を遮断する工夫を
庭やベランダに面した部屋で、日差しや照り返しが強い場合は、外からすだれや植物で日光を遮るもの効果的です。

 

●窓とドアなど2ヵ所を開けて風を通す
エアコンをつけるほどの暑さでないときや換気をするときなどは、窓やドアを1ヵ所でなく2ヵ所を開けて効率よく風を通しましょう。

温度・湿度計、扇風機やカーテンの利用で室温を下げる

5. 家族が気づいてサポートすることも必要

高齢者は、暑さや水分補給の不足を感じにくいので、家族やケアする人が声かけすることも大切です。エアコンや扇風機などを適切に使っているか、室内の温度や湿度が適切か、水分をこまめに摂取できているか、普段と違うところはないかなどをチェックしてください。

 

高齢者のいる家に通ってケアしている別居の場合や、同居でも家族などが日中出かけて高齢者が家に1人になる時間帯がある場合は、可能であれば熱中症になりやすい暑い時間帯に電話をかけ、エアコンなどを適切に使えているか確認するとよいでしょう。

家族が気づいてサポートすることも必要

6. まとめ

気候変動や都市化などにより、熱中症の常識が変わり、昔の感覚が通用しなくなっています。とくに日本では、梅雨明けに気温が急上昇したときに熱中症による救急搬送者が急増すること、その多くは高齢者で、かつ室内でおこっていることを知っておきましょう。

 

また、熱中症による死亡者の大半を占めるのも高齢者で、そのほとんどはエアコンを使用していなかったという事実もあります。家族やケアする人は高齢者に気を配って、死につながりかねない熱中症を防ぎましょう。

 

 

この記事の提供元
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著者:三宅康史

三宅康史(みやけ・やすふみ)
帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長・救急医学講座教授
1985年、東京医科歯科大学卒業、同年東京大学医学部附属病院救急部。1986年、公立昭和病院脳神経外科・救急科(ICU)・外科 研修医~医長。1996年、昭和大学病院救命救急センター助手。2000年、さいたま赤十字病院救命救急センター長・集中治療部長。2003年、昭和大学医学部救急医学准教授、2011年、昭和大学病院救命救急センター長、2012年、昭和大学医学部救急医学教授。2016年、帝京大学医学部救急医学講座教授・同附属病院救命救急センター長、2017年、同高度救命救急センター長、現在に至る。『医療者のための熱中症対策Q&A』(日本医事新報社)、『現場で使う!!熱中症ポケットマニュアル』(中外医学社)など著書多数。

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